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私、幽霊です!  作者: 黒華夜コウ
六章:日向の中で彼女は笑う
144/152

P.144

「……そういう、場所?」

 今日の優弥は何だかいつにも増して回りくどい。

 カミーラがそういう場所だと。その、そういう場所とはどういう場所を言っているんだ。

「あの店、営業時間の文字とか見掛けなかっただろ?」

「あ、あぁ……そういえば」

「決まってないんだよ。開いてる日も時間も不定。ま、今は大抵朝から夕方までやってるけどな。時間を決めてないのは、相談をしてくる人間に時間を合わせる為さ」

 相談。

 その単語を訊いて、和輝は鈴鳥の顔が思い浮かんだ。

 カフェに相談事をする、とだけ聞けばまた謎が深まるだけだったが、今となってはその相談の内容とやらにも見当がついてしまう。

「カミーラでは昼と夜の顔がある。昼間は普通のカフェ。夜は、霊に関する悩みを依頼してくる場所だ。俺も、もう何回かその依頼を請け負った事がある」

 和輝は、徐々に目を丸くしていった。

 つまり、和輝達の所属する『オカルト・ミステリー相談研究会』と同じだ。優弥は、既にそういう所に属していたのだ。

 研究会室で優弥がサークルに入るのを即座に断ったのにも、少し納得がいった。彼からしてみれば、業務が増えたと言っても変わりない事なのだから。

「勿論、カミーラじゃ解決分の料金は取るがな。カミーラの今の主な収入源はそっちってくらいだ」

「……随分、良い値段がするみたいだねぇ」

「クク……ファンタジー、みたいな話だろ」

 舞は呆れた視線を優弥に送った。

 優弥が前にポロっと漏らしていた『実入りが良い』とは、恐らくこの事なのだろう。

 研究会では料金を取る事は考えていない。蓋を開けれれば一般的な大学生五人組なのだから、それはそうだ。多少値が張るとはいえ、料金分の仕事はきっちりこなしてくれるのだとしたら、カミーラに依頼をする人間が絶える事はないのかもしれない。

 優弥は、不敵な笑みを浮かべたまま付け加えた。

「昼間っから暴れ散らかしたのは初めてだったけどな。終わった後に行った店長の顔、見物だったぞ」

「ハハ……行きづらくなったな」

 取り敢えず謝罪に行く事は前提として、今度行った時はどんな顔をしよう。そんな考えで和輝の胃は縮まった。

 昼間はカフェ、夜は酒場。二面性の有る店というだけで和輝には物珍しいのに、よりにもよって自分達とやっている事が被るとは。

 相談する時からカミーラを指定したのは、霊に関する話が普段から有る分、人目を憚らずに話が出来るからだったのだろう。

「気にすんなっつたろ。問題としては無事解決。店長も『また実績が増えた』って言ってたしな。ま……サークルの依頼としてはアレだが」

「……そう言えば、あの後二人はどうなったんだ?」

 和輝が気になったのは、鈴鳥と籠飼。そして小鳥遊の現状だ。

 二人と言ったのは、この関係が崩れてさえいれば、小鳥遊の体調にも多少の改善が予想出来たからである。

「籠飼君だったら……心神喪失状態が続いてるわ」

 彼の様子を見に行ったまひろ談である。

 関わりの無かった人間から見れば、精神的な欠落、突然の鬱病だと思われる程に彼は無気力になっていた。

 ただ、あの現場を見ていた和輝達はそうは思わない。

「長時間、悪霊に乗っ取られていた影響……そう考えるのが自然かもな」

 優弥の考えに、皆で頷いた。

 籠飼の身体や精神にどれだけの負担が掛かったのかは解らないが、悪霊に憑りつかれるというのは、それだけのリスクを抱えているのと同義だと、優弥は言った。

「鈴鳥さんは……」

 続けて、和輝はもう一人の安否を確認する為に、依頼相手であるまひろへ向いた。が、彼女は再びサイトの確認をすべく瞬と顔を付きあわせてしまったので、和輝は顔の向きを舞へと変える。

「鈴鳥さんは、どうしてるんだ?」

「あー、元気だったよ!」

 にしては、やや言葉に詰まらなかったか。

 和輝が訝し気に黙っているので、舞は改めて言い直す。

「ホント、前より元気だった! 顔色も良くなってたしさ。ただ、まぁ……あの背後霊が消えた訳じゃないんだよねぇ、前より落ち着いてるとは思うんだけど」

「原因が他に有るって事です?」

 キョトンと夏樹が訊ねる。

「かもしれないし、そもそも、ただの背後霊じゃなかったのかもしれない。本当は……本当に、鈴鳥さんの守護霊だったのかも」

 舞は、数日前に会った鈴鳥を思い出しながら言った。

『何だか、凄く晴れやかな気分なんです』

 そう、彼女は澄んだ笑顔で舞の顔を見ていた。

 鈴鳥には、事の顛末を伝えていないままだ。

 なるべく彼女の気持ちに負担を増すような事は言わないでおこう、としての隠し事だったが、解決した今でも黙ったままが正しいのか、それは和輝にも判らない。

 それに、当初の依頼とは真逆の解決に導いてしまったのだ。その負い目も有った。

 舞は、そんな和輝の不安を吹き飛ばすように快活な笑みで応えてみせた。

「『有難う御座いました』……だってよ! 気にしてたんなら、そもそもアタシとかとも会ってくれないって!」

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