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遊びに行こう

 次の日、天気予報通り快晴となった。


「え? 将太さん、出かけるんですか?」

「うん。欲しいものがあるから買い出しにね」

「欲しいものがあれば戸羽さんに言えば、取り寄せてもらえますよ?」

「自分で吟味したいからさ。趣味なんだ」


 朝食も屋上のホールで取るという話を寝起き早々マラカスを持ち出してきたボビーに言われ、半ば叩き起こされて将太は朝食を取っていた。現在は六時半、ずいぶんと速い時間である。


「なに? 大将今日どっか行くの? 私もつれてって!」


 早朝からテンションの高い工藤家の姉の方はベタベタと将太に張り付いてくる。それを妹は無言で引きはがしに掛かっていた。


「ダメ。お前が来ると滅茶苦茶になりそうだし、先約がいるからな」

「先約? もしかしてオリガ?」

「……そう言えばオリガどうした? いないようだけど」

「もうとっくの昔にご飯済ませてたけど。随分楽し気な感じだったから今日は何かあるなと思ってたけど……」


 玲は口元をいやらしく歪ませるとニヤニヤと将太を見た。


「お手が速い事で~、皐だけではご不満でしたかな~」

「変な勘繰りはやめーい! あいつから俺の手伝いを申し出てきたんだよ!」


 本人がアニメ好きという事をばらしたくないと思っている以上、建前として自分が手伝ってもらうことにしていた。

 が、玲は気が付いているのかニヤニヤとした表情を崩そうとしなかった。

 そして、皐と幸作はなんとも不満そうな表情をしていた。


「……分かったよ二人とも! 今度皐は今度一緒に遊びに行こう! 幸作はよりにでも付き合ってやるから!」

「本当ですか? 約束しましたからね!」

「わし感激! マンジョンの仲間と野球談議の夢が叶う!」


 工藤家の二人組はよっぽどうれしかったのかかなりはしゃいでいた。そしてその様子を玲と、そして康永は少しだけ笑顔をこぼしながら眺めていた。

 将太は玲はともかく、康永が笑ったことに少しだけ驚いていた。


「……康永、お前無表情ではなかったんだな」

「俺に構うな」


 いつもの返し、しかしいい加減なれたので将太は苦笑いを浮かべつつも頭の中で勝手に好意的な言葉に変換した。


「ま、そう言う事だ。食事も済んだし行くぞ」


「「「いってらっしゃい」」」


 将太は工藤家三人に見送られながら自分の部屋に戻った。


 そして時間は七時半を回ったあたりになった。そろそろ出るかと準備を整えた将太は荷物を持って玄関の方まで歩いて行った。

 途中、お腹を出しっぱなしで一升瓶を抱いて眠るオーナーが目に入ったが、怠惰の妖精が現れたのだろうと無視した。

 玄関を出ると、三十分も前だというのにオリガはビシッと整った服装で立っていた。


「……早いっすね」

「…………」

「どったの?」

「……来るのが遅いわ」


 何だか怒ったような口調でオリガはそう言い放った。そして将太は察した。玲はとっくの昔にオリガは朝食を追えたと言っていたので、その後すぐに玄関前に移動してずっと待っていたのだろう。


「遠足前の小学生じゃないんだから……、今ですら三十分前だぞ?」

「だって! 私は今日初めて漫画を買うの! 今までアニメだけを見ていたけど、初めて漫画処女を捨てられるのよ!?」

「処女って、大げさな……」


 可愛い顔してなんという爆弾発言をと将太は思ったが、彼女の育った背景を考えると仕方がないかと納得も出来た。


「ま、行こうか。電車乗るけど、経験ある?」

「ないわ。そんな庶民の乗り物」

「ですよね~」


 まずは電車の乗り方と、痴漢とかの事から教えないといけないのかと思いつつ将太は駅に向けて歩き始めた。


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