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私、幽霊です!  作者: 黒華夜コウ
五章:壁に夏あり障子に樹あり
112/152

P.112

「五〇三だって!」

 舞は携帯から顔を上げると、送信先の居場所を皆に告げた。

 籠飼翔の家はマンション。それはまひろが事前に訊き出せた情報だったが、部屋の番号を訊ねるのはがっつき過ぎと思われそうだ。

 籠飼翔に気が有るが少し奥手な女の子。

 この設定に合わせる為に、事前には最低限の事しか訊いていない。

 鈴鳥紗枝と似た感じで行けば何かの情報を得られるかも、と考えての設定だったが、鈴鳥の完全再現は難しいだろう。

 和輝達は、マンションの真下から五階部分を見上げておおよその位置を確認した。

「五階、だよな……距離は充分有る。森崎!」

「はい、いつでも行けます!」

 夏樹と離れられる距離は半径にして五百メートル。それ以上離れると、夏樹は和輝の居る方に引っ張られてしまうらしい。

 昨日、和輝の家で夏樹の例えた「磁石」というのは言い得て妙だと、和輝は思った。

 幸い、この近辺でそんなに高層のマンションは存在しない。例え在ったとして、マンションの真下に居れば届かないことは無い。

「じゃあ……神谷さんの事、頼むぞ」

「りょーかい、です!」

 右手での敬礼の後、夏樹がオートロック式の自動ドアの向こうへ透過して行った。

 どれだけ頑強な扉でも、彼女の前では意味を成さない。

 それを見届けて、四人はその場を移動する事にした。五百メートルなら多少移動しても影響は無いだろう。

 どの道、ずっとマンション付近に居座っていても怪しまれるだけだ。

「それにしてもよー……」

 先頭を歩く瞬が、かのマンションを見上げて文句を垂れた。

 四人の前には見覚えの有るコンビニ、そして見覚えの有る街灯。

「こんな、俺ン家の近くだったとは……」

 マンションから少し目線を下げると、昨夜五人で通ったあの細い路地が視界の端っこに映った。

 あの迷路のような路地を抜ければ瞬のアパート。それを覆うようにして、籠飼の住むマンションが聳え立っている。

「アレのせいで年中日陰なんだぜ!」

「日陰者にはピッタリじゃないか」

「だぁーれが日陰者じゃい!!」

 見慣れた光景を横目に、和輝は一先ず落ち着ける場所を探す。

 といっても、この方角に歩くなら場所はもう決まっているようなものだった。

 昨夜、和輝はあのコンビニの近くにもう一つの大きな光を確認している。

 垣根を二つ挟んで真横に位置する二十四時間営業のファミリーレストラン。

「暑いんだから大人しくしてなよ、もぉ……」

 呆れ顔で店の扉を開ける舞は、二人を振り返るとその後ろに籠飼のマンションが目に入る事に気が付き、心配そうな声を出した。

「大丈夫、だよねぇ……」

「うん、多分……」

 和輝もそれに釣られて同じ方向を振り返る。その横を、瞬と優弥が通り過ぎた。

「禁煙席。後から二人」

 優弥の指定を店員と和輝が訊き届け、目的地の階を見上げて和輝は舞に言葉を向ける。

「無茶は、しないと思うけど」

 その二人の見えない視線の先では、眉根を寄せて悩む一人の女性の姿が在った。

(……何も無い、わね)

 正確に言うなら、目ぼしい物は何も無い。

 籠飼翔の自宅は至って綺麗な部屋だ。疑っていたのが怖いくらいに怪しい物が無い。

(そりゃぁまぁ、初めて女性を家に上げるなら片付けくらいしてもおかしくはないけど……)

 何処からどう探したものか。

 見回しても何も見つからないのだから、目当ての物はきっと何処かに仕舞われている筈だ。

 こういう時に舞か優弥が一緒なら、気配か何かで察知してくれるのだろうが、無いものねだりをしても仕方が無い。

 今は自分一人しか居ないのだ。

(……いや、違うわね)

 平時なら心細くも感じてしまっただろう。だが、今はそうではない。

 自分には心強い助っ人が居る。彼女が来てくれるから、自分もこの作戦に踏み切れたのだ。

 そう思い改め、まひろは気を取り直した。

 彼女は今何処に居るのだろう。話では、部屋の番号を伝えたら向かわせる手筈だったが。

「神谷さん、何か飲む?」

「えっ!?」

 つい、助っ人を探そうと身体の向きを変えそうになったところに、籠飼の声が掛かった。

「あ、いや、飲み物を……大丈夫?」

 危ない。不審な動きと思われていないだろうか。

 意識しないと意識するのも大変だ。取り敢えず、籠飼の問いには答えなければ。

「えぇ……大丈夫、御免なさいね。じゃあ……」

 部屋の奥を眺めていたまひろは彼へと振り返り。

「何か頂こうかし……ンふっ……!」

 思わず吹き出しそうになって目を背けてしまった。

「……か、神谷さん?」

 籠飼が呆気に取られている様子が目の端に映る。

 辛うじて出た言い訳は、本当に苦し紛れのものだった。

「ごめんね……! 思い出し笑い……!」

 小さく肩と声を震わせて、心配を否定する為に片手を胸の前に挙げる。

 自分でも変な声が出てしまったと自省したが、それでも持ち直すのには数秒の時を要した。

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