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世間知らずだけど可愛いから問題なし

「お疲れ様です……。すっごい綺麗になりました! 魔法みたいです……」

 と言いながら部屋をとたとたと皐は走り回っていた。

 よっぽど綺麗になったのが嬉しかったのだろうと思いつつ、将太は地面に寝ころんでいた。


「つ、疲れた……」


 膨大なゴミの数と、散乱する下着類を真っ赤になって回収する皐の妨害により将太は予想以上に疲弊していた。

 しかし達成感はあった。この腐海を静かの海に転生させたくらいの達成感だった。


「将太さん、お茶をどうぞ。パックですけど……」

「いただくよ。ありがと……、う……」

「将太さん?」

「……皐ちゃん? パックだよね? ティーパックだよね?」

「はい!」

「じゃあなんで茶葉がそのまま入っているの?」


 将太はマグカップの中を皐に見せた。が、皐は何がおかしいのか分からないようで首を傾げた。

 試しに彼女のカップの中を見てみると、やはり同じように茶葉がぶちまけられていた。


「こういうものでは、ないんですか?」

「僕に一回作らせて! こうはならないから!」


 数分後、将太はいつも通り紅茶を作って持ってきた。何も特別なことはしていない。パックを入れてお湯を注いだだけである。

 が……。


「すごい! ちゃんとした紅茶になってる!」

「驚くところそこじゃないよ! なんで自分が出来ていなかったかを驚こうよ!」


 世間知らず、そんな言葉の範囲を飛び抜けるくらいには彼女はアホの子であるようだった。


「なんだ。お姉ちゃんのやり方が間違ってたのか」

「お姉ちゃん直伝かよ! お姉ちゃんお部屋見るの超怖いよ!」


 この突き抜けた知識は姉直伝だと知って将太はひっくり返った。これから共同生活をしていく仲間だが、下手をすれば姉たちの世話よりも厳しい戦いになるのではと予想が頭を過ぎった。


「なんでも出来ちゃう……、私の事も分かってくれる……、将太さんは魔法使いですか!?」

「やだこの子、天然も入ってるわ……」


 目をキラキラとさせる天然娘に将太は思わずげんなりとした。今までどのように生活していたか、聞くのはとても恐ろしい。


「……ま、まあこの辺りは後々覚えていくとして、はい」

「……呆れました? 失望、しました?」


 すると、将太の表情を伺うように皐がおどおどしながら話しかけてきた。将太はその様子を見てちょっとだけ微笑ましい記憶を思い出した。

 それは妹が初めて家事を手伝ったときの失敗談なのだが、将太はぐっと胸の奥にしまい込んだ。


「まあ、呆れはした。けどそれは失望ではないよ。君は世間知らずのお嬢様のようだけど素直で可愛らしいし、物覚えもよさそうだ。これから頑張って取り返していけばいいさ」


 ポンポンと軽く頭を撫でてやった。兄としての属性は家を出てここに来るときに全部放り投げてきたはずなのだが、やっぱりこういう妹オーラを出す子を見るとどうしても兄貴面したくなる性分なのが将太であった。

 少し恥ずかしそうに皐は俯いてされるがままになっていたが、やがて嬉しそうに表情を緩ませた。


(ああ、この素晴らしい感触にいつまでも浸っていたい……)


 将太は何とも言えない甘い空間にデレデレになっていた。

 が、時計の時間を見て我に返った。


「あ、もう部屋に行かないとな。残念だ。非常に残念だ」

「え? もう少しいませんか? もっとお話とか……」

「ごめんね。荷物が来るから無理かな。夕飯ってみんなで食べるんだよね? ならその時にでも」


 将太の言葉に皐は軽く頷いた。

 世間知らずだが、このマンションの中ではかなりの良心になるなと将太はこれからの生活を想像した。


「じゃあ、行くね」

「うん……。また夕飯時に……」


 皐に見送られながら将太は自分の部屋に向かった。


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