狂月の謀略 5話
「今回の仕事はSランククエストだ」
交錯する稀星の本部を出てそのまま歩きで帝都市街地を目指す一行。道すがら、ラッシュから依頼内容説明の説明を受ける。
「依頼人はリゾート開発の大手企業で、今度開発する地区の一部にモンスターの縄張りが食い込んだらしい。依頼内容はその駆除なんだが、縄張りの大きさは不明、モンスターの勢力も不明、確認されている分でSランクと思しき竜種を確認しているとのことだ。大手企業ともなると私設の兵隊を持ってるもんだが、歯が立たなかったようだな」
そこへダンがすかさず質問する。
「待て、縄張りの大きさはともかくモンスターの勢力くらい見たらわかんだろ。不明ってのはなんだ」
ラッシュは依頼書、もとい依頼データが入ってある「PPC」(携帯電話とパーソナルコンピュータを混ぜたようなオルケストラの新機種だ。ミツキは便利だけどよくわからんとコメント)をしまいつつ適当に答える。
「所詮は私設兵ってことさ。詳細なつもりで送ってきたらしいデータもあるにはあるが、簡単に目を通しただけでも使えないデータだってことがわかる」
「そうだね。私も見たけど、不明な点、多すぎると思う」
セチアがPPCの使い方をミツキに教えつつ賛同する。
ミツキもそのデータを見たいのだが、データの入ったファイルを見つけられずに四苦八苦していた。自分専用のPPCのはずなのだが、使う度によくわからないファイルが増えているのだ。その犯人はダンなのだが、ミツキはその事実を知らない。
「企業の私設兵は寄せ集めだかんなあ。ま、期待するもんじゃねえのはわかってっけどよ。使える野郎でもせいぜいがCランク程度だろ?」
「Cランクなら良いほうだろ。基本的にはその辺のチンピラに武器を持たせただけだと思うがな」
「じゃ、Fランク以下じゃねえか」
「だからそんな連中の報告で成り立ってるデータは役に立たないのさ」
開いても開いても女の人の裸しか出てこないPPCの操作を諦めたミツキはラッシュに近づいていって話しかける。ダンがセチアにどこかへ連れて行かれたのを視界の端で確認したが、なんだろうと思いつつも無視した。
「なあ、ランクってどういう基準で決められてるんだっけ?」
「ん? そうだな、一口に纏めるのは難しいんだが・・・まず、ランクはG~A・S・H・Xの十段階に分かれてるのは前に説明したな?」
「聞いた」
「最上位のXランクについては置いとこうか。話しても仕方ないのがXランクだ。で、Hランクだが。基本的に単体で国を滅ぼせるレベルを指すな。Sランクなら都市を。Aランクなら街を。そしてAランク以上の戦闘力を持ってる人間を正義の味方。無法者を人間と言う名の思考を持ったモンスターという。モンスターならハイランクモンスターって言われるな」
「うん」
「で、ミツキが聞いてるのは仕事のランク付けだろ? 仕事のランクは基本的に戦うことを想定される敵の親玉のランクを指す。今回はSランクの竜種が確認されてるからSランクの仕事ってことだな。簡単だろ?」
「あ~~、なるほど」
ミツキは今まで何も理解せずにただハイランクの仕事をこなしてきたからそういうことに無頓着だったのだ。しかしさすがに物を知らなさすぎると思い始めた為に、こういう常識を質問するようになった。もちろん聞く相手は選んでいる。ダンに聞くとたまに全くの逆を教えられるのだ。
「今言ったことは確かに基準だが絶対じゃない。Cランクの仕事のはずが実はAランクでしたっていうのは割とよくある話なんだ」
「そうなのか?」
「ああ。ランクの低い仕事なら前金無しで成功報酬だけというのが通例だが、ランクが高ければ高い程前金の割合も増す。どうしても解決してもらいたい問題なのに、実際には仕事を失敗して前金だけ持っていかれたら依頼人にすればたまらないだろ? しかも金に余裕がなければなおさらだ」
なるほど、やはり人間はいろいろ小さいなとミツキは感想を残す。ラッシュはそれに苦笑を浮かべるだけに留まった。
話している間に外郭街から市街地に入るための巨大な陸橋が見えてきた。地上から市街地に入れる唯一の入口。外郭街をこんなもので切り離しているから市街地に住む人間が外郭街を帝都と認めないのだ。と、ミツキはそんなことをぼんやり思う。
リズブレアの首都は広大な草原の中心にせり上がった高台の上に築いたものである。その高台は絶壁というにふさわしく、外敵の侵入を許すことは無い。地上からの唯一の入口を通るためには高台の周囲に広がっている草原に造られた外郭街を通らなければならず、必然的に外郭街は監視の目で溢れていた。今一行が歩いている巨大な陸橋は横に百メートル、長さにして1キロメートルもある代物だった。軍の凱旋帰還の際にはここを通るのだが、その光景は圧巻の一言に尽きる。
外郭街にいた時は遠目の、しかも地上という下方から見上げるしかなった帝都の市街地も、陸橋の半ばまでくればその全容が明らかになる。
まさに「人工と自然の融合」を表現した都市だった。基本的に赤色系で統一されているビル群と、要所要所に覗うことのできる木々の緑。エアカーと呼ばれる宙を走る車が開発されてからは、都市のデザイン性に立体感が加わり一つの芸術作品を思わせる。「綺麗な街」と言えばこの帝都の名が挙がる程世界的にも有名な街だった。
実際に足を踏み入れても、その景観だけで退屈することはないだろう。元は地理的な側面から軍事大国として伸し上った国だが、飛行艇が主流となった現代では高台という陸路の困難さも払拭されて交易は盛んに行われている。道行く人々の顔には活力に溢れていた。世界中のあらゆる国や地域に門戸を開くことで交流を増やし、その円滑な経済力でさらに発展した大国だ。軍事の面でも科学兵器、魔法技術と幅広く手を出し成功しているのもその交易の多さ故だと言われている。
思い切り見上げてなんとか全貌が分かるくらいのビルとビルの間の歩道を一行は歩いていた。
ビルや植木に作られる影や人工的な水路から聞こえる水音など、見回せば見回す程に外郭街との違いが見えてくる。活気だけを取れば似たような感じなのだが。
「なぁセチア。これだけの街が造れるならなんで外郭街ももう少し良くしないんだ?」
「あ、それはね・・・つまり――」
ミツキのもっともと思われる質問に対してセチアは咄嗟に答えそうになるが、内容が内容なだけに正直に答えるのは憚られた。
「いざ戦争になった時切り捨てやすいからだ」
ブスッとした感じに答えたのはダンだ。どうにもさっきミツキのPPCからなんらかのデータを消してから不機嫌だった。心なしか身体的ダメージも負っているような気がする。
「外郭街には街としての最低限の機能しか無いんだ。防御力に至ってはゼロに等しい。まあ、だからって外郭街に手を出そうなんて馬鹿は居ねえ。後ろにゃ文字通り国が控えてんだ。外郭街に手を出せばそのまま戦争に繋がる。だから外郭街を捨てる時はこの国が完全に追い詰められた時だけだな」
その説明はまさしくその通りだった。外郭街に対して愛着のあるこのパーティーのメンバーならその事実はあまり気持ちの良いものではない。
さらにラッシュが続ける。
「だからと言って外郭街に住む人間も見殺しにするってわけじゃない。この高台の内部はシェルターの機能もあるからな。何千万って人間を収容できる」
へー、とミツキは感心する。確かに足元から感じられるのは自然的なアスフィアの流れではない。
「戦争が起きて、最後まで戦い抜ける国は国民のことも考えられる国だけだよ」
それはそうだ。国の人口の8割を占める一般の国民が協力してくれなければ勝てるはずの戦争だって負けるだろう。その為には常から国を考え繁栄させ、国民に愛国心を持ってもらわなければならない。そしてそういう治世を実現できているからこその大国であり、この道行く人々の活気溢れる表情なのだろう。
「そのおかげで、俺達も景気良く仕事ができるってわけだ。良いこと尽くしだろ?」
「そうだな。そう思う」
そう思ったからと言って、モンスター出身のミツキは特に感慨も無かった。
「さて、俺達が今いるのは下層の市街地だ。目的地のエアステーションはどこにある?」
ラッシュの質問にミツキがハイ、と答える。
「中層の東。通称『交易街』」
「よろしい。じゃあ中層の西はなんて言う?」
「繁華街」
「そうだな。なら今いる市街地から北に進めば何がある?」
「この街のシステム管理局」
「正解だ。なら上層はどんな場所だ?」
「中層の北にあるターミナルビルから行けるけど、『えりーとな人』以外は入れない」
「んー、90点だな。エリートというよりは政治・軍事に直接携わってる人間しか入れないんだ。エリートっていうのも間違ってないが、意味わかってるか?」
「知らない」
正直なミツキの回答に軽く笑いが起きる。前々から勉強勉強といっているのはこういうことだ。ミツキはもともと人の世で人に混じって暮らしていたわけじゃない。言葉自体は契約獣でもあるレグルが教えたが、文化そのものは無知に等しいのだ。だからこそこういう仕事に関わることで人の世を学ぶことがミツキの目的の一つでもあった。
「よし、じゃあ最後だ。ミツキにラブレターを送ってきたのは――」
「王帝宮」
「――ですが、王帝宮のある場所はどこでしょうか?」
「上層のさらに奥。浮遊岩の上に建てられてる」
「よし、地理はもう大丈夫そうだな。後は簡単な歴史とかだ」
「ここまで覚えるのに苦労した」
言って、フウと息を吐いた。最初は東西南北から理解していなかったのだ。それを覚えた後は一つ一つの言葉の意味、繁華街や交易街と言った役割や機能などなど、覚えることは多かった。しかし、覚えることはまだまだ多い。機械関係もミツキはダメだった。不器用とかの前に一つ一つの言葉の意味が分からないのだ。基本的なPPCを使いこなすのもまだ当分先の話になりそうである。ちなみに、セチアがミツキのPPCをダンに使わせないためにパスワードをかけ、そのパスワードを忘れてしまったミツキがオルケストラと呼ばれるこの惑星の裏から慌てて聞きに来るのはまた別のお話。
市街地を抜け、エアタクシーに乗って中層の入口へと来れば目的のエアステーションまではすぐだ。そしてここに来るとよりこの街の立体的な造りに惹き込まれそうになる。見上げるだけだった帝都の景観に見下ろすという視野が加わるとまた新鮮な感じがするのだ。中層には当然のように自然的な地面など無い。あるのは市街地のビルの屋上を利用した広場や、さらに上空まで伸びるビル群の間を縫うように橋で繋がれているのが普通だった。さらに特筆すべきは人の多さだろう。下層の市街地はこの国に住む人間しか用が無いのが普通だが、この中層には空路の入口であるエアステーションを構えた交易街と、そこから流れてくる商品や情報などを求めて人が集まる繁華街がある。宿泊施設はその二つの区画の間に集中していた。
繁華街などは以前にセチアに連れられショッピングなるものに来たことがあったが、楽しみ方が分からなかったのが正直な所だった。そう言うとセチアは笑って、ミツキをいろんな店に引っ張り回したものだ。それ自体はまぁ、面白い経験だったと思う。
その時の記憶を引っ張り出すと、繁華街と交易街の違いは明らかだ。色合いと言うか景観というか、繁華街は「THE帝都」という感じなのだが、対して交易街はなかなかにカオスな景観だ。やはり国の玄関ということで他国の文化の影響を受けやすいのだろう。だがそれがいいという帝都民もいる。いつも同じご飯だと飽きるというアレなのだろうか。
その雑多な街の色合いに目移りしていると、遠くの方で色んな型の飛行艇が忙しなく飛び交っているのが見えた。あそが飛行艇の発着所、つもりはエアステーションだろう。外郭街からここまで徒歩で来るのはかなり時間がかかるのだが、街の空気を知るにはエアカーで一っ飛びより歩く方がいい。それだけで今の流行がわかったりするものだ。
「やっぱ交易街は露店が多いな。お、あの剣カッコイイ」
ミツキと同様に目移りしているダンは一人呟く。
「ダン、買い物なら帰ってきてからにしてくれ。今は仕事優先だ」
「うるせえな。言われなくてもわかってんよ」
「ならいいが」
生真面目なところがあるラッシュと、どこか奔放的なダンでは噛み合わないことが多い。それでも親友と言うのだから人間はよくわからん、とミツキはいつも思う。
そんな二人を見てセチアがミツキの手を取る。
「ねぇミツキ。帰ってきたらショッピング行こう?」
「またか? べつにいいけど」
そのやり取りにダンとラッシュが待ったをかける。
「ちょっと待った!! なんでセチアがミツキと!?」
「いや、その前に『また』って!?」
この驚愕ぶりにミツキは驚く。なんだと言うのだろうか。
「いいでしょ、別に。ラッシュはすぐに他の女の子に声かけられるし、ダンはちょっと目を離すとすぐお酒飲むし。でも、ミツキだったら純粋に楽しんでくれるから」
ね、と言われて同意を求められるが、楽しいものは楽しいので素直に頷く。
二人が頭を抱えて膝から崩れ落ちたのを他の通行人から胡乱気に見られていたのは愛嬌と言うやつだろうか、とミツキは後からそんなふうに評する。
『ちょっと違うと思うぜ』
とさらにレグルが頭の中で指摘されるが、根本的にどうでもいいのでスルーした。
作者「どうも、作者です」
レグル「どうも、レグルだ」
作者「今話は頑張ったと言ってくれ! 空想の街なんて書けるかい!」
レグル「ま、確かに頑張ったんじゃね? ほとんど書きながら考えてたもんな。下書き無し。構想無し。でもなるべく詳細にイメージできるように書きたいって・・・無茶だろww」
作者「うっせえ、わかってるよ。実は交易街の露店の品物を見てこれはどこぞのモノだとかも書きたかったんだけど諦めたし。今になってから外郭街の詳しい描写をやればよかったと後悔だ0rz」
レグル「まあまあ、説明嫌いのテメエにしては頑張った。会話とミツキ視点の言葉足らずの地の文でイメージくらいはしてくれるだろ」
作者「そういうわけで、文章的におかしいとか、意味不明とか、そういうコメントとかあればよろしくお願いします」
レグル「そういうわけで頼む」
作者「読者の方にタメ口禁止」
レグル「グオ!? 精神体の俺を蹴りやがっただと!?」
作者「作者にはデフォルトでキャラクターに攻撃できるライセンスがあります」
レグル「く、すみませんでした。感想や批評があればよろしくお願いします」
作者「よしよし。良い子だ」
レグル「(覚えてろ)」
作者「さて、前回の後書きで言ってた通りランクの話が出たな。簡単にだけど」
レグル「お、この俺の仕事の時間だな。確かにランクの話は出た。それも凄い端折った感じで」
作者「仕方ないだろ? ミツキは全くの無知ではないっていう設定が生きてるんだから」
レグル「それもテメエの力量不足のせいだろうが。もちっとスムーズにできんのか」
作者「う、すいません」
レグル「素直でよろしい」
作者「(さっきの復讐のつもりかこの野郎)」
レグル「さて、ランクに関してだがどこまで説明するのがベターだ?作者の意見が聞きたい。今後の構成もあるだろ?」
作者「ん? んー、そうだなぁ。また本編で説明するけど。とりあえず各ランクの強さ的なやつを」
レグル「そうだな、じゃあ以下、モンスターのランク設定だ」
Gランク 最弱。人間が素手で追い払えるレベルの無害なモンスター
Fランク 武装した人間が(一人から数人で)倒せる弱いモンスター
Eランク 武装した一般人が徒党を組めばなんとかなるモンスター
Dランク 訓練を受けていない一般人にはどうしようもないモンスター。この辺りからは中型のモンスターもちらほら。
Cランク 軍の一般兵で一仕事なモンスター。基本的に中型以上。大型もちらほら。
Bランク 防護系の魔法や術式を扱うモンスター。軍の小隊や中隊が動くレベルのモンスター
Aランク このモンスター単体で小規模な町なら破壊してしまう。軍の大隊が出てもおかしくないレベル。ここから上をハイランクと呼ぶ。
Sランク このモンスター単体で街や都市を壊滅できる。軍の一個師団が出てようやくなんとかできるレベル。
Hランク このモンスター単体で国を滅ぼせる。国が総出を上げて被害を最小限に抑えるようにしなければならないレベル。
Xランク このモンスター単体で世界が滅びる。歴史上にXランクのモンスターは二体現れ同士討ちしたが、その争いで人間の歴史に空白ができたほど。
レグル「とまあ、ざっとこんなかんじか? 人間の戦闘力にランクを付ける時は個人で討伐できたモンスターのランクを付けるのが基本だな」
作者「おお! ありがとうレグル! 説明嫌いな俺に変わってこんな・・・!」
レグル「感極まってんじゃねえよ!! いいか? 本編ではこれ以上にちゃんとした説明するんだぞ?」
作者「えーー」
レグル「えーーって・・・テメエ作者だろうが(怒」




