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私、幽霊です!  作者: 黒華夜コウ
六章:日向の中で彼女は笑う
152/152

P.152【完】

「すっごい今更だけど、生きてる人とこうやってお話するのって、和輝さん達が初めてなんです!」

「本当に、今更だな……?」

「私を怖がらなくって、普通にお話もしてくれて、仲間にも入れて貰えて……だからね!」

 夏樹は、一際大きく息を吸って、真っ直ぐに和輝を見ながら肺に溜めた言葉をぶつけた。

「私、和輝さん達の事……大好きだよ!!」

 不覚にも。

 少しだけ恥ずかしそうにした満面の笑みに、和輝は一瞬見惚れてしまった。

 もし、幽霊じゃなかったなら。

 そんな事も過ぎるが、そんな『もしも』は存在しない訳で。

「おぉい、和輝ぃ!? テメェ昨夜のうちに何があったぁ!?」

「何もねぇよ、誤解すんな!!」

 身近な友人は五月蠅い訳で。

「ねぇ、舞。ちょっと思ったんだけど……夏樹ちゃんを写真に撮ったらどうなるのかしら?」

「奇遇だね、まひろ。アタシもちょっと思ってた。夏樹ちゃんに似合う服、何だろうって」

 もう目先の事しか考えてない人間もいる訳で。

「和輝、何か遭ったらカミーラに来い。料金分の面倒は見てやる」

 さり気無く商売も持ち掛けられる訳で。

「……本当にこの先大丈夫だろうな」

 などと不安が零れる和輝を見て、夏樹もまた思うのだ。

 あぁ、本当に退屈はしなさそうだな、と。

「とりま、服買いに行こーよ夏樹ちゃん!」

 舞の手に握られた携帯には、画像一覧で表示されている『この夏のファッション!』。

「あ、じゃあこの前ミッター? っていうのに上げてた舞ちゃんの服みたいなのが良いです!」

 早速、最初の役目が回って来そうだ。

 買い物一つにしたってどうしても和輝は付き添いになってしまう。

 だが、重い腰を上げようとした和輝とは真反対に舞の身体は固まっている。

「……そうだ、忘れてた。こないだ上げた画像、消してない……」

「あ、あのメッチャセクシーな写メまだ見れんの!? ちょっと待ってもう一回見るから!」

 瞬が急いで携帯を弄り出す。それに対する舞の行動も早かった。

「いや、ダメ! 消すから待って、見ないで!」

 舞の腕が瞬に伸びる。瞬が必死にそれを避けながら画面をタップする。

 すったもんだの末に、二人の腕が優弥の鼻先を掠めた。

「うおっ!? 危ねぇな、あっちでやれ!」

「だって……舞ちゃんが、さ……!」

「キミが離して、くれれば……! 良いだけじゃん……!!」

「ほら、そんなに暴れると携帯が飛んでっちゃうわよ?」

 保護者の視線で見守っていたまひろの警告も空しく。

「だぁっ!?」

 舞が突き出した手に当たった瞬の携帯が、勢い良くすっぽ抜けた。

 放物線、なんて緩い軌道ではなく、まるで殺傷能力を備えたように回転を交えて夏樹の方向へ飛んでいく。

「ヤバ、ごめん夏樹ちゃん! 避けて!」

「あ、大丈夫です! 私、透けれるんで!」

 確かに夏樹の余裕は正しい。そこに居たのが夏樹だけならば。

 瞬と夏樹の直線状に、和輝が座っていなければ。

「おい、そこで透け……痛っでぇ!!」

 顔面に。

 和輝の顔の中心に、綺麗に携帯が直撃した。ダーツなら拍手が起こっていただろう。

 途端、静まり返る面々。

 最初に言葉を発したのは『大丈夫です!』の余裕顔のまま振り返った夏樹だった。

「……あ、じゃあ、帰って来たらご飯宜しくお願いします。和輝さん」

「おい! 無かった事にすんな!」

 そそくさと立ち上がる夏樹に向かって瞬の携帯を投げつけるも、それすら透過した夏樹の身体に当たる筈もなく「あぁ、俺の携帯!」と叫ぶ瞬の方にダメージがいく始末。

 夏樹はこういう時の対処法を既に心得ている。この一週間で身に付けたものだ。

 即ち。

「和輝さん、ご飯は大盛でお願いしますね!」

 勢いで押し切ってしまえ。

「なぁーにが! 大盛で、だ! 大体、良く食う癖に細いまんまだし……」

「あと野菜は少な目でー……カロリー低めでぇ……」

 この上、更にか。

 何だか段々腹が立って来た。先程までの夏樹に対する変な感情が何処かに吹き飛んでしまう位には。

「勝手に住み着いてくるし、注文は多いし……! お前、本当に何なんだよ!!」

 振り返った夏樹は気付く。

 怒りながらも彼の手にはもう財布が握られている。一緒に来てくれるみたいだ。

 そんな和輝を微笑ましく見るまひろ。ちょっと変わった保護者のお姉ちゃん。

 呆れながら頬杖を突く優弥。頼れなさそうで頼れるお兄さん。

 苦笑しながら和輝に肩を組みに近寄る瞬。平謝りは逆効果になりそうだけれど。

 フリーになった瞬の携帯を早速回収しに行く舞。それより自分の投稿を消せば良いのに。

 この一週間何も変わっちゃいない。出会った時からずっと一緒だ。

 だから、夏樹も出会った時と同じく相も変わらずに、無邪気な太陽みたいに笑顔を振り撒いてこう答えるのだった。


「はい! 私、幽霊です!」


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