プロローグ 夜逃げの仕方
平成24年、6月。
梅雨で雨漏りが激しい屋根のしたで
あたし飯島勝子はせっせと欠け茶碗だの、拾ってきたバケツなどで屋根から垂れ落ちる雨粒を床に落とすまいと精進していた。
すでに雨漏り箇所は20を悠に越している。
「もはや雨漏りじゃねぇよこれ、、、」
ボソッと呟くと、瞬間ぞくっと背筋に悪寒がはしった
奴が来た!!!
「女がじゃねぇとか言うんじゃねぇぇえ!!」
ビュゴワッ!!と音をさせながら奴こと父さんの平手が飛んでくる
すかさず鳩尾に一発。
「!!!ぃいいってぇ~もうちょい親労われよ~」しくしくと泣き崩れた父さんを無視して残りの雨漏り処理に向かう
「だったら、実の娘にビンタかまそうとすんな」
「いや寸止めにするとつもりだったよまじで、てか勝子!リアクションが正しくない!!」
「は?」意味のわからない事を言う父さんに向き直る
リアクション?
偉そうに息巻いた父さんは人差し指をたてた
「そこは親父にも殴られたこと無いのに!だろ!」
「それ殴りかけてる親父に向かって言えないだろ!」
ああ!たくイライラする!!
青筋をたてながらあたしは欠け茶碗を更に欠けさせないように雨漏り箇所におく。
ホントに今日は最悪!!せっかく今日はあたしの、あたしの、、
「そいや勝子~。今日お前誕生日か?」
「・・・え?」
疑問系だったけど、今、確かに誕生日って、、、
「父さん、、、まさか覚えてて?」
「ったりめぇだろ?言葉使いは悪りぃが大事な娘の生まれた日だ。
・・・おめでとう、勝子。」
父さん・・・!
さっきまでいずれ祟るとか寝首をかいてやるとか夕飯ワカメだけにしてやるとか言う思いが全て霧散していく
そっか、ボンクラで借金してばかりで責任感皆無で不清潔で2日に1回はキャバクラに通ってる父さんにだって、
父さんにだって、親心はあったんだね!!?
うるうると、勝子は今にも泣き出しそうな目で父親を見つめる。
「父さん・・・!あたし、」
「勝子。誕生日のプレゼントがあるんだ。」
父さんはいつもの腐り切った目ではなく優しく愛情深い目で娘を見つめ勝子の手を取った。
瞬間。
「ぅおい!飯島さんよぉー居るのは分かってんだぜ!?さっさと1936万231円耳揃えて返せやぁ!!!」
!!借金取り!
おのれこんな時にかぎって!!
「父さん!!どうしよう、明かり付いてるからバレてるよ!」
「てかそれよりすげー耳揃えずらそうな金額言われた気が、」
「そんなのどうでもいいじゃない!どうしようどこかに今からなんて逃げられないし、、、」
勝子は目を瞑って絶望に打ちひしがれた
もう、もう終わりだ!!
きっと借金の方にとか言ってあたしは売られちゃうんだ!!!
小刻みに震え、怯える勝子に対して
父さんは能天気な阿呆面を崩さない。
「勝子。んな怯える心配はねえよ。」
「だ、だって、すぐ、あいつら、、、入って、」
「飯島さんよおお!ドア蹴破ったっていいんだぜー!?出て来やがれクソ野郎!」ドカッガンッ
「!!!」
ビクッとあたしが身を縮めた瞬間、
父さんはグッとあたしを抱き寄せ、何かを唱え始めた。
「ほぁ?父さん??」
みるみる内にあたし達から光が溢れ出す。
何、、、これ!?
七色の光、すぐ下には円陣、
何このオカルト現象は!!!
何か講義しようと父親を睨みつけると、
父さんはいつものニヤけた笑顔で言った
「勝子、これから行く世界でまた会おう。プレゼント、用意してっから。」
「えっちょ意味わっかんなっ」
フッと目の前が黒に包まれ父さんが見えなくなる。
黒一色だけどかぜを下から感じる、
・・・もしかして、今あたし落ちてる!!?
「ちょっと父さん!ふざけんな、説明ぐらいしてけよおい!おぉい!こんのクソ親父ーーーー!」
こうして、
あたしは、いや、あたし達は異世界に夜逃げした。
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