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狂月の謀略 8話

 





 

 眼前に広がるのは、これといった特徴の無い平原だ。ところどころに突き出ている岩石と、昔の建築物の名残がちらほら見えるだけだった。

 ここは港町フラットから少し西に来た所である。なるほど、それなりの施設を備えれば、南にリロアート海洋が一望できる絶好のロケーションができるだろう。海水浴と言えばリロアート。これもオルケストラでは常識だ。

 依頼のあった地区から数十メートル手前で、ラッシュ達一行は足を止めていた。

「ここからがモンスターの縄張りだ」

 そう言い切ったのはミツキだ。目に見える範囲では、遠くに大型のモンスターが何体か見える程度。しかし、距離にすれば数百メートルはある。

「ここから縄張りか、やけにデカイな」

 ダンの言にセチアも同意しつつ油断無く辺りを覗っている。

「敵の数はどれくらいかわかるか?」

 ごく自然に、ラッシュはミツキにそう訪ねる。

 がミツキは首を横に振った。

「自分で考えたほうがいい。ヒントだけあげるけど、この場合はそれなりに大きな町が隣接してるだろ? ということは、頭のあるモンスターが(ぬし)の場合、一番外敵が侵入する可能性のあるここには、知覚範囲の広い奴を置くことが多い」

「例えば?」

「蛇種の中型」

 変わらず、ミツキは率直に答える。ざっと状況を見てモンスターの縄張りを推測できるのは、実はかなりレアなスキルだ。なぜなら、そんな知識など無くとも、気配察知の魔法や術があるから普通はそんな推測を立てたりはしないのだ。もちろんこちらの位置をバラすことになる可能性もあるが、確実だから大抵はそうする。それにモンスターにマニュアルなど無いのもまた普通だ。モンスターに高度な知恵があることも知られていない。

 だが、それらの考えは最近急速に改められるようになっている。

 そういったことを考えつつ、ラッシュは解答を始める。

「蛇種の中型か。ランクはDかCだな。奴らは台地の眷属(けんぞく)だ。確かに知覚範囲は広いな」

「重要なの、そこじゃないよ。最前線っていう外張りに最低でもDランクっていうのは、その後ろはもっと充実してるってこと」

 セチアに続き、さらにダンが懸念を述べる。

「こんだけの勢力の主は、考えたくねえがSランク竜種、しかも突然変異成長型なんじゃねえか?」

 及第点、とミツキが満足げに頷いた。

「正確には、Sランクの突然変異種が一体。Aランクが四体。後はDからBランクが上手くばらついてる。こんな低ランクの平原にしてはなかなかの規模かな」

 相も変わらずマイペースなミツキの分析に、他三名は軽く身震いする。

 それはそうだ。普通、Sランクのモンスターが群れることは無い。あるとすれば余程の実力と、人間でいうところの統率力を兼ね備えている時だ。BランクやAランクの力だけの主ではなく、頭もあるSランクの優秀な将に率いられた群れは、厄介なこと極りない。

 しかし、ラッシュ達は一切の揺らぎを見せない。その口元には笑みすら湛えていた。

 ミツキと言うHランクがいるからではない。ただただ、それらを打ち砕く自信があるからだ。

「あ、でもSランクの竜種は俺が貰うから」

 ガク、と三人は拍子抜け、というものを膝の力が抜けることで表した。

「焚きつけといてそれか」

 半ば諦めたような、仕方ないとでも言うような、微妙な呟き。

 それに、ミツキは腹に一物を抱えてますよ、と言わんばかりの狂悪な笑みを浮かべた。

「見込みがあれば、『ヴァルハラ』への招待状(チケット)を送らないといけないからな」

「うお、絶対貰いたくねえ!」

「うん、貰っても捨てる」 

 サッとダンとセチアの顔が青くなる。誰が好き好んで世界でも三指に入るだろう最高難易度のダンジョンに行きたがるというのか。

「見込みがなかったら遠慮なく殺す……美味しそうなら食べる!」

「竜種は基本美味いからなあ」

 と場の空気が緩むのはいつものことだ。そしていつも通り、ラッシュが締める。

「よし、やることはいつも通りだ」

 小さく息を吐いて、全身の筋肉をほどよく緊張させる。戦闘の意識の高まりに反応したかのように、ラッシュの両手に双剣が魔方陣(サークル)の中から現れた。

「よっしゃ!」

 ダンは勢いよく、背に括りつけている大剣を抜き、豪快に肩へと担いだ。

「了解」

 どこか可愛らしげに答えたセチアの右腕に、周辺のアスフィアが反応する。魔法や術の意味合いを含めた多すぎる装飾に、電子回路が通ったような光がラインを引いた。

 最後にミツキが、お気に入りの言葉を放つ。


「壊して砕いて散らして殺す」


 ドン、と四人が同時に爆発的な勢いで地面を蹴り、モンスターの縄張りへと強襲する。



「ダリャ!!」

 気合豪放。かなりの気の密度を纏った超重量の大剣が、斬撃以上の破壊力で横薙ぎに振るわれ、飛びかかる小型モンスターを一度に吹き飛ばした。さらに振り上げ、突進してくるトゲトゲしい甲殻を持った中型モンスターに上段から叩きつけ、圧殺する。

 豪快の一言に尽きる戦い方だった。

 当然、その大振りの代償として隙が出来るが、そこへ飛びかかるモンスターはラッシュが放った真空の刃の乱舞に錐揉みされ、無惨なボロと化す。

 もちろん、魔法剣だけが取り柄ではない。押されては引いて、引かれては押して、の流麗な剣の流れを描く双剣の剣筋は見る者に安心感を与えるほどの冴えを誇っていた。小型のモンスターには近接戦闘で、中型のモンスターには中距離からの魔法剣で、その戦術の幅の広さはダンとは完全に対照的なものだった。

「! ダン!」

 ラッシュはただ一声、そうかける。それだけで意思は通じたようだ。

 最前線で戦うダンはバックステップを踏んで下がり、詠唱を唱えながらラッシュが前に出る。

 交差させた双剣が鈍く光り、対魔法障壁が展開される。

 迫るは巨大な炎塊。

 火属性の恐竜種が放った上級魔法だ。

「魔法障壁三重展開! 抵抗(レジスト)炎焼!」

 実体の無い炎の塊が物理的な破壊音を撒き散らす。しかし、ラッシュの障壁は耐えきった。

 が、それも長くは持たない。敵モンスターもそう判断して、Aランク恐竜種の上空から風の鎧を纏った巨大な怪鳥が、弾丸の如く一直線に突貫する。間違い無く砕けかけの障壁で防ぎるレベルの攻撃ではない。

 が、ラッシュもそれを承知している。一切のサインも無く、再度ラッシュとダンが前後を入れ替わった。

「オラアア!!!」

 弾丸の如く飛び込んでくる怪鳥を相手に全く怯まず、超重量の大剣に青いオーラを纏わせ、ほとんど野球のフルスイングのような強打を叩きつける。

 ゴッ、という衝撃波が周囲の草を撫でた。

 結果はダンの押し負け。しかし、加速を得た怪鳥を止められるとは最初から思っていない。

「セチア!!」

 ダンの叫びに、後衛のセチアが応える。

「うん! 離れて!」

 その意味と意図を正確に読み取り、ラッシュはセチアの隣まで後退。ダンは怪鳥を()なして、そのまま距離を取った。

「咲き乱れん 情魔(じょうま)の綻びよ!」

 ごく短い詠唱をセチアは唱える。それに呼応して右手の装飾が虹色の輝きを放ち、周辺の空間に、まさに花の蕾が開いたように色とりどりの魔法の塊が浮かびあがった。

「撃ち貫け!!」

 号令。

 色とりどりの魔力の塊は、あらゆる属性、効果を帯びて、数十、数百からなる魔法の矢としてAランクのモンスター二体を呑み込んだ。半数以上はモンスターの障壁や防護壁に弾かれたが、これだけ多種多様な攻撃魔法を受け切れるはずも無く、足が止まってしまったモンスターを貫くのは造作もないことだった。

 よし! と三人はお互いに頷いて、次の戦場へと向かう。




 地竜種の巨体が台地に倒れる。その横腹にはクレーンでも叩きつけたように陥没していた。素人目に見ても、確実に命が尽きたことがわかるものだ。

「さて、と。お前と戦う準備運動にはなったかな。Sランク飛竜種、突然変異成長型の黒竜さん?」

 人間ではない。

 黒竜はそんなことを思ったに違いなかった。

 纏う気力が、魔力が、アスフィアが、全てが自分と同じ突然変異成長型(・・・・・・・)のものだったからだ。しかし、天性だけの経験浅い黒竜と違って、今目の前にいる怪物の錬度は凄まじかった。戦えば、負けるだろう。そんな直感が、黒竜の生で初めて芽生えた瞬間だった。

 そんな思考、あるいは感情を、ミツキは読み取る。

 逆に、この黒竜にはそれだけの頭があることを確信した。

「なるほどなるほど。ヴァルハラ行きの最低条件は持ってるみたいだな。後は運次第か」

 ミツキの月のような黄色い眼には、先程まで爛々としていた殺意が消えている。あるのは人間としての思惑だけだ。

 それを隙と取ったのか、黒竜は一切の溜め無く、広範囲に炎弾をバラ撒いた。

 着弾と共に一気に燃え広がる炎と空気を吹き飛ばす轟音。はっきり言って、先刻ラッシュが防いだ程度の炎ではない。AランクとSランクの絶対的な実力差を示す程の破壊力だ。

 しかし、ミツキは無傷で立つ。黒竜の上空に(・・・・・・)

「駄目だな。いきなりの広範囲攻撃魔法は避けられたら隙だらけになる。やるなら、こういうのだ」

 言葉の終わりと同時、周辺のアスフィアが、文字通り、狂った。

 比較的穏やかだったアスフィアの流れが、ミツキを中心に一瞬で吹き荒れる嵐と化す。

 見た目には、変わらずただの平原だ。しかし、明らかな空気の変化は、見える世界すら変化させたような錯覚を覚えさせる。

 ここに一般人がいれば腰を抜かしてただそこでうずくまるだろう。

 ハイランクのモンスターは、こんな世界があるのかと己が小ささを痛感するだろう。


 たった一人。『狂月(くるいづき)』というモンスターが撒き散らす殺気が、誰もがよく知る世界を、本物の戦場へと変えた。


 一瞬の硬直。

 黒竜はこのあまりな狂気にフリーズし、直後、いまだかつて味わったことのなかった土の味を強大な衝撃と共に味わされた。

 黒竜から見れば、小さな体。だが、そこから感じる圧倒的な狂気と膂力(りょりょく)に、己の敗北を今度こそ悟る。

「一度だけ言う、選ぶのはお前だ。今ここで俺に殺されて食われるか、それとも自分の運を信じて『ヴァルハラ』に行くか。選べ」

 ガ、と呻き声のような、喉を震わせるだけの音が黒竜から返ってきた。

 それを了承と取ったミツキは黒竜から降りて、解放する。

 黒竜は重い動きで立ち上がり、さらに西へと飛び立っていった。

 見送ったミツキは満足そうに笑みを浮かべる。

「よし、勧誘成功。後は運よくあいつの傘下に下れば晴れて同胞になるな」

 その問い掛けのような独白に、ミツキの契約獣たるレグルが答える。

『勧誘っていうか、ほとんど脅しだけどな』

「なんでもいいさ。それより、これで俺がヴァルハラに送りこんだ突然変異成長型は丁度二十体だ。ここから何体脱落するかな?」

『一体でも残れば良い方。わかってるんだろ?』

「まあな」

 ミツキは肩を竦める。

「でもまぁ、これからもどんどん送るけどな。手駒は多い方がいい。ヴァルハラにどれだけハイランクモンスターが増えた所で人間に知る術は無いし、なによりモンスターを統率できることを人間は知らない。そのうち不穏なことをやる時に使い勝手がいいだろ」

『自分で不穏なことをやるなんて言ってたら世話無えな』

「いいだろ別に、不穏なことしてるの俺だけじゃないし」

 最近覚えた脹れっ面を披露してやるが、レグルにキモイの一言でばっさり切られた。

 

 

 雑談しながらも、ミツキの視線は数百メートル向こうを常に捉えている。

 右手の数々の魔法的な装飾から雨霰(あめあられ)と放たれる虹色の魔法の矢。

 その常識外の攻撃魔法にこれ以上無い程の疑念を抱く。


 交錯する稀星(クロスアウター) Aランク魔法使い(マジックユーザー) セチア=ハーブ。








作者「どうも、作者です」


レグル「どうも、レグルだ」


作者「とうとう書いた! 本格的な戦闘!」


レグル「短っ! っていう読者の感想が聞こえてきそうだ」


作者「・・・そうだな。しかし聞いてくれ。書き始めた瞬間にわかったんだけど、複数対複数の戦闘なんて今まで書いたことなかったんだよ」


レグル「まさかのぶっつけ本番。テメエ、小説舐めてるだろ?」


作者「は、そんなバカな。舐めてないから短くなったんだし」


レグル「な、なるほど?」


作者「いやな? 書こうと思えば書けたかもしんないけど、初戦で書きすぎると後で困ると思って」


レグル「で・た・よ。この無責任野郎が、楽しみにしてくれてた読者の方に謝れ!」


作者「ぐ、すいませんでした。でも言い訳させていただきますと、今話でこの世界の一流の戦闘がどんなものかはわかっていただけましたよね? これを基準にこれからもやっていきますので、どうか今後ともよろしくです」


レグル「よろしい」


作者「(おかしい。前回から攻められっぱなしだ)」


レグル「さてそろそろ仕事をしようか。今回は気力(単に気とも)と魔力についてだ」


作者「お前の解説なんか無くても、多分読者の方は正確に自己解釈してくれると思うが」


レグル「確かに俺もそう思うが、テメエが余計な設定くっつけてるからその補足はいるだろ」


作者「・・・そうだな。(しゃくだが)頼む」


レグル「言っとくが、この仕事させてるのは作者であるテメエの指示だぞ?」


作者「は!? そういえば!」


レグル「わっざとらしいなこの野郎。まぁいい。とりあえず簡単な説明だ。以下解説」


気力 主に身体や物体の強化。武器の特性そのものを強化する場合あり。気力を使う技は一般的に術と呼ぶ。無属性。


魔力 内に宿る生命エネルギーを、あらゆる式や法で外界に出すこと。魔力を使う技は一般的に魔法と呼ぶ。多種多様な属性と効果を持つことが多い。


レグル「とまぁ、こんな感じだ。これはあくまで一般的な分け方で全てじゃないってことは頭に入れておいてもらったほうがいいな。例えば、障壁とか防護壁とかは気力でも魔力でも同じ効力のあるものを作れたりもする」


作者「契約獣の力は魔力に属するな」


レグル「ナイスフォローだ作者!」


作者「へ、任せとけ」


レグル「では、今日はこの辺にまでにしてまた次回!」


作者「あ、持ち上げるのに締めは取るんだ・・・」

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