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飯時論争の始まり

毎日更新のはずが飲み会で早くも穴が出来てしまいました。

 荷物の受け入れがすべて終わり、将太が借りることが出来たバカでかい部屋がようやく彼のいつも過ごしていた部屋らしくなった。

 マンションの一室と聞いていたためそこそこ大きい部屋をイメージしていたのだが、二階まであるとは思っておらず二階に続く階段を見た時はさすがの将太も度肝を抜かれた。


「金持ち半端ねーな」


 皐の部屋を掃除していた時は階段があることに気が付かなかったが、知っていればもっと別の掃除のやり方もあったかもしれないと思いついた。が、すぐにその二階も惨状になっていることを想像して頭を振った。仕事が増えるだけである。


「……マンションの部屋っていうより、家だなこれ」


 正直落ち着かない。今まで五人で生活していたあの家よりも大きい部屋かもしれない部屋に一人きりというのはなかなかそわそわするものだと将太は感じた。

 と、そんなことを考えていると部屋のドアがノックされた。誰だろうと思いつつドアを開けると、なんだかものすごくギラギラな西部劇に出てきそうな服に身を包んだボビーがカッコいいポーズを取りながら立っていた。


「大将、飯時だぜ!」

「本当にここ朝晩出るんだね」

「イエス! 一流のシェフが手塩にかけて作り上げるブレックファーストとディナーは格別、舌を溶かす芳醇の結晶サ!」

「やっぱりお前日本語堪能だな! 日本人の俺が日常的に使わない単語がゴロゴロ出てきやがる」

「それはそれ、今はディナーが重要だぜい! さあ行こう! 食堂は最上階、十階のホールさ!」


 将太は正直このアホみたいにバカでかい施設に意味があるのか疑問に思った。もう少しこぢんまりと作れなかったものかと。

 しかしそれは恐らく庶民的な感覚の話、金持ちはデカさにこだわるという事なのだろうかと無理やり納得するしかなかった。


「あ、将太さん! ……とボビーさん」

「さっきぶり。皐ちゃんもこれからご飯?」

「はい! 一緒にご飯を食べたいなと思っていましたが……、ご迷惑そうですね」


 将太の姿を見た皐は嬉しそうに手を振ったが、ボビーの姿を確認すると途端に消極的になってドアの陰に隠れてしまった。


「ハッハッハッ! ブラザーズ、案ずるな! 寝た子を起こすような真似はしないサ!」

「ブラザーズってお前、あの子は女の子だぞ。あとお前マジで頭いいだろ。馬鹿そうにふるまってるけど」


 ボビーは親指を立ててサッと去って行った。恐らく内気な皐が行動しやすいように空気を読んだのだろうと将太は感づいた。面白黒人枠っていうか、イケメン黒人枠の間違いではないだろうかあいつ、と将太はその背中を見送った。


「……将太さん。行きましょうか?」

「ああ。そうだな。……ところでお前のねーちゃんは?」

「お姉ちゃんはご飯時、いつも早いので……」

 何となくそんな気はしたと将太はあの破天荒な姿を思い出した。


 さて、二人はエレベーターで最上階まで昇ると何とも空腹を誘う匂いが将太のお腹を襲った。


「す、すげーいい匂い……、家じゃ絶対に食えないものとかがありそう」

「そう、だな、ゼェゼェ、ここには、食の、至宝が、揃っているから……」

「って、ボビー!? なんでそんなに汗だくなんだよ!」

「なに、お前たちに、エレベーターを譲るべく、階段で、サンバを踊ったまでよ……」

「もうメキシコもアメリカも関係ねーな! と言うか、二階から登って来たのか!」


 出会って一日と立っていないがこのボビーと言うキャラを将太は把握しつつあった。

 少なくともとんでもなく頭のネジがおかしい事だけは確かだった。


「……ふう、腹ごなしも完璧ダ! さあ席に付こうぜブラザーズ!」

「お、おう」


 ボビーに案内されるがままに先を進んでいくと広いホールにたどり着いた。そしてそこではすでに何人かの人が食事をすでに始めていた。その中には将太の見たことのない人もちらほらといた。


「ん? なんですかその庶民オーラを滲ませる男は」

「オリガさんも聞いての通り、新入りさんですよ」


 桜間時子と同じテーブルを囲んでいる初対面の人は将太にこれまたかなり高圧的な視線を向けた。あのグループは金持ちガチ勢かと少し将太は萎縮した。


「私はオリガ・ミハイロフ、庶民、名乗りなさい」

「お、俺は光根将太、です」


 オリガ・ミハイロフと名乗った女性は何とも美しい銀髪に滅茶苦茶気高そうな顔立ち、そして正直将太を超える高身長を兼ね備えた外国人であった。彼女のイメージはそのまま気高い銀狼と言ってもいいほどにプライドが高そうな見た目をしていると将太は感じた。姉妹たちとかなり似通った空気に将太はオリガに苦手意識を持った。


「そう、では庶民、せいぜいこのマンションを楽しむことね」


 しかし、高圧的な言動とは裏腹に対応は優しかった。時子もオリガを眺めながらくすくすと笑っており、もしかしたら彼女は無理をしているのかもしれないとなんとなく将太は悟る。


「はい。これからお世話になります」

「将太さん、あっちの席に座りましょう」

「ブラザーズにワタシも賛成だゼイ!」

「お前、結局俺達と一緒に食うのな」


 気を使ったのはエレベーターの中だけかと思いつつも、やはり新しい環境でこれくらい親身になってくれるキャラはありがたくもあった。


「んあ? おー大将じゃん! こっち座りなよ!」

「悪いがお前の妹が先約だ。と言うか大将ってあだ名被ってるぞ、ボビーと」

「いいじゃん。ボビーとあんたが会話してるの聞いてそう呼ぶことにしたんだから」


 どうやら、玲は部屋から飛び出てくる前からボビーとの会話を聞いていたらしい。抜け目のない奴である。

 と、考えていると突然将太の目の前に一人の男が立ちはだかった。

 その人は将太が今日、マンションに入る前に出会ったイケメンである。

 そのイケメンはじっと将太を見つめ続けた。

 もしかして目をつけられた? と将太は不安に襲われるのだった。


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