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キノコたけのこ戦争のような不毛な戦い

 陣営って何だよと思いつつも、あまりにも真剣な顔つきの一同の前に質問するのをいったん将太は取りやめる。


「……実はね。私たち、暇を持て余し過ぎて『いただきます論争』と言うのをやっているのよ」

「本当に暇人だな! ……で、それってなに?」

「いただきますは必要か否か、その是非を論議するだけよ。で、あなたはなぜいただきますをしたのかしら?」


 やけに真剣な表情で時子は将太に詰め寄った。詰め寄るほどの事かと思いつつも、聞かれたからには答えないわけにはいかないのが将太の性分であった。


「……美しいと感じたから」

「……どゆこと?」


 予想外の回答に玲は首を傾げた。

 将太はつづけた。


「何も言わずに、ただ飯を食うのは犬でも出来る。でも、人は食べることに感謝してご飯を食べる。いただきますを言うことが、感謝をすることが出来る。俺はその美しさに惹かれたからこの言葉を口にする。……まあ簡単に言うとマナーだ」


 途中までカッコいい事を言っていたが、最後の一言で全て台無しになった。

 が、一同はそんなことはお構いなしと言ったようで将太の話を聞き入っていた。


「う、美しい? それだけの理由で?」

「うん。あと、マナーなので。なんか綺麗じゃない? こう、食べる前に気持ちを落ち着けていただきますが出来るってさ」

「言われてみればそうかも……」


 時子は納得したように息を吐いた。

 将太は正直ちょろいなと思った。


「でも正直あれじゃん? 私たち、お金払ってるから言う必要ないんじゃない?」


 玲は納得がいかないようであった。


「玲、別に俺は強要しているわけじゃない。これは人それぞれの問題だ。……ただ、すくなくとも俺はこの言葉に美しさを感じている。要はマナーだ」

「……そう言う事ならいいけどさ」


 玲はふて腐れたように顔を背けた。

 すると、時子とボビー、そして皐が遅れながらも手を合わせていただきますをした。それに遅れて康永も。


「はぁ!? ちょ、裏切るの時子!」

「ごめんなさい。私、犬と思われるのは癪なの。あなたはせいぜい自分の道を行きなさい」

「ワタシこだわりないけど、郷に入れば郷に従え。日本以外では食事の前に祈りを捧げたりもしますしネ」

「お姉ちゃんと同じ扱いは嫌。……上手く出来ました?」


 やけに姉に辛辣な皐は将太を上目遣いで見上げた。将太は取り敢えずよく出来たなの意味も込めて頭をなでなでとしてやった。


「ちょっとぉ! 私が悪者みたいじゃないの! オリガはどうなの! 答えなさいよ!」

「わ、私!? ……私はお祈り派だから関係ないわ! でも強いて言えばいただきます派ね」

「分かりました~! 私もいただきます教に改宗します~」


 最後の仲間にも裏切られ、涙目になった玲は泣く泣く自分の信念を捻じ曲げた。

 別に無理することないのにと将太は思った。


「……じゃあじゃあ、将太は好きな物から食べる派? それとも最後に残す派?」

「バランスを見ながら適度に削りながら食べる派」

「なんじゃそりゃあああああああ!? 反則よ反則! 普通は好きなものを最後にするでしょう!」


 再び平和となったマンションの最上階に戦乱の狼煙が上がろうとしていた。玲はバシバシと机を叩きながら将太に抗議した。


「……私も将太さんと同じです」

「裏切ったな妹よ! お前この前までは私と同じだったじゃないか!」


 ここでも姉妹は決裂、衝突は避けられなくなった。

 そしてほかのメンバーはというと……。


「私は事前に食べるわ」

 と時子。


「ワタシも事前に食べます!」

 とボビー。


「後に食べます」

 とオリガ。


「……俺に構うな」

 分からない康永、はっきりとしてほしいと思う将太であった。


「ばらけたな」

「将太さん、上手いまとめ方あります?」

「正直な……、これはきのこたけのこ戦争並みに決着のつかない論争だろう。というか、決着をつける必要ないのでは?」


 好きな時に好きなものを食えばいいんじゃね? と正直将太は思った。しかし自勢力を拡大せんとする玲は聞く耳を持たなそうであった。他はどうでもいいと言った感じの表情をしていた。


「……まあ、それぞれに似合うファッションがあるように食べ方も千差万別という事で」


 結局、この論争は解決を見ないままお蔵入りとなったのであった。


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