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私、幽霊です!  作者: 黒華夜コウ
六章:日向の中で彼女は笑う
150/152

P.150

「全く……少しは何か進展すると思ったんだけどな……」

 頬杖を突いて愚痴を吐いてみても、進まないものは進まない。

 一度脳内でここまでを整理してみようと、和輝は少しの間沈黙する事にした。

 まず、現時点の問題は和輝に夏樹が憑りついている事だ。

 夏樹が幽霊として居るのは構わないが、憑りついたまま付かず離れずの生涯になるのは御免被りたい。

 これに対する案は今のところ大まかに二つ。

 一つが直接的な解決方法。要は夏樹の除霊。

 だが、実行するには優弥は舞の霊を感じ取る力程度では難しいと本人達は言う。するならそれ相応の、例えば神社や寺、若しくは除霊を専門としている人間を探して相談する方が現実的だ。

 二つ目に、夏樹が何故幽霊となったかを理解する事。

 これをする事でどうなるかと言われると、どうなるかは判らない。

 幽霊となるのにも、何かしらの理由が有るのでは、と和輝は思う。初めて会った時にも思った、未練とかだ。

 つまり、その理由を解決できれば夏樹がこの世に留まる必要も無くなる。

 かなり遠回りにはなるが、目的は一つ目と変わらない。除霊だ。

 二つが大きく異なるのは、その除霊に対する姿勢である。

 前者が完全に排除する動きならば、後者は別に和輝から離れてさえくれれば良いという姿勢。

 どちらにせよ、今すぐに解決できるものではない。

「だけど……何であんな所でビデオなんか撮ってたんだ? いや、本当に」

 今の所の和輝の胸中は後者。

 夏樹が完全に害を成して来ているのなら今すぐ何処かに駆け込みたいが、そうではない。今の夏樹は、勝手に押しかけて来た、いわゆる家出少女のようなものに近い。迷惑なのは迷惑だが、それは生きている人間の迷惑と同じものだ。霊的などうとかはそんなに感じていない。

「それは……」

 口籠った夏樹が何も返さないのを見て、和輝は更に言葉を続けた。

「よくよく考えりゃ、人間を誘き寄せたかったにしちゃあ矛盾してないか? ビデオを撮ったり、歌を歌ってたり……そりゃ、好奇心の有る人間は寄って来るかもしれないけど、あれを観たり聞いたりした人間なら、そうそう来ようなんて思わないだろ?」

 夏樹が家に来た日から、ずっと後回しにしていた質問。

 そう、夏樹の目的。

 何故、あのようなビデオを作ったのか。

 何故、和輝の家に来たのか。

 一番最初に訊いておくべきだった質問で、一番最後になってしまった質問。

 夏樹は、それに答える前に少し顔を俯かせた。

「……ホントは、寂しかったんです」

 真向いの少女は、悲しそうに眉を寄せて、それでいて何処か少しだけ嬉しそうに口角を上げて語り出した。

「私、生きてる頃の記憶、名前しか無いから……自分が誰なのかも解らずに、ずっとずーっとあの井戸で独りぼっち」

 涙こそ流していない。だが、ここでちょっとでも刺激を加えれば途端に崩れてしまいそうな彼女の顔を見ていると、和輝も他の四人も自然と沈黙を続けてしまった。

「あの墓地にだって、幽霊のお友達は居ました。でも、幽霊の友達……すぐに居なくなっちゃうんですよ? やっと新しく友達が出来ても、皆どんどん居なくなっちゃって……成仏したんだなって、後から気付きました。ビデオ、私が一人で撮ったにしては上手く撮れてましたよね? あれだって、友達の幽霊に撮って貰ったものなんです。その人も、先に逝っちゃいましたけど」

「じゃあ、あのビデオって……」

 和輝に向かって、夏樹は俯いたまま頷く。

「同じビデオで、ずっと繰り返してたって事か……」

 たった一本のビデオと一つの歌。

 それがどれだけ孤独を彼女に感じさせたのか、和輝には計り知れない。

 何せ、和輝とは存在する場所が圧倒的に違う。

 和輝には瞬や優弥、それに小鳥遊達だって居た。ちょっと家を出れば、面識は無くともそこら辺に他人の姿は見えた。

 夏樹は、そういった赤の他人さえ居なかったのだ。

「生きてる人と友達になったら、いっぱいお話出来るかなって。気付いたらそんな事ばっかり考えてました。きっと、そんな事をずっと願ってたから、私が生きてる人にも見えるようになったのかな」

 多分、だが。

 夏樹は、ここ一週間の生活が死んだ後で一番の生を実感したのではないだろうか。

 ほぼ毎日のように対面する大学生達。

 振り向けば横には常に和輝が居る。孤独の中に居た頃とは天と地ほどの差だろう。

「森崎……」

 それを踏まえて、和輝は変にしんみりとしてしまった空気に気が付いた。

 あの夏樹の口からこんな言葉が出るとは思わなかった。

 あの夏樹が?

「……良い話に纏めようとしても、それとこれとは話が別だからな?」

「そんなぁ……」

 気の緩んだ夏樹の残念顔を見て、和輝は少しでも同情しそうになった自分を反省した。

 こいつ、やっぱり情に訴える気だったのか。

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