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狂月の謀略 2話

指摘があったので報告です。


タイトルの読み方は「フェタリティ クレセント」訳すと「三日月の運命」ですね。


サブタイトルの「狂月」の読み方は「くるいづき」です。

「・・・頭痛い」

 もうすぐ春が終わることを告げるかのような温かい朝。

 開け放たれた窓からは柔らかな風も流れ込み、再度の眠気に誘われそうなほどだ。

 しかし、ベッドの上で状態を起こした少年はあからさまに不機嫌だった。

 別に朝が苦手なわけでもければ、低血圧なわけでもない。

 夢見が悪かった。

 ただ、それだけ。

「あの夢を見たときはいつものことだけど。傍迷惑だ」

 あの夢、と少年は比喩するが、正確には人の記憶だ。前世の記憶という者もいる。

 人間がいて、モンスターがいて、魔女がいて、戦争がある。

 あの夢の内容はそんなものだ。

 そして、現実の世界もそんな世界であり、少年の日常でもある。

 鈍い頭痛を無視するように二度三度と首を振り、ここ一週間で習慣になった左手の動作確認を行う。手を握って開いて、肩を回す。二週間前のモンスターの討伐の際に焼き千切られた腕も、どうやら完治したらしい。医者にはファンタジーだと言われたが、まあ気にしない。

 とりあえず、腕のことを除いても命が危ぶまれる程の重傷だったのだ。五体満足の体と九死に一生を得た命に頷いて、ベッドを降りる。もちろん、それだけのリスクを払う価値はあったのだから上々だろう。

 視界に映る部屋の風景は、とりあえず生活するために必要な物だけを揃えた殺風景な部屋だ。この部屋に住み始めたのは約二か月前。そしてこの一週間は怪我の療養のため寝ていたことを除けば、大半が仕事に出ていたのでこの部屋にはほとんどいない。そのため、ここが自分の家だという感覚は無かった。

 ――どうでもいいか。

 そんな言葉を胸中で呟く。

 


「・・・ふう」

 尾を引いていた眠気も、冷たい水で顔を洗ったら幾分かサッパリした。

 ふと、鏡に映る自分の姿が目に入る。

 この顔を自分の顔だと意識したのはいつのころだったろうか。その記憶はあやふやだが、その容姿が夢の中の人物と同じだと気が付いたのはほんの二、三年前の話だ。もっとも、あの夢に出てくる男性は青年と呼んで差し支えない容姿と体格だが、鏡の前に立っているのはまだ幼さの残る少年だった。もっとも、彼の持つ雰囲気で他人に子供と認識させることはない。

 とりあえずそんな思考は頭の隅っこに追いやって、タオルで顔を拭きながら朝飯は何を食うおかと記憶を手繰ってみる。

 買い置きの食パンが一切れ。

 少し味気ないような気もするが、少年は特に何を思う風でもなくオーブントースターに放り込む。


 同時に、どこからともなく銀色の霧が発生した。


 普通なら何事だと驚くかもしれないが、少年はいつものことだとソレから現れる人物に声をかける。

「なにか用か? レグル」

 その呼びかけに応じるように、銀色の霧から青年が現れた。

「朝の挨拶はおはようだろう? マスター・ミツキ」

「モンスターが人間のフリは止めろ、気持ち悪い」

「酷い言い草だな。ま、事実だけど」

 青年は口調の通り全く気にしていないようだ。

 青年というよりは、中性的な容姿をしている彼は美青年と呼ぶ方がふさわしいかもしれない。

 首から下はゆったりとした黒い外套に覆われていて、長身であること以外は謎。力強さを感じさせるほどの銀髪と銀の瞳は見る人に神秘を覚えさせる。

「で、もう一度聞くけど何の用だ?」

 ミツキと呼ばれた少年は再度尋ねる。淡白な口調だが、不機嫌というわけでもない。単なる疑問だ。

「お前の分の飯は無いけど」

「マスターじゃないんだ。そんなに食い意地は張ってねえよ。ちょっとした挨拶だ」

「挨拶?」

「そ、挨拶」

「誰に?」

「皆さんに」

「???」

 わけがわからん、とミツキはこのボケ猫との会話を諦めた。ボケ猫とはもちろんレグルのことだ。

「いやだってほら、ここで出とかないとタイミングが無いというか難しいというか」

「意味不明だけど、とりあえず用は無いんだな?」

「ま、ねえな」

 レグルの返答に、ミツキは一つ頷く。

「じゃあ、牛乳買ってきてくれ」

 レグルは唐突な依頼に一瞬返答が遅れた。

「・・・なんで」

「牛乳を買い置きしとくの忘れたから」

 人使い荒いな我がマスターは!

 そんな捨て台詞を置いて、出てきた時とは逆に銀色の霧の中に消えていった。



 レグルがお使いを終わらせて帰ってきたのは、丁度ミツキが朝食の食パンを食べ終わったところだった。

「ほらよ、牛乳」

 無造作に放り投げられたパック牛乳を、ミツキは危なげなく受け止める。

「ありがと。ところでお使い頼んどいてあれだけど。お前、金は?」

「持ってるわけないだろうが」

 何を今更という口調だったが、確かにその通りなのであまり気にしない。

「お前は人間じゃないからな。人間のルールに従う必要はないか」

「そういうことだ。この俺は天下の契約獣だぜ?」

 フ、とミツキの口端が小さく上がる。

「・・・天下の契約獣がパック牛乳を万引きか」

「主犯はマスターだろ」

「バレてないなら問題無い」

 呆れたというようなレグルの視線も、ミツキにとってはどこ吹く風だ。



「それで、マスター。もう仕事に出るのか?」

 ミツキはいつもの仕事服、つまりは戦闘服に着替えながら適当に答える。

「怪我が治ったんだから当たり前だ。むしろ、怪我が治るまでは仕事に出なくてもいいっていう方が俺にとっては変な話だ。お前もそう思うだろ?」

「まあ? 確かにマスターのこれまでを考えればそうだし、いつでも万全のコンディションで戦えるわけじゃないからな」

 だろ? とミツキはさも当然のように答える。

 疲れていても空腹でも、例え重傷だったとしても、その状態で戦えなければいざという時に困るだろう、と常日頃から考えている。もちろんそう考えるのには理由があって、彼は気がついた時にはモンスターが徘徊する森の中でモンスターとして生きてきたからだ。当時はコンディションが整っている時など有り得なかったから、逆に怪我の療養をしていること自体に違和感を覚える。

「そういうことだから行ってくる。頭の中に戻るか?」

「ん~~、そうだな。そうする」

 またも銀色の霧が発生して、数秒と経たずに掻き消えた。

 レグル、契約獣はミツキの頭の中が居場所だ。先程の姿も半実体として精神を表に出しているだけの仮の姿でしかない。本来は白銀の獅子ということになっているが、ミツキにとってはどうでもいいことだ。獅子はカッコイイとは思うのだが。

「で、お前本当に何しに出てきたわけ?」

『だから挨拶だって』

「・・・もういいや」

 相も変わらず掴みどころのない頭の中の住人を無視して、さっさと服を着替える。

 新調した黒いジャケットと黒のボトムスを履いて、両太もものホルスターにダガーを入れ、腰に大剣を備える。

 この大剣、今や実用には不向きな武器としてアンティークに数えられるものだ。「魔銃」と呼ばれる使用者の魔力、あるいは気力を吸い取って効力を上げる銃の機構を大剣に組み込んだ武器で、一般的に「荒れ狂う剣」と称される。アンティークとなってしまった原因は剣という形状と材質の組み合わせの不和による燃費の悪さだ。単純になんらかの魔法属性をつけたいなら専用の魔法剣というものがあるし、気力で強化するだけなら普通の鉄剣でも可能だ。わざわざ銃のシリンダーに魔力を込めてうんたらかんたらと複雑なことをする必要はないのでは、と無意味な武器という烙印を押された剣である。

 しかし、それでもミツキはこの剣で今まで生き抜いてきた。今となっては無手でも十分すぎるくらいの戦果を出せるのだが、帯剣している理由はやはりカッコイイからだった。

 もっとも、その大剣の黒い刃を見る者が見れば息を呑むほどの価値があるのだが。

「じゃあ、行ってきます」

 と、誰もいない家に人間らしく挨拶して、玄関を出る。

 ワンルームのアパートの三階だが、ミツキはいつも降りる時は階段もエレベータも使わない。

 そのまま飛び降りるのである。

 無音で着地するから意外と誰もその現場を目撃した人間は少なかった。




 ミツキがいるのは全陸地の7割をしめる「超大陸フレジオン」の北西の大国「リズブレア帝国」が首都「リズブレド」の「外郭街」だ。

 今、歩いているこの場所はそこまで清潔感があるわけではないが、首都の中心部を見やれば、ミツキの頭ではどうやって建てたのだろうかと首を(ひね)る程の巨大な建物群が軒を連ねている。一度仕事の都合で首都に入った時はあまりの綺麗さに驚いたものだ。しかし、首都の中心部のビルは基本的に赤系の塗装が多いため、夕陽の際には物凄く綺麗な街並なのだが、正直朝一番となると目が痛いだけだった。

 とりあえず、今は仕事だと目的地へ急ぐ。

 居住区を出て、ちょっとした市場のようになっている広場を抜ければ目的の場所だ。

 細い路地を曲がりくねりしていると、朝の喧騒が耳に届いてきた。

 外郭街、という響きのせいで貧困街という印象を持たれることがあるかもしれないが、それは大きな間違いだ。実はこの街、首都の中心部へ向かう者や出ていく者達の窓口のようになっていて、首都にとっても大事な収入源になっている。だからこそ、国が動いてこの街をある程度保っているのだ。

 おかげで、それなりの賑わいがあるこの街はミツキのお気に入りだった。突如群れで襲い掛かってきたモンスターを掃討してやるくらいには。

 そんなことや、その後入った「パーティー」での仕事の戦果、極めつけは二週間前の「古龍種」討伐。凱旋を果たした時にはミツキ自身虫の息もいい所だったが、まだこの街に来てから二カ月という短い期間の間にやってきた数々の所業はミツキの名声を上げるには十分だった。

 証拠に、露店の多い広場に足を踏み入れた瞬間に、街行く人々の歓声が爆発した。


「ミツキ!?もう怪我はいいのか!?」

「おお!!期待の超新星の復活だぞ!!」

「クリアの救世主!」

「また派手に頼むぜ!!」

「その調子でアギトどもなんざ捻り潰しちまえ!!!」


 などなど、ミツキを褒め称える歓声が途切れることはない。

 だが、ミツキはそれに対して特にどうこう思うことはなかった。

 もともと、名を上げるのは目的のひとつだったから騒いでもらうのはかまわない。

「(まあ、大きな勘違いがあるけど)」

 そう、ミツキは人の世を守る正義の味方(クリア)ではない。


「(俺はお前らを食い潰す、人間と言う名()の思考を持っ()たモンスター()だ)」








作者「どうも狂月です」


レグル「どうも文中でも挨拶させてもらったレグルだ」


作者「ホント、バカみたいな登場だったよな。今後登場シーンがほぼないからってあんなww」


レグル「グ、自分でやっといてその態度か。さすがはミツキの生みの親」


作者「いや、でも実際困ったのは確かだしな?なんせ、設定は重要なのにキャラとしては重要じゃないって、本当どうしようかと思った。序盤だけに限ればだけども」


レグル「で、打開策がこれってわけか」


作者「そう、レグルのことを忘れられても困るから、ここで用語のちょっとした補足をやってもらおうというわけですよ」


レグル「あーあー、わかったやるよやりますよ作者様。というわけで、今作の用語や世界観の補足はこの後書きの方で、この俺『契約獣、銀風の帝王レグル』がやらせてもらう。というわけで、次話でまた合おう」


作者「うお、締め取りやがった!」


レグル「ざまーみろ」

  

   注※レグルはドのつくSです。

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