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私、幽霊です!  作者: 黒華夜コウ
五章:壁に夏あり障子に樹あり
133/152

P.133

「あ、相田さん……? 一体何を……」

 リスクは承知の上だった。

 会った時の籠飼の様子如何では、当然籠飼と鈴鳥を引き離すという選択肢も選択肢に入れておかなければならない。

 その際にどうしても枷になってくるのが、鈴鳥紗枝がそれに納得してくれるかどうかだ。

 和輝達が説いてみたところで、当の本人が頷かなければ何も解決しない。鈴鳥が籠飼側に回る可能性も充分に有り得た。

 故に、鈴鳥や小鳥遊の件を籠飼に突きつけるのは、鈴鳥がそれを受け入れられるかどうか、そしてその決定的な証拠か証言を得られるまでは出来る限り伏せておくべきだろうと和輝達は話さなかった。

 決定的なもの。それは得られていない。だが。

「へぇ、俺が……彼女に何をしたって? 言ってみろよ。俺が、彼女に、何をしたって!?」

 この目の前の男に、鈴鳥を引き渡して良いのか。

 攻撃的な面を隠そうともしていない。例えこれで鈴鳥と籠飼が付き合う事になったとしても、それで本当に解決と言えるのか。

 それは違うだろう、と和輝は心の中で頭を横に振る。

 コイツに渡すくらいなら、鈴鳥からの印象が悪くなっても、依頼が達成出来なかったとしても、ここで話を終わらせるのが自分の役割ではないのか。

 このまま押し切れるか。和輝は、歯を噛み締めた。

「和輝さん、この人……!」

 夏樹は、壁際に寄って籠飼を凝視していた。

 今まで訝し気に見ていた夏樹の顔が、確信の拒絶に変わっていく。

 いざとなれば、夏樹もこちらの座席に引っ張った方が良さそうだ。

「あぁ、そうだ。俺とお前の時と同じだよ。コイツ、何かに憑りつかれてる……!」

 何かの全貌は見えないが、彼の身体から出ている青白い腕なのは間違いない。

 和輝の身体から夏樹が腕を出していたように、籠飼の身体にも何かの霊が被さっているのだ。

 和輝は、籠飼を見据えて言葉を続けた。

「最初は偶然だったんだろ? 鈴鳥さんが家で箱を見つけて、アンタに渡した。アンタの方から仕掛けられる事なんて無かった筈だ」

 吐き出した震える息を、再び吸い込んだ。

「憑りつかれたのがいつかは判らないけど……箱を貰った後なんだろ。『彼が』それに気付いていたかは知らない。けど、箱を貰った事で少なくとも意識していたのは事実だ。アンタはそれを利用した!」

 籠飼は女性に対する接触性が今一つ伺えない。

 対して、憑りついた霊は鈴鳥ただ一人だけに執着していた。

 それが籠飼の言動に対する違和感の正体。つまり。

「アンタは籠飼さんに、鈴鳥さんへ意識を向けるように操っておいて……実際に行動を起こさせたのは籠飼さん本人だった。普段は籠飼さんを操ってないんだとしたら、尚更……籠飼さんも気付かなかっただろうさ!」

「好き勝手言ってくれるじゃねぇか。それじゃ、何だ? 俺が」

「二人居たんだろ」

 籠飼の挑発的な言葉を遮って、和輝は彼を睨んだ。

「籠飼さんとアンタと、二人で動いてたんだ。やってる事がチグハグだったのは、籠飼さんの性格とは掛け離れたアンタの行動が合わさっていたからだ!」

「あ、あの、相田さん」

 ビクビクと震えていた鈴鳥が、上目遣いに和輝に顔を向ける。

「私、何がなんだか……籠飼さんと何か……?」

 怯える彼女を見て、和輝の熱気は落ち着きを取り戻していく。

 彼女を怖がらせたい訳ではない。肩を震わせる彼女を見て、和輝は一度冷静になって声の大きさを戻した。

「違うよ、鈴鳥さん。籠飼さんじゃない。少なくとも、今は」

「じゃあ、誰だって言うんだよ。えぇ!?」

 籠飼が声を荒げる。

 見た目も、声も、会った時と何も変わらない。

 和輝はその彼を、いや彼から出ている腕を見ながら、彼の問いに答えた。

「さっき、鈴鳥さんが言ってたんだ。あの箱の元々の持ち主を」

 そうして目線を上げる。青白い邪気を纏ったような籠飼の顔を睨み付けた。

「……アンタ、鈴鳥さんの父親……なんじゃないのか」

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