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野営地での攻防戦

 「さて君の処遇だが……。どうしたものかな。さっきの私とクレアのやり取りから分かるように我々は今、重要任務の真っ最中でね。他のことには気が回せないんだ。すまんね、バタバタしていて。そうだな、あとは君はこの野営陣地内ならどこにいってもいいぞ」


マテウスが俺の顔を見てふっと笑う。初めは神経質なイメージを受けたが、少し違うかもしれないと感じた。


「分かりました。ご迷惑かけて大変もうしわけないです」


俺はそう言い、自分自身の手を胸に当てた。

オーガの返り血を浴びた胸にだ。妙に生々しい感触がある。


「アリオン、アリオンいるか?」


マテウスが野営の入口に向かって、大声で叫ぶ。


「はっ、アリオンここにおります」


入口から生真面目そうな体格のいい男が入ってくる。眉毛は太く、口もでかい。


「おっ、アリオン。今日も貴公は清々しいな。このハヤト殿にここのことを色々と教えてやってくれ」


マテウスが自分より2回りもでかいアリオンに命令する。


「承知いたしました。お任せ下さい」


そう言ってアリオンが俺の方を見てにこりと白い歯を見せて笑った。


「ハヤト殿、このアリオンは、私が信のおける数少ない部下の一人だ。困ったら何でも聞いておくれ。では頼んだぞ、アリオン」


そういうとマテウスはこの野営の奥の別室に入っていった。


「はっ」


そういうと俺とアリオンは、マテウスの野営から出て行った。見れば見るほどでかい。この野営地はこの野営の数だけの人がこの戦いに参加しているはずだ。こりゃとんでもない数だぞ。俺は想像するだけで恐ろしくなる。逆を言えば、これだけの人数を割かなければ勝利を得られないということであろうか。


「ハヤト殿。どうですか?この壮観なる野営の数は。これだけの兵が様々な想いを心に秘めて闘っております。」


アリオンは左から右へと数えきれない野営を見つめながら言った。


「ええ、ああぁ。すごい数ですね。これだけの人数を導入する規模の戦いということは対する相手は一体どのような相手なのですか?」


俺は聞いてはいいのかどうか迷ってはいたが、命の恩人のクレアも参加する戦いでもあるので、少しでも知っておかなければいけないと思い、聞いた。


「相手ですか。相手は竜人王ギュインドゥアン。最強にして最凶の竜人族の王ですよ。」


苦虫を潰すかのような表情でアリオンは言った。


「ギュインドゥアン……。」


俺の中に刻まれたその名前は、この後俺の生き方に凄く馴染みのあるものになるのは近い未来の話。今はこの対峙している相手を自分の中で名前からイメージするしかないのであった。


「人族と魔族が戦っているのはわかりますよね?」


アリオンが俺に確認するように聞いた。


「ええ、クレアからも聞きました。戦っている理由は分からないけど、そこは色々とあったんでしょうね」


俺はクレアが話していたことを思い出しながら言った。


「ええ、まぁ。その話をするともうかなり年月が遡ってしまいます。確か始まりは……」


アリオンが丁寧に説明しようとすると

「あぁ、大丈夫ですよ。今はこの現実で起きている出来事の情報を知るのが先決ですし」


俺は彼を制し、言葉を遮った。明らかに話が長くなるだろうし、今のこの状況下では再優先で話す内容ではなかったからだ。


「了解です。では聞きたくなったら聞いて下さい。人族が優勢に進めていたのですが、このギュインドゥアンの存在が露わになってからは攻防が一進一退になりました。ギュインドゥアンの凄いところは個の武も凄いのですが、異常に頭が切れることです。どこかで損をしても、必ず他で挽回してくる感じで。そのせいで手を焼いているのです。」


ここで一旦アリオンは説明をきった。ふぅと軽くため息を付いている。


「アリオンさん、大丈夫ですか??」


俺のために長い説明をしているアリオンを気遣いながら聞いた。


「大丈夫。少し説明に熱が入ったようですな。大丈夫です。続けましょう。しかし、今回でそれももう終わりです。叙々に叙々に攻めて、ギュインドゥアンを追いこんだんです。奴の住む根城がすぐそこにあります。」


するとアリオンが指差す方向を見ると、そこには雷雲に隠れていた建造物が一瞬顕になった。


「あの中にギュインドゥアンはいる。あとはやつを討伐すれば、ここにいる魔族達も追い出せる」


アリオンの言うとおりに話が進めばの話だが、

そううまくいかないのが、戦いというものだと俺は思う。偉そうだと思われるかもしれないが、実際問題、倒した場合の戦後処理やそれだけのカリスマを殺したとなると、残党狩りで敵と戦うときはより、一層気を付けないといけない。


「今回その奴の根城に突入している本隊には君と同じ、異国の地から来た人達もいる。現在のこの国の状況を聞いたら、その事情を理解してくれた上で戦いに参加してくれたよ」


アリオンは思い出している。俺の前にここにやってきた異国の人達を。


「同じ異国の地から来た人なら会ってみたいな。そして今のその人の達の心境が聞きたい」


俺は未だ見たことのない、勇者達の姿を想像する。


「君も彼らのようになるかもしれないよ。そういう潜在の能力はあるんだからさ。そして仲間と旅をする。そうすれば、自然と絆は深まるしね。おっ、話が脱線したね」


アリオンは謝りながら言った。


「まぁ、そのギュインドゥアンを倒せば、まず当分の間は人族は安泰ってことさ」


簡潔にまとめるとアリオンが言いたかったのはこのことである。


「僕は何も力を持たないし、自分が強いとは思いません。……ただ元の世界に帰りたいだけです」


そう、次回があるかどうか分からない未来でと俺が考えた時だった。

ドゴンっ!!!

何か爆発するような音が聞こえ、野営地の一部が吹き飛んだ。地面が音を立て、揺れている。砂埃が起き、視界が遮られている。

何だ!?一体何が起きた?

気が動転はするが、ここは自陣の最奥部であるため、少しは安心している気もある。


「アリオンさん」


俺が隣のアリオンを見る。


「結界師は何をしているんだ!?ただちに結界を張り直させろ!」


アリオンはすぅうと呼吸をし、砂埃のむこうを見ている。

明らかなる異変。

何かがこの野営に起きているのか。


「ぐあああああああ!!」

「ぎゃああああああ!!」


男達の断末魔の悲鳴が聞こえ、それから沈黙が訪れる。

ベチャクチヤ……。

音が聞こえる。

何だこの音……。

砂塵が次第に薄れ始める。


「結界が張り直されたのはいいが、ちっ」


アリオンが苦渋に満ちた顔で音のしているほうを睨みつける。

クォォォォォォォォンン!!

耳の鼓膜をつんざく咆哮音。

類まれなる巨躯、またその巨躯に付いている翼。一はたきすれば、暴風が起こるが如きだ。

身体を覆うこげ茶色の逆鱗は類まれな硬度を誇る。

頑強な顎と口に付いている牙は全てを喰らい、その牙を例え逃れたとしても発達した前足による鋭利な爪で引き裂かれる。


「アリオンさん!!」


俺が隣りにいる偉丈夫の名前を呼ぶ。


「ハヤト殿、貴方は満足に戦えないだろう。マテウス様の元に行き、マテウス様を頼む」


アリオンが切迫した声で俺に言った。さっきまでにこやかに話していたのがまるで嘘のようだ。周囲にはマテウス同様、偉丈夫がたくさんいる。いずれも歴戦の雄達だ。皆が兜を被り、全身を一つの武器にし、構える。結界に侵入したのは複数頭だ。

なんでだ、ここは安全じゃないのかよ。おかしいだろ。こんな本陣に潜入してくるなんて。

俺の焦りもマックスになっている。

完全に砂埃が晴れた。


「やれやれ、やはりな」


巨躯を揺らしながら竜が姿を現した。


「久々の人肉と決め込んで期待して食べたんだが……まじぃ!」


口元に真っ赤な紅色の人間の血液が付いている。


「答えろ。お前ら、まともなもん食ってないだろ!!えぇ、お前らを食うこっち側にもなれってもんだろうが」


激しく憤り竜は発狂する。

訳分からんわ。そもそもお前に食われるためになんでこっちが食べ物の選別しなきゃならんのだ。あまりの傍若無人の意味不明な振る舞いに心中では反論が生まれてくる。しかし、やはり誰も竜に対して返答する者はいない。。


「だんまりかぁ……だんまりかぁ。そいつはあんまりぃいいいい……あんまりだぁああああああああ!!」


竜の声が周囲に木霊した、周辺の野営の一部が宙に浮かぶ。

なんだ、これは?

どす黒い光が竜から放出された。凄まじい衝撃波が放出され、周囲の皆がその場に立っていることさえままならない。

俺もそんな竜の凄まじいパワーに驚きを隠せない。


「はっはっは。食べ物の恨みは怖いし、恐ろしいぞ」


竜がほくそ笑んだ。


「全員、臆するな。相手はたった一匹だ。圧倒的にこっちが有利だ」


アリオンが自分自身を鼓舞するかのように全員に言った。だが全員がそうは信じていない、そんな雰囲気が流れている。


「皆、俺に続け!!」


アリオンが自慢の愛剣を抜き、自分より、数倍でかい竜に向かっていく。

鎧を着用したアリオンの足からは特有の音が鳴り響く。

竜が動いた。右手、左手と、鋭利な爪を立て、アリオンに襲いかかる。もう少しで直撃かに見えた。しかし爪がアリオンに当たることはなかった。竜のふところに入り、渾身の一撃をお見舞いしようとした。がしかし、それは懐を守る竜族の罠かもしれない。強靭な尾がアリオンに向けて放たれていたのだ。


「!?」


アリオンは途中でその尾の存在に気が付き、

自分で攻撃を避けた。その直後、そのアリオンがいた位置に凄まじい勢いで振り下ろされた。その爪あとは地面をえぐるように突き刺さっている。

あんなの食らったら死んじまう。

逃げよう。俺の心にそんな言葉が過ぎった。でもぶるって中々足が動かない。こんな世界に勝手に呼ばれ、なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだ。俺は戻りたい、戻りたいだけなんだ。

くそっ。

逃げたい気持ちもあるがクレアやアリオンの笑顔が心のどこかによぎる。


「せいやああああ!!」


そんな時だった。アリオンの咆哮が聞こえた。

竜の懐に接近し、渾身の一撃を放ったようだ。

鋼のような竜の鱗に傷が付いている。

あの強大な大きさの相手に……。

俺の目にはアリオンの背中が映る。


「餌の癖にほえるじゃねーか。だがここからは本気だ。マジでブチ殺す」


一撃をもらった竜が刺々しい言葉でアリオンに向かって言い放つ。


「それはこっちの台詞だ。敵本陣に来てただで帰れると思うなよ。」


アリオンも負けじと言い放つ。


「さっさと食われろ!」


竜はその大きさとは異なり、俊敏な動きでアリオンに向かって襲い掛かってくる。しっぽを使用した高速の早い攻撃。アリオンはその攻撃を盾では受け流し、剣ではうまくさばいていなす。

その盾と剣にかかる重量は並の重さではないはずだ。それでもアリオンは戦う。何が彼を奮い立たせているのか。


「アリオンさん……」


俺の視線はもうアリオンから離せないでいた。

ここにいるものの大半が皆見ていたと思う。


「彼は何故立っていられると思う?」


突然、横から声がして見てみるとマテウスが立っている。


「仲間のためですか?それとも国のため?」


俺はそう答えるが

「それもあるかもしれんが、彼の立っている理由は簡単だ。絶対にこの戦いは負けられないからだ。未来のために戦い、紡ぐ戦いだ。」

マテウスが言う。この戦いは本当に人族にとって重要な戦いなのだと感じた。

「未来のために……か」

俺の心にも何か訴えてくるものを感じ、俺はアリオンの背中を見ていた。

あんな巨大な竜を前にしても一切怯まず、常にどんな人よりも前に立っている。故に彼の背中しか拝むことが出来ないのだ。

アリオンが動いた。決して早くはないが、それでも十分速い。相対している竜に対して、突き進んでいく。竜は待っているかのようだ。


「こおおおお!」


アリオンは左手で何かしている。あれは以前どこかでみたような気がする。

確かクレアの魔法と同じ。

するとアリオンが握っていた剣に薄い透明な膜が出来、そこには風が渦を巻いてるのが分かる。風の刃。


「行くぞ!!」


アリオンはその風の刃を竜に浴びせた。竜は

やばいと感じたのか、あの巨大な翼を閉じて貝のように、自分の身を守っている。

風の刃が竜の翼に炸裂した。斬撃に殺傷能力の高い風魔法を追加した。

アリオンは相手が防御していることなぞおかまいなしに振り切った。翼にも強固な鱗はあるが身体に比較すると、それは強固とは言えなくなる。

鮮血が流れる。もちろん竜のものだ。

翼の損傷箇所からとめど無く、ぽたりぽたりと血液がしたたり落ちている。

竜が傷を負った。それだけで十分。血を流すなら誰にでも殺せるということだ。


「皆の者、感心している場合ではないぞ!!」


マテウスの声が野営地で響き渡った。

その声が聞こえた騎士たちの顔つきが変わる。

戦場の空気感が変わったのだ。

凄い、一声でこうまで変わるなんて。

自分の隣にいる男の凄さをまじまじと痛感してしまう。


「アリオンだけに任せるな。我々の一人一人がこの難関にぶち当たらなきゃならん。賊が潜入したのはここだけではないだろう。さっさと散開しろ。そしてそれぞれの騎士としての務めを果たせ」


全部言われる前に男達は持ち場に戻っていった。


「舐められたものだな、おい!!。この俺に対して残ったのは3人だけかよ、おい、大丈夫なんだろうぁ。お前らの未来は俺の腹の中だ」


竜の男が叫んだ。確かにこの男の言うとおり、俺を含めた3人で大丈夫なんだろうか?

俺は少し不安になってきた。

たしかにこのマテウスとアリオンが強いと言っても、それは人としてのレベルだ。

自分としてはこの2人がともに闘い、ようやくぎりぎりの勝負な気がする。


「大丈夫?フンッ、自分の心配をしたらどうだ?」


マテウスは笑う。マテウスの顔は指揮官というより、今や武人と化していた。いや若かりし頃に戻っていると表現したほうが正しいかもしれない。

この状況下で笑うとはこの人は。

俺はすこし呆れる。視線を移すとアリオンも何だかが嬉しそうだ。


「アリオン、久々にやってみるか」


マテウスが意味ありげに言った。


「承知。マテウス様と戦場で一緒に戦えるなんて久々だ。」



アリオンは嬉しそうに笑った。


「喜んでいる時間はないぞ。支援は任せて全力でことに当たってくれ。ボスへは最短の距離でな」


マテウスが指摘する。


「よし、マテウス様の支援があるのなら俺も本気が出せる。さて……行くか!」


低姿勢で竜にむかって構える。当たり負けなどしないように。


「おおおおおおお!」


咆哮とともに突っ込んだ。支持通り最短の距離でだ。竜は最短距離で突っ込んでくるアリオンを叩き潰そうとするが、身体に異変が起きた。それはマテウスの仕業だった。独特の詠唱をしている。一体何がおこるのであろうか。竜の身体を地面から現れた大きな大樹の根が抑えこんだ。それはそれは太い根が複数である。


「馬鹿な……霊木樹だと!?身体が動かん!まさか……お前は?」


竜はその根に完全に自由を奪われ拘束された。

動ける要素は何もない。


「人だ、飯だと馬鹿にしているからこうなる。今一度言う、お前に見える未来は死だ」


マテウスがそう言うや否や、アリオンの裂帛の風の太刀の一撃が、竜の身体を真っ二つに切断していた。斬られた竜のその時の断末魔の悲鳴は野営地にしばらく残響として残っていた。



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