表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、幽霊です!  作者: 黒華夜コウ
三章:噂をせずとも奴は来る
63/152

P.63

「まぁそれは冗談として」

 自分の言葉が言い終わると同時に夏樹は言い改める。

「何処かに惹かれる部分が有ったんですよねぇ。ほら、磁石みたいな」

「それ説明になってんのか?」

 理由にしては強引だな、と和輝は感じる。

 それ故に呆れ顔もして見せたが、目の前の少女にはそれが効かない事も何となく察してしまった。

「惹かれ合うS極同士、みたいな!?」

 夏樹は自信満々に言い放った。上手い事を言ったつもりか。

「反発してんぞ」

「オムライスにケチャップみたいな!」

 これに関してはただの個人差だ。

「磁石で良いから戻って来い」

 冷静に返し終えた和輝は、一先ずベッドから降りる事にした。

 このまま言い合いをしていても埒が明かない。気がする。

 であるなら、先にやるべきは自分の整理だ。

「何処に行くんですか?」

 夏樹は、自分の目の前を通り過ぎて箪笥の中を漁りだした和輝に訊ねた。

「シャワーだよ! お前に追いかけられっぱなしでそのまま寝ちゃったからな」

「うへぇ、汚ぁ」

「誰のせいだ」

 下着、シャツ、タオル。

 一通り両手に鷲掴んで洗面所へ向かった和輝は、何故かすぐ後ろに気配を感じた。

 振り向く。目が合う。疑問しかない。

「……何でついて来てんだ?」

「あ、いえ。やっぱりお邪魔出来ない感じですかね?」

「出来る訳……」

 手荷物を棚の上に勢い良く置いた和輝は、洗面所の引き戸を思いっ切り握った。

「ねーだろ!!」

 壊れんばかりの速さで、和輝と夏樹の間に扉がスライドした。

「冗談です……」

 夏樹の言葉は閉まった拍子の音に紛れて掻き消えてしまった。

 磨硝子でも何でもない視界遮断の為の扉だ。

 こうなっては、向こう側からの微かな音しか情報が入らない。

 暇だ。と夏樹は天井を見上げた。声に出したところで汗を流すまでは出て来ないだろう。

 ならば家探しだ。と夏樹は思った。

 大人しく待っていよう、とは思わなかった。

 夏樹は目ぼしい物を探して辺りを見回してみた。

 乗り込んでみた相田和輝の部屋は、まさに男の一人暮らし、といった感じだった。

 玄関に入って正面と左右に扉。正面はそのままリビングに繋がっていて、右はトイレ、左は洗面所。

(あまり広くはないなぁ……)

 リビングへの扉を抜けると、すぐ左に中型の冷蔵庫が佇む。コンロも有るからここがキッチンだ。

 何の気無しに冷蔵庫の中を覗いてみたが、これといった食材が入っていない。ジュースや使い掛けの調味料が冷やされている。

 試しに下段の冷凍庫を開けてみると、冷凍食品がギッチリと詰まっていた。

 基本的な食事はこれなのだろうと初訪問の夏樹でも察しがつく。

 冷蔵庫の上に乗っかっている電子レンジは、ほぼ毎日稼働しているに違いない。

 そのキッチンから見渡せるリビングには、極めて質素な物しか置かれていなかった。

 テレビ、クッション、丸テーブル、ベッドに本棚。

 何と味気無い部屋なのだろう、と夏樹は勝手に落胆した。

 本棚を上から下まで見ても『面白そうな』タイトルは一冊も無い。

 次に定番のベッドの下を覗いてみたが、定番の物は存在しなかった。

 一息吐いて、夏樹はベッドに座る事にした。

 購入したばかりだろうか。弾力が心地良い。

 そのまま横になってみる。うん、矢張り良い。いつもの土の上とは大違いだ。

 微睡んでくる瞼の中で、夏樹はベッドの反対側の壁が押し入れになっている事に気付いた。

(お、あそこに何か有りそうですね……)

 しかし、ベッドの魔力から離れられない。

 次第に身体から力が抜けていくのを感じた彼女は。

「おい」

 シャワーを終えた和輝に、ベッドの枕をそのまま顔面に叩きつけられたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ