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殺人正義  作者: 赤腹井守
ラストエピソード
12/13

11:終殺消殺/これで終幕

 久々に寝坊してしまった。

 前日のあれこれで筋肉痛になったり病院行きになったりと、一日でいろんな事を起こしてしまったがために、就寝したのは午 後一一時だった。疲労した身体を休め、翌朝目が覚めれば、――物凄く重い身体、激痛が走る頭、と……どうやら俺のコ ンディションは最低のようである。

 午前八時過ぎ、リビングに足を運べば、心配したような顔でこちらを見る母と妹がいた。どうやら、遅刻という扱いにはならな いらしい。何でも、俺が昨日、病院で話した嘘話――公園で遊んでいて、ブランコに乗っていたら間違って飛び降り、そのま ま頭を殴打。激しい痛みを堪えながら家に帰ろうとしていたら、壁に何度も激突し、終いには不良達に襲われて、……という フィクションストーリーを聞いた母達が心配をし、今日は学校には行かないと連絡をしていたらしい。通りで無理矢理起こさな いわけだ。

 しかし、俺はどうしても学校に行きたかった。無理言ってお願いすれば、母は了承し、俺を学校へ送ってくれると言った。つい でに何故に妹もいるのかと聞けば、今日は妹の学校は振り替え休日らしい。

 竹橋高校の夏服に着替え、母の車に乗って学校に辿り着くと、正門がいつにもまして輝いているように見えた。

「すばらしい。すばらしいぞ学校」

 ここ数日の災厄の日々よりも、学校の方が最高に思えた俺は、そのまま教室へと足を運んだ。



 教室に入り、自然な雰囲気だった教室が一瞬にして笑いの世界に変わると、俺は苦笑しながら席に着いた。

 そして、一つの空席を目にする。

「……城坂」

 小さく呟いて、俺はカバンから教科書を取り出した。



 昼休みになって、俺はクラスメイトに声をかけた。

「城坂はどこにいるんだ?」

「ああ、城坂さんなら保健室で休んでいるらしいけど……、え、何で?」

 その答えを聞けば、俺はすぐに教室を出て、やや早足気味で一階の保健室に足を運んだ。保健室のドアを思いっきり開く と、そこには誰もいなかった。

 否、一つのシングルベッドがあるところには、白いカーテンによって隠されていた。

 俺は、ゆっくりとその場に足を運ぶと、カーテンをそっと開けた。

「……自首しろ」

「開口一番それっていうのは……、ちょっときついわ」

 見れば、ベッドの上で座り込んでいる制服姿の城坂がいた。

「……何やってるんだ?」

「何でもいいじゃない。ちょっときつかったから、ここでこうして休んでいるだけよ」

「先生はどこに行ったんだ?」

「先生は職員室に行ったわ。……そういえば、誰もいないわね、ここには」

 妙なオーラを感じた。

 城坂が――前とは違った雰囲気を醸しだしていた。それもそうだろう。

「私嬉しい。不動君がお見舞いに来るなんて」

 何だこの笑顔は!?

 俺はやや引きながら、そっと後ずさりをした。

「……じょ、城坂~……、今すぐ自首しろ~、な? な?」

「……不動君が私を逮捕するまで警察のお世話にはならないわ」

 やや頬を赤くしている城坂。

 意味が分からん。

「……人殺しの罪は重いんだよ。……お前も言ってたろ、正義だの何だの。だったら……、自分から罰を受けろよ」

「じゃあ、不動君が私にお仕置きして?」

「何でだよ」

「何だって受け入れるから。……なんだって」

「だからどうしてそこで顔を赤くするんだ!?」

 また一歩下がって、俺は城坂に言った。

「……昨日がああで今日はこうで……、お前、おかしくなってないか? 昨日はあんなに残酷だったのに、今日はそんな感じ でよ」

 俺の腹にナイフを刺した張本人が目の前にいます。俺を五〇メートルほど殴り飛ばした城坂伶という女がここにいます。

「元々からおかしいわ。……振り返れば、私の今までやって来た事が、どれだけ恐ろしく愚かなことなのか……、段々と理解 してきた気がする」

「段々と……か」

 城坂を見下ろしながら、俺は呟いた。

「ありがとう。私を助けてくれて」

「……」

 助けたつもりはないんだ。

 城坂、お前を死なせたくなかっただけだ。あそこで死んだら、お前が今まで殺した人たちの悲しみが晴れないからな。

「……そういや、言っておきたいことがあったんだ。っていうより、聞いておきたいことなんだけども……」

 聞きたいこと。

 それは、俺とお前が初めて会話して、問われた言葉。

「……人殺しの気持ち、ってのは――どんなのだったんだ?」

 知りたくもない。

 知っても何の価値もない。

 それでも、聞いておくべきなんだと、俺は思う。

 人殺しという存在であるクラスメイトが何年も共に過ごすというのならば、俺は彼女を人殺しと認めながらも、生きていかなけ ればならないのだと思う。

 罪は絶対に消えない。

 一生残る傷跡。心に残る人殺しの味。

 城坂、お前が人殺しとして生きていたのならば、これからも先、人殺しとして生きていく必要がある。たとえ、これからは誰も殺 さないとしても、一度犯した罪というものは――消える事はない。

 だから――クラスメイトである俺は、人殺しでもある城坂を、知っておく必要がある。

 気持ちを、城坂の気持ちを知っておくべきだ。

「……私にとって、人を殺すときの気持ちっていうのは最初は分からなかったわ。だって、自分が正しいってずっと思ってたか ら……」

 俯きながら、城坂は言い始めた。

「でも、貴方と闘って、貴方の説教をずっと聞かされていく内に……、怖くなった」

「怖い?」

「今まで殺した人たちが、私を恨んでいる感覚が襲ってきて……。その時はもう――死にたくなった」

 と、城坂は言うと顔を上げた。

 あのね、と城坂は俺に向かって言うと、

「私……自首するつもりは――あるわ。でも、その前にやっておきたい事があるから……」

 俺を見てそう言った城坂。

「……やっておきたい事?」

「ブラックアンブレラを捕まえるわ」

「……ああ」

 そう。

 彼女は未だ捕まっていない。

 人はもう殺していないものの、彼女は逃亡を成している。目撃情報によれば、もうここ付近にはいないらしく、外国に逃げるな どの噂も流れている。

「……ブラックアンブレラを捕まえて何になるんだ?」

「殺し損ねた相手を逃がすわけにはいかないわ」

 いい加減にしやがれ。

「おい」

 と、俺は城坂の頭を掴んだ。

 その突然の行動に、城坂は顔を真っ赤にし、しどろもどろしていた。


「……お前が誰かをまた殺そうとしたら、次こそ――お前を殺すからな」

「……そ、そう」

 頭を離し、俺は城坂に背を向けた。

 そして、

「ねえ、不動君」

 と、不意にかけられた声に、俺は振り返ると、

「……貴方は……私みたいに馬鹿な人殺しにならないでね」

 何とも馬鹿げたことを。

 呆れつつも俺は城坂に向かって言った。

「当たり前だろ」

 そう言って、俺は保健室を後にした。





 ***





 三日後。

 ブラックアンブレラが死体となって発見された。


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