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暗い、暗い闇の中。
例え昼間の光でさえ差し込まないような一画に、ぺたっと臀部を引っ付けてそれは薄笑いを浮かべていた。
長い髪は暗闇の中でもいやに目立つ黒色で、対照的に着物は上から下まで真っ白で、その髪で隠れた表情はどうやっても口元しか窺えない。
その両端の上がった口は端から端までしっかりと閉じられていたが、そこからは音が漏れていた。
繰り返し、繰り返し。
薄暗い林の中でその音は誰に届けられる事も無く、歌っては闇の中へ沈んでいく。
それでも音が止む事は無い。
繰り返し、繰り返し。
同じ曲の同じフレーズを機械のようにリピートする。
一体いつからこうしているのか、彼女自身は知っているのだろうか。
ここに誰も居ない事を、彼女は知っているのだろうか。
顔を上げた彼女が、薄く笑ったままポツリと呟いた。
「……まだかなぁ」
クスッと笑う間奏に、生暖かい風が舞い込んだ。
彼女は、まだ歌い続ける。