五球目、イヴハストゥール・プロ野球特別ドラフト会議 後編
ようやくドラフト会議終了です。
本当はもうちょっとあっさり行く筈だったんですが…。
※活動報告にも書きましたが、コメントありがとうございました。
少しでも楽しんで読んでもらえるよう頑張ってまいりたいと思います。m(_ _)m 2016/10/4
聖王リーグの最後の爆弾、ナカルショックによって俺はその後に続く、魔王リーグの代表者による説明をほぼ上の空で聞いていた。
頭の中で可能な限りのツッコミが浮かび。ゾンビが聖王側ってなんだよ魔王側だろ、とか、あの契約金で生活できるのかよとか、スライムに性別ってあるのかよ、どうやって見分けるんだよと、とりとめがない。
意識を取り戻したときにはもうすでに、魔王リーグの最後のチーム代表者が説明を始めようとしていたところだった。
その説明を聞きながら、ツッコミで占められた脳の片隅に、わずかに残る魔王リーグのチーム情報をなんとか引き出すことに成功した。
…えーと、チーム名はこうだったはずだ。
確か、北荒バーバリアンズ、東険ファルコンズ、イビタがスコアラーを務める南島バッツ、海洋クラーケンズ、深掘ブルズ、の順だったと思う。
契約金や年俸は、おおよそ聖王リーグのタイタンズと同等の金額。出来高については上の空だった為か、詳しくは覚えていない。バッツとクラーケンズが何か言っていたと思うから、機会があれば後で確認しておこう。
印象に残っていることを挙げるとすれば、バーバリアンズは辺境の蛮族主体の、わりとオーソドックスなスタイルのチームということ。同じ人間だから馴染み易そうではあるが、代表者と同じあの毛皮の服を着なければならないんだろうか。
ファルコンズはかなり異色で合成魔獣や合成獣人の集まり。要はキメラだと言われたから理解ができた。しかし、合成獣人だけはイメージがつかない。それに、俺のイメージだとキメラって四本足だったと思うんだ。どうやって野球するのだろうか。どこのチームに所属するか分からないがそのうち顔を合わせるだろう。
バッツはイビタが言うには種族はまちまち。女性が選手のほとんどを占めると言っていた。
ただ、女性という言葉で俺の脳内は、再度ナカルショックに襲われることになった。その後は何を言っていたか良く覚えていない。
そしてブルズ。
もう、牛。牛人間。魔王様がとか言っていたのをかすかに覚えているだけだ。魔王ってここのチームと仲がいいのかな。これも後々分かるだろ。
想像するにファンタジー的に見ればこいつらはミノタウロスという種族であり、強靭な体躯を持っている。どうもそれを生かした、攻撃的なチームなのだろうと予測をつけた。
いよいよ魔王リーグ最後の代表者が説明を始める。なんて言うかこいつは異様だった。どうあがいても勝てる気がしないとかそういった類の、ある種畏れとか格の違いというものを持っていた。
俺が意識を取り戻したのも、目の前の代表者のそういったものを敏感に感知したのかもしれない。それに、トゲトゲしい仮面とマントを羽織っている。
どう見ても悪の総帥とかそういった出で立ちだ。
妖しげな格好で高圧的なオーラを纏ったそいつが、仮面を脱ぎ棄て声高に叫んだ。
「ふはははは、我は破壊魔将軍チェルシー!、もう一度言うぞチェルシーである!」
マントを翻すその姿は、乏しい頭髪と豊満な二段腹を持つ、厳つい肩書のやたらとかわいい名前のおっさんだった…。
このおっさん、もといチェルシーの所属するチーム、魔都グリフォンズはとんでもない強さを誇っていた。
10年連続イヴハストゥールの覇者、豪打を誇るタイタンズですら昨年の覇者戦では手も足も出なかったらしい。
覇者戦は余興、なんて言ってたからお祭り気分でやってたんだろとタイタンズのガバグロを見ると、苦々しい貌でチェルシーを睨みつけていた。どうやら本気でやって負けたみたいだ。声に出さなくて良かったぜ。
そして、誰も文句を言わないのを良いことに、いかに自分のチームが優れているかを雄弁に語る。
説明を聞くに従って、グリフォンズが並々ならぬ実力を持ったチームであると知るに至った。
ただそれは、すごいといったものではなく、どちらかと言えば卑怯といった感想を俺に持たせた。
それは選手全員が魔王軍のなんらかの幹部だったからだ。
要するにRPG的にいうとこの、小ボス中ボスのオンパレードなのだ。一般的にボス達というのは、いわゆるザコに比べて圧倒的に能力が高い。恐らくこの世界にもそういった能力格差があるのだろう。
高校球児である俺に身近な例でたとえると、強豪校に一年でレギュラーになれて、エースで4番みたいなやつらがごろごろしているってことだ。実績を見ればこの妙にうざったいおっさんも相当の実力を持っているのだろう。
暫く自慢話のようなチーム説明をしていたが、最後にチェルシーはおまえにくれてやる金は、魔王金貨20枚が契約金、10枚が年俸だ!と言い放ってさっさと椅子に座ってしまった。
ぐったりとした俺を見たジョージは、暫く様子を伺っていたが話を進めた。
「ではそろそろ次にいこうかと思いますが、ショータさんまだ質問はありますか?」
「あ、すまん。もう少し教えてくれ。」
と進行を一時的に止める。これだけはどうしても聞かなければならない。
「この世界の貨幣の価値を教えてくれ。金貨何枚で何が買えるとかでいいからさ。あと、聖王金貨と魔王金貨って言ってたけど違いを教えてくれ」
甦りを前提とする以上、チーム所属よりも優先すべきことを俺は聞いた。人間として生活するからにはこれは当然だ。
「そうですね、コープスのような一部の地域は違いますが、おおよそ聖王金貨40枚くらいで一人が住むには充分な家が買えます。普通に生活する分ですと、年で金貨5枚程度でしょうか。ああ、言うのを忘れてました。選手には専用の宿舎が用意されてますので、そちらを利用したらどうでしょうか?食事も出ますよ。」
と提案してくれた。ジョージいいやつだな。できることならお前のチームに入りたいよ。
俺は納得し、そうさせてもらうよと返した後、進めてくれと促した。
俺の返しに頷いたジョージはやおら真剣な顔になり、この場にいる一同を軽く見渡す。そして、
「お待たせしました。皆さんお待ちかねのクジ引きを行います。」
と宣言した。
先の椅子と同様、いつの間にか出現していた箱に、代表者たちは各々紙切れみたいなのを入れている。
球団側が当たりを引くスタイルの日本のドラフトと違うのか?という疑問があったが、黙っておくことにする。異世界なんだし色々とやり方があるのだろう。
11人が入れたのを確認し、最後にジョージが懐から同様の紙切れを入れ、何回か大きく振って俺に差しだした。
「ショータさん、これは魔法によって作られた箱です。この中から一枚引いてください。それがあなたにとって強く願うチームです。」
「一枚引けばいいんだな。」
何気なく手を箱の中に入れ、もそもそと中を探る。
「それがショータさんの所属するチームです。」真剣な眼差しで俺に言う。
え、マジでか。入りたいとこ考えないと。
俺も真剣になって色々と思い悩みながら、中を引っ掻き回す。どうかアイアンナイツに、最悪グリフォンズでもいい、頼むからコープスだけは!
願いながら回した手の中に、紙きれが収まる。何か確信めいたものを感じた俺はこれだと意を決し、それを引き上げた。
手のひらに収まる程度の小さな紙切れ、そこには焦げ跡のような、虫喰いのような小さな穴があった。
これ何処のチームだと思いながら、紙切れの端を摘まみながら皆に見せる。
10人がおお、とどよめく。チェルシーだけがちらりと一瞥し、つまらなさそうにプイと横を向いた。
総勢11人、そう”11人”が驚くだけで喜ぼうともしない。俺の血の気が引く。
唯一、喜び、飛び跳ね、とてもじゃないが人としてカウントしたくない物体が俺の目の前にいた。全身の力が抜け、愕然とする俺の心を代弁するかのように紙切れが、はらりはらりと木の葉のように舞い落ちていった。
ふぅ、とため息を一つつき、
「おめでとうショータさん。それにしても妬けちゃうわね。」
イビタが消沈する俺の肩をぽんと叩いた…。
「イ、イヤァァアアアアァァァァアーーーーー!!オウチ返シテェエエェエーーーーー!!」
叩かれた拍子に、心のダム決壊を起こした俺は、死後初めての悲鳴を上げさせた。
「これでショータさん獲得による、イヴハストゥール・プロ野球特別ドラフト会議を終了させていただきます。入団おめでとうございます。敵同士になってしまいましたが、いい勝負をしましょう。」
淡々と会議の終了を宣言し、ニコニコと祝辞を送てきたジョージのその言葉は俺の耳には届かなかった。
災厄の日と心に刻まれたこの日、この時、俺の昇陰コープス入団が決まったのであった・・・。
ついにショータの所属球団が決定。
所属先はチーム名を決めた際、サイコロ振って決めました。
魔王リーグも色々設定がありましたが、
だらだらと説明文が続くのもどうかと思いカットしました。