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私、幽霊です!  作者: 黒華夜コウ
四章:類が変なの呼んで来た
92/152

P.92

「本当は今日もその人が渡しに来る予定だったんだ」

「……来れなくなったのかい? 風邪?」

 少し、微かにだが反応が見えたか。

 いいや、まだ何とも言えない。言わせたいならもっと切り込むべきだ。

「少し前から……」

 和輝は、紡ぐ言葉を一つ一つ拾い上げるように発し、言い留まった。

 小鳥遊は一月前から大学に来ていない。事実をそのまま伝えると矛盾が生まれてしまう。

「……()()()()、誰かにずっと見られてる感じがしたんだってさ。それで最近休んでる。小鳥遊君……何か知らない?」

 小鳥遊は顔を伏せている。

 その事に、和輝は首を傾げた。

 即答、出来ても良さそうな質問を選んだつもりだ。

「その……鈴鳥さんって、どんな人?」

「え? そうだな……」

 伏せたままの角度から小鳥遊に聞かれて、和輝は舞の方を向いた。

「ちょっと気が弱そうで……身長はアタシと同じくらい?」

 舞が指を折りながら鈴鳥の特徴を連ねる。

「インドア系って雰囲気もするし、風が吹いたら倒れそうって感じ」

 何だか、話を逸らされていそうな気がする。

 相槌のように頷きはするが、話の核心には距離を置く。小鳥遊の質問にはそんな曖昧さが見える。

「その人……そんなに、ヤバいのか? あ……追い詰められてそうって意味でさ……」

 和輝の喉を生唾が通り過ぎる。

 敵意は感じられない。答えようによっては話は流されそうだ。

 この話題が終われば、和輝達もいよいよ帰らざるを得なくなるだろう。

「いや、ヤバいって言うか……」

 もしもわざと距離を置こうとしているなら、多少強引でも良い。

 詰め寄るなら、今が最大で最後の好機だ。

「視線を感じた時に振り返ったら、小鳥遊君っぽい人を見たって言っててさ……ハ……変、だろ」

 罪悪感で、和輝の胸は締め上げられそうだった。

 ここに居ない人間の名を使って話を騙る事も、友人を疑う真似をしている事にも、自分の方が悪事を働いているようで、現状はその通りだったからだ。

 今、目の前に鏡を差し出されたら自分はどんな酷い顔をしているのだろうと、和輝は心底自らが嫌になる。

「……何、それ」

 怖い。

 小鳥遊からの返答が怖い。

 テストの答案を返却される時よりも、高校の時に担任のローテンションから始まるホームルームよりも、ずっと、ずっと遥かに。

「僕、ここ最近ずっと家に居たんだぞ? どうやって見るんだよ」

 小鳥遊は、力が抜けた様に笑いながら言った。

 駄目、だったか。

 校庭に出た彼の霊との関係、その答えに迫る言葉を得られなかった落胆を感じると同時に、彼の笑い顔にホッと胸を撫で下ろす。

「そう、だよな。ハハ……悪りぃ。鈴鳥さんも体調悪そうで、さ」

 小鳥遊からの返事は無く、困ったように笑ったまま伏し目で黙ってしまった。

 これで駄目なら、もう聞けるような事は無い。

 良いのだ。少なくとも、鈴鳥紗枝との関係性は薄くなった。その事だけでも他の三人に伝えておこう。

「行こう、本条さん、もり……」

 危うく二人目の名前を言い掛けて、和輝は冷や汗を掻きながら冷静さを装った。

 ずっと一緒に居るせいか、否応無しに彼女の存在を認識してしまう。

 説明云々は置いておくとして、見知らぬ三人目が勝手に家に居たとなればいい気分はしないだろう。

 身体の内側から抓られた気がして、和輝は心の中で夏樹に謝っておいた。

「じゃあ、今度来る時はちゃんと持って来るから」

 黙ったままの小鳥遊を後ろ目に、玄関に揃えた自分の靴に足を突っ込む。

「キミも体調悪そうだし、お大事にね」

 舞はバッグを肩に掛け直すと、小鳥遊に振り返って笑顔を向けた。

 和輝が玄関扉に手を掛ける。

 次は皆との合流だ。場所は駅前のカフェだった筈。

「……僕もさ」

 扉が半分開きかけたところで、小鳥遊は突然口を開いた。

「相談、されてるんだ……ごめん」

 和輝と舞がその声に振り返る。

「ごめんって……え、何がだよ」

「鈴鳥さん、体調悪くしてるって聞いて……何か、僕のせいな気がしてさ」

 舞が和輝と小鳥遊の顔を見比べて、小鳥遊に対して問うた。

「相談って鈴鳥さんから?」

 小鳥遊は、未だに何か躊躇う様子を見せながら、舞に顔を向けるとゆっくり息を吸い込んだ。

「いや……別の人だよ。籠飼って人」

 和輝と舞が互いに顔を見合わせた。

 二人の目が写し鏡のように大きな丸を描いている。

「なっ……!」

「嘘でしょ!?」

「えぇッ!?」

 思わぬ名前が飛び出して来た事に、小鳥遊の家に三人分の驚愕した声が響く。

 三人分。

「……今、なんか……?」

 舞とも和輝とも違う声に、小鳥遊は小首を傾げた。

 舞がゆっくり和輝に向き、ゆっくりと和輝の口を手で押さえる。

 そこを押さえても無駄だぞ、とは、舞の手によって言う事が出来なかった。

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