(2)死んだ男の死体がまた死んだ。
一話目が全然キャッチーじゃ無い。
でも、続きます。
チートだけど何度も死にます。
えっ? と思って目を開けてみれば、目の前には炎を上げる燭台樹。手をやる首筋にも傷痕は無い。
「なんだ……これは……?」
何だか、こここの状況に陥ってから、同じ台詞ばかり呟いている様だ。
そうだ、自分……いや、我は死んだ筈だ。
会社の丸机で意識を失った我がどうなったかは知らないが、この奇想天外な成り行きの果てに辿り着いた、緑の香り噎せるこの森の奥地で、確かに我は死んだのだ。
あの最後の瞬間に首に齧り付いたもの。
地球の蛇とは随分と造形が異なっていた様だが、あれは確実に我が命を奪いに来た生き物だった。
ならば、ここにいる我は一体何なのだろうか。
手を打ち鳴らす。
足を踏みしめる。
木肌を駆け上りジャンプする。
腕を振り回す。
地面を転がる。
草を囓り、
木肌に噛み付く。
図らずも、この森で目覚めた初めに取ったのと似た様な行動を重ね、手足の感覚を確かめる。
「ぐわぁあああああああ!!」
「ぎゃぉおおおおおおおおおお!!」
「だぁああああああああああ!!」
「ずぅぁああああぉあおおおおおおおお!!」
頭痛がするほどに全力で。
吠える!
吠える!
吠える!
荒い息を吐いて、再び辺りを見回して、
そして我は、再び叫び上げたのだ。
「フゥウウリィイイイイイイイダァアア――」
「ム」を言う前に、フッと膝の力を抜いて、その儘横に倒れ込む。
倒れ込みながら体を捻り、来るだろう首筋を狙う大蛇を避け――ようとして、そしてそんな蛇などいないことを理解する。
どさりと尻餅をつく様に転がって、……自然と勝利の笑いが漏れ出ていた。
「ふ……ふふふふ……ふはははははは……ははははははははは!!」
確かに我は、先の人生を終わらせた、死の運命を回避したのだ。
そこにいるのが擦り傷だらけの全裸で土に汚れたおっさんだったとしても、この尊き挑戦とその勝利を貶めることなど出来はしない。
この勝利は、女神にも捧げられよう!
見よ、密林を行く男の姿を、全てを掛けて命を掴まんとするその姿を!
やがて男は、森を征し、密林の頂点に立つだろう!
讃えよ! 大いなる試練を乗り越えし者を!
崇めよ! 王者の運命を持ち足掻く者を!!!!
そんな風に思っていた時も有りました。
森の一角で喧しく騒ぐ生き物の気配に、のそりと木の陰から現れたのは、見た目だけで言えば、恐ろしげな黒い棍棒を右手にした、一体の漆黒の鬼だった。
と言うよりも、初めて出会った人形の生き物だ。
漆黒の体に漆黒の四肢、鬣の様な髪も漆黒な為、服を着ている様に見えない股座がどうなっているのかも、まるで黒くて判らないほどだ。
手首足首至る所に嵌められた、金属や植物の腕輪や足輪が、色取り取りに強烈な自己主張をしているが、それはすなわち知性の証だった。
そう思って見れば、じっとこちらを貫く様な、三対六つの眼の奥にも、知的な光が灯っているようにも思える。
これこそ、ザ☆ファーストコンタクト!
試練を乗り越えし我に、不可能は無い!
……なんて昂揚しながら、同時に一気に冷めていく思考と背筋。
常に一杯一杯な気持ちの中で、手に余る物事に対しては見なかったこととしてスルーする悪癖があった我で有るが、目と目が合ってしまっては、出会ってしまったこと自体は無かったことには出来かねた。
ならばここは立場の違いをスルーして、普通に何事も無く挨拶するのが一番だ。
学校に通っていた頃、質の悪い不良と目されていた相手とも、声を掛けられれば普通に会話していた我だ。売り言葉に買い言葉。沸点の違いもあるかも知れないが、極普通に対応すれば、会話が出来ないことは無いと信じている。
悩ましくは恐らく日本語が通じないことだが、しかしならば掛けるべき言葉は一つしか無いだろう。
ニッと笑って、右手を挙げて、
「ローンブロ~~ゾ~~~~」
と挨拶すれば、きっとその心が伝わったのだ。
六つ眼の黒鬼も、ニカッと笑って右手を挙げて、
振り下ろされた棍棒は、見えなかった。
ハッと気がつくと、新緑の季節。
目の前の燭台樹すら、木肌を明るく焦げ茶に変えて、
辺りには柔らかな、暖かい春の日差しが降り注いでいた。
なんか、今はこの話の続きばかりが思い浮かぶから、あと4話ぐらいはこっちを更新するかも。
合間にアルサリカとALICE……かなぁ?
鬱に入りかけの時は、阿呆話が書きやすいんよ。
フラットな気分な時にALICE。
魔剣のお話は、空想に浸りたくなった時だな!