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私、幽霊です!  作者: 黒華夜コウ
五章:壁に夏あり障子に樹あり
126/152

P.126

 玄関扉のノブが倒れる。チェーンロックは掛かっていない。

 靴は何種類か置いてあるが、全て男物のようだ。部屋も消灯されている。

 万が一、中に誰か居た場合は中断を余儀なくされるところであったが、その気配も無い様子で一先ずまひろは安心の息を吐いた。

 誰に気遣う必要も無かったが、すぐ出られるようにと靴は爪先を玄関に向けて揃えておいた。

「夜桐先生ってさ……どんな人なの?」

 人の気配が無いと判るや、瞬はリビングの扉を開ける舞に問う。

「んー……アタシは会った事ないんだよね。連絡先はまひろから聞いてんだけど」

「私も無いわよ。その人、非常勤講師だし……講義、受けた事無いもの」

「その授業も全部オンラインでさ。画面に映らないの。誰も見た事無いんだよね、確か。アタシからしたら講義も本当にやってんの? って感じ」

 非常勤講師。確か、主に講義だけ出て来る人じゃなかったか。

 高校の時も居たような気がする。英語なんかの授業を担当している先生に多かった。授業には出て来るが、部活の顧問などは請け負わない。大雑把に言えばそんな感じだった。

 比べて、夜桐なる人間はサークルの人間に連絡は寄越すが講義をしているかすら定かでは無い。

「何か……逆じゃね? 変な人だな」

 言ってしまうと、『大学サークルに顧問が居る』という時点で少し珍しくはあるのだが。

「噂では、私達より歳下だとか」

「マジっすか……?」

「美少年だとか、三十年は勤めてるだとか……有ったわ」

 まひろは淀みの無い足取りでリビングのベッドまで直進すると、タオルケットを捲り上げて中に隠されていた鍵を拾い上げた。

「……幽霊だ何だより、よっぽどホラーでしょ……」

 言いながら、瞬は部屋の電灯スイッチを探す。

 玄関と繋がる扉のすぐ傍にそれが見えて、ベランダのカーテンが閉まっているのを確認してからそれを押し込んだ。

「一応訊くけど、舞は何か感じる?」

「うーん……」

 舞は腕を組んで首を傾げている。

「特に何も……なんだよねぇ。アタシ、城戸さんと違って弱めだからかなぁ」

 別に、籠飼を庇っている様子は無さそうだ。ここまで来て庇うも何も無いとは思うが、何も感じないというのは少々意外である。

 箱自体には何も霊的な仕掛けは無いのだろうか。

「直接見てみたら何か解るかも!」

 そう舞が言うので、まひろの手はすぐに机の引き出しに掛かった。

 鍵を回す。中に入っていた物を思い出し、舞の視線を遮るようにまひろは引き出しの目の前に位置した。

「じゃ、見て貰いましょうか。その曰く付きの箱……」

 ゆっくり、木製の引き戸がスライドする。

「を……」

 まひろは直ぐに手元のスイッチを押して、イヤホンに備えられたマイクに口を近付けた。

 三十分。

 三人が籠飼の家から目的の物を見つけ、痕跡を消して脱出するまでを想定した時間。

「でも、箱って珍しいよね。鈴鳥さんが買ったんだっけ?」

 和輝は、その時間を何とか確保する為に懸命に話題を探した。

 三十分。いや、一時間。

 全てが上手くいくとは限らない。せめて予定していた倍は考えておいた方が良い。

「い、いえ……私が買った物じゃなく……」

 鈴鳥は相変わらず緊張が取れない様子だ。その本人とは裏腹に、彼女から出ているモノが大きくなっているのを和輝も感じ取っていた。

「……父の、なんです」

 籠飼が、目を丸くする。

「えっ!? 良かったのかい? そんな大事そうな物……」

「はい……! 大事だから、是非受け取って欲しくて……!」

 同時に、和輝もギョッとしていた。

 それは籠飼と同じ理由では無い。

 籠飼に重なっていたモノが、くっきりと姿を現したからだ。

 何だ、あれは。

(青白い……腕?)

 和輝には既視感が有る。そうだ、これは自分と夏樹が重なっていた時と同じではないか。

 そう思っていると、その夏樹が二つ折にされたナプキンの紙をテーブルの上に滑らせた。

 見れば、夏樹の手元には鉛筆が転がっている。先日、瞬から貰いでもしたのだろうか。

 素早くそれを取ると、表裏を確認してみる。

 何かが書かれていると判り、和輝はそれを皆の視線に入らないように角度を付けて開いた。

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