狂月の謀略 10話
夕焼けに染まり、美しい景観を湛える帝都リズブレド。高台に屹立する高層ビル群の中層、その一画である繁華街も、国の看板としての華やかさと賑わいを見せつけていた。
そんな中にあって、極めて不穏な空気に呑みこまれている場所、いや、者たちがいる。
相対しているのは四人。二対二という分かりやすい図式だ。
一方はこの帝都でも有名な正規パーティー「交錯する稀星」の中心メンバーである。
もう一方は四大一都二勢の一、非正規パーティーの頂点「連剣の鎖」のリーダーだ。
しかし、この不穏な空気を作っているのはその二人ではない。
彼らは人として戦闘屋となった人間だ。一線を守ることは容易いだろう。
問題は彼らの後ろに控えている二人の少年だ。
一人はモンスターとして生きている少年。
一人は人として生きることができない少年。
それぞれ「狂月」「凶月」と呼ばれるモンスター。
だからこそ、言い換えよう。
この不穏な空気に呑み込まれているのは二人の人間だ。
そして作っているのが、二人のモンスターだ。
モンスターに、人が守ろうとする一線を守ろうなどという思考は存在しない。
「待て! セロ!!」
「待って!! ミツキ!!」
連剣のリーダーであるローラス=チェインズと、稀星の幹部であるセチア=ハーブが、それぞれ制止の言葉を叫ぶ。
必然。モンスターに人間の言葉など届かない。
狂月は腰に下げた魔銃の機構を組み込んだ大剣、荒れ狂う剣を引き抜き、
凶月は展開された魔法陣から出現した自身よりも巨大な大鎌を掴み取り、
気が狂いそうになるほどの凶しい力が激突する。
――その、美しい街並みの中心で。
とある豪奢な一室で、呆れ顔で溜息をつく男が一人。
騎士を象徴する、洗練された白銀の甲冑に身を包んだその男は、机にたてかけてあった愛用の両手剣を手にとって鞘ごと左の腰に装着する。
黒髪に灰色がかったダークグレイの瞳と、甲冑にある堂々と身分を明かすエンブレムを見れば、それが誰であるか世界中の人間が認識するだろう。
リズブレア帝国、近衛師団総司令官「アレス=ルーイン」
十八年前の第十次灼欄大戦の立役者であり、
当時若干十五歳にして英雄の座に名を連ねた人物である。
アレスは両手剣の掴を軽く握るのに合わせて、短く息を吐く。
心情としてはこうだ。
「まったく。やってくれたな」
今感じているのは、それこそ国家間同士の戦争が間近で勃発してるような異様な空気だ。
気が狂いそうなほどの凶しい空気。
かつての大戦を思い出させるには十分な空気だった。
この帝都のど真ん中からそれを感じられるのが呆れる理由。
その空気を作っている原因がたったの二人であることが、溜息の出る理由だ。
しかしそれでも、自分が出ないわけにはいかないだろう。
「やはり、貴方が出ざるをえませんか」
声をかけてきたのはこの部屋の、ひいてはこの帝国の主。
リズブレア帝国が女帝「ミクリ=ド=トロア」
妙齢の美女と評判のこの国のトップも、アレスと同様に呆れた表情、声色だった。
「仕方なく、というのが正しいだろうな。兵には動くなと厳命してあるが、貴女からも通達してもらおう。守りながらではさすがにな……」
「ええ、承知しました」
「頼む」
どちらが主なのか分からなくなるやりとりだが、彼らはそれがいたって普通のことのように振る舞っている。もちろん、公式の場ではその限りではないが。
言い置いて、アレスはテラスに立つ。
高台に屹立する帝都からさらに上空、アスフィアがもたらす導力を浮力に変換する巨大な天然の浮遊岩。そこに建築された帝都・王帝宮の高みから、今、時代の英雄が最強クラスのモンスター同士によるじゃれあいに、割って入らんと躍り出る。
無音にして、爆発的な加速を自らの脚力で生み出したミツキは、全く、何一つ飾らない強襲をしかける。
襲いかかる黒い大剣。
迎え撃つは黒い大鎌。
二人のモンスターが打ち鳴らした斬撃音は、周囲の空気を吹き飛ばす程の衝撃波を生み出した。
その一撃だけをとっても、二人の実力を推し量ることができるだろう。
しかし当然、ただ一撃放り込むだけで終わるミツキではない。
受け切れなければそれで終わり。しかしセロは受け止めるだろうことは織り込み済み。目的はその場に釘づけにすることだ。
間断無く、いつ取りだされたのか、ミツキの後方から高密度の気力を纏ったダガーが二本、高速でセロへ飛来する。
セロはミツキの大剣を止めたまま、複雑幾重にも重ね合わせた魔法障壁を展開させた。
ダガーは障壁破壊の効果を付与されていたが、魔法抵抗も重ねた障壁に半ばほどでその勢いを殺されてしまう。
不意を突いたダガーを止められ、鍔迫り合いになる二本の黒い刃。
拮抗する、と思われた刹那。
ミツキは黒い大剣を手放す。
「吹っ飛べ」
「……ッ!?」
手放されながらも押し込んでくる大剣を、セロは無視することもできず、その一瞬の意識の分散から、文字通り下から上へと吹き飛ばすような蹴りをまともに受けてはるか上空まで打ち上げられる。
ミツキはそれを好機と判断して、宙に蹴り上げたセロへ大剣を投擲した。
「……ぐ」
ここまで見事に吹き飛んだことに対して、セロは特に何も思わない。問題なのはこちらが反撃する隙を与えてくれないミツキの連撃だ。
一瞬の思考の中にあっても、無造作に、だが確実に投擲された大剣を弾き飛ばす。
と、またも息をつく間もなく二本のダガーが不意をつく形で目前に迫っていた。
今度もまた、魔法障壁を半ばまで壊された所でその勢いを止めることに成功する。
しかし、
(……強度はさっきの数倍だったのに)
ようするに、初撃は相手も手加減していたことになる。
「……やるな」
小さくも、極めて珍しい評価を下した。
「それはどうも」
「ッ!?」
全く有り得ないことに、はるか地上にいるはずのミツキの声が自分の後ろ、つまりさらに上空から聞こえたのだ。
まったく――、
「……ふざけた奴だ」
小さく呟かれた言葉と同時、セロの膨大な魔力を通された黒い大鎌はさらに凶しい輝きを放ち、振り下ろされたミツキの強撃を完全に受け止める。いや、
完全に、押し返した。
予想外の力で押し返されたミツキは、少しの驚きと共に数メートル後ずさった。
驚いた表情のまま、底を見せない魔力の強大さを見せるける凶月を見やる。
純粋な魔力(気力も)は無色透明。そこに個人の本質が加わり色が付く。
凶月の魔力色はくすんだ黒。
契約獣、暗夜の魔神、ディアボロスの色。
質量共に、最凶と謳われるにふさわしい魔力だった。
ミツキの顔が、狂笑に染まる。
久方ぶりに敵を見つけた、モンスターの笑みだ。
「こういうのはあれだ」
これは、呼びかけ。
「……?」
そして、宣言。
「上等だ」
ミツキから表情が消え、狂月へ。
同時に空気が、アスフィアが、狂い、
世界が変わる。
空気と共に存在す魔力素、アスフィア。
本来ならば機械を動かすための力である。
しかし、アスフィアにもっとも影響を与えるのは機械ではない。
其の本質は感情。
モンスターの持つ「殺し」の感情。
在るモノ全てを破壊しようという、一切混じり気の無い破壊衝動。
狂月の周辺、見渡す限りの全ての空気が狂い、世界が変わる。
人が住む街の日常が、
一人のモンスターが放つ狂気によって、
モンスターの戦場という名の非日常に、変わる。
その中心で立つ狂月の瞳は、淡い黄色の月色の瞳。
その相貌の淡くも強い輝きは、全てを狂わす、狂月のごとし。
狂月の狂気に呑み込まれたセチアは、緊張から体を動かせなくなっていることを自覚していた。しかしそれでも、腰を引かず、膝を折らない。
――それができるセチアの強さ。
――それしかできないセチアの弱さ。
そんな胸中のせめぎ合いの中で、狂月の導力、いや、狂気にあてられた右腕のうずきを押さえつけながら、なんとしてでも目標を見据える。
凶月は驚く。自分のただ研ぎ澄ました魔力とは違い、ひたすら強大にした狂月の狂気に。
アスフィアを扱う力を導力と言うが、そう言うにも生ぬるいほどの狂気。
(……なるほど、つまりこれが、狂月が狂月と呼ばれる所以)
感情の乏しいセロにも十分に感じられる狂気。
相手を威嚇する殺気とは全然違う。
まさに、何千何万のモンスターが激突し合っている世界に放り込まれたかのような錯覚を、覚えさせられるほどのものだ。
弱きモノは、恐怖に心を砕かれるか、狂気に呑まれ暴走してしまうかだろう。
強きモノは、
(……狂月の狂気で、あらゆる柵を吹き飛ばす)
そして柵が無くなったモノに残るものは、
「……全力」
悟って、思考も感情も、自らの全てを狂気に委ねる。
委ねて、人間を完全に失った凶月は、誰もが最凶と認める魔力を爆発させた。
初めてと言ってもいい、全力の自分と全力で戦える存在に、凶月は心の底から嗤った。
その笑みに釣られ、狂月も嗤った。
三度目の、今度こそ様子見ではない全力の激突。
を、
「そこまでだ」
最強と称えられるこの国の英雄が、
狂月の荒れ狂う剣と、凶月の巨大な大鎌を、
愛用の両手剣の刃と柄で、止めた。
作者「どうも、作者です」
レグル「どうも、レグルだ」
作者「……」
レグル「何か言うことがあるだろ?」
作者「え? レグルのハニーの出演がいつになるのかわからないこととか?」
レグル「違うわボケ!!」
作者「あー・・・はいはい、うんあれだほら・・・なんだっけ?」
レグル「・・・ガルルル」
作者「∑(゜△゜;) 銀風の帝王降臨!? マテ! そのでかい口と牙で噛みつかれたら洒落になってませんよ! つか、それはどこぞのシスターさんの固有スキルだ!」
レグル「テメエもどこぞの不幸野郎のセリフ使ってんじゃねえか。というかさっさと言うこと言えよゴミ」
作者「じ、自分の作ったキャラにゴミって言われた・・・」
レグル「たいがいにしろよ塵屑」
作者「ご丁寧に漢字で!?」
ガチン!!
作者「ぎゃーーーーー!? すいません! 更新遅れてしまってホントスイマッセン!! 時間無くてお世話になってる方の小説も読めずにホントスイマセーーンヌアアァァァaaaaa!!!」
レグル「後何回牙が頭を貫通すれば反省するんだこの駄作者は」
作者「ほんっと申し訳ない読者様・・・いやふざけてるわけではなく」
レグル「この文見てふざけてないって思ってくれる読者は何人いるんだろうな」
作者「じゃ、噛むなよ。自重しろ自重。謝罪とは誠心誠意態度と言葉で表現するものなのデス。決して牙が脳髄を貫通しながらいうものではなしにつきけることなのだよ」
レグル「・・・もう一回噛んだら元にもどるか?」
作者「すいませんでした! なにもかも!!」
レグル「ふー・・・というわけだ。許してやってくれ、時間が無いのは本当みたいだしな」
作者「お世話になってる方の作品に関しても、必ず時間取って感想書きに行きますので!」
レグル「よし。言いたいことは言ったな? じゃあ仕事の時間だ」
作者「何について話すわけー? この短いわけのわからん抽象的戦闘描写で」
レグル「もっかい噛んでもいいか?」
作者「ワタクシのせいですよねー」
レグル「今回は狂気についてだ」
作者「はい、ぶっちゃけ導力と狂気の違いがわかりません」
レグル「ホント、なにもかもテメエのせいだよな」
作者「そんなこと言わずに、ささ、説明説明」
レグル「・・・租借するのは後にしよう。とりあえず導力は、一つのエネルギーとして空気と共に存在しているもので、飛行艇などの動力機関を動かす力のことだ。空気中に普通に存在してるエネルギーだから、機械を動かす場合は効率がいい。使っても消費されないからな」
作者「酸素を吸って酸素を吐く、みたいな?」
レグル「人間で言えばな」
作者「ほほー、なるほど。超便利だな」
レグル「もちろん弊害もある」
作者「というと?」
レグル「アスフィアの濃度が濃すぎると、そのアスフィアを動力に変換する魔石が暴走するんだ」
作者「ああ、人間も酸素を吸いすぎたら毒になるもんな」
レグル「理屈は同じだな。で、機械の動力機関を例に上げたか、これを戦闘利用する際、単純にアスフィアを取りこみすぎると体内から拒絶反応を起こして、下手したら死」
作者「こわっ」
レグル「それがリスク1。2は、作中でもあったと思うけど、アスフィアに影響しやすいのは感情なんだ。笑いが伝染したりするのを思い浮かべると良い」
作者「はっはっはっは!・・・つられて笑えよー」
レグル「・・・で、アスフィアを戦闘利用しようとして、魔力や気力の代わりに技のガソリンにした時、使う時々の感情で同じ技でも威力が変わってしまうんだ」
作者「人間、誰しも同じ一定の感情のままではいられないもんな! 好調の時もあれば不調の時もある! うんうん」
レグル「それが、人が使う場合の導力だ」
作者「レグルが構ってくれなーい」
レグル「今回ミツキが使った狂気は、モンスターが使う導力だ」
作者「・・・・」
レグル「(やっと黙ったか)アスフィアが異常なほどの密度を持っている地域では人は住めない。機械が使えないし、なんの拍子でアスフィアに殺されるかもわからないからな」
作者「・・・・」
レグル「(仕事がやりやすいならいいか)そしてそういう地域はモンスターの巣窟、厳密には、異常アスフィアを生まれながらその身にさらし続けた凶悪なモンスターの巣窟だ。人は異常アスフィアの世界では生きられないが、そういう地域で生きているモンスターは強くなる」
作者「・・・・」
レグル「(ほんとどうしたんだ?)何故なら、その異常アスフィアに耐えられるように進化するからな。結果、1しか扱えない人間と機械、10扱えるモンスターというように、圧倒的なキャパの差が出来る」
作者「・・・ニヤッ」
レグル「(なんだあの笑みは?)なかでもぶっ飛んでるのが、大森林バルハラのモンスターだ。あそこの異常アスフィアの濃度は世界最悪とも言われてる。詳しくは省くが、そこのモンスターの上位クラスは、皆その異常アスフィアを導力として扱うことが出来る。もちろん、モンスターの感情なんざ生存本能だけだ。故に、その感情の働きかけで、通常のアスフィア密度を滅茶苦茶にしてしまうわけだな。それこそが、狂気。
長くなったが、この世界のもっとも重要な部分なのであしからず。本編でもまた説明されるだろう」
作者「・・・・ッ」
レグル「おい、いい加減なんかしゃべれ」
作者「スゥーー・・・レグルのハニーの裸の描写を載せるのはどうかな!!!?」
ガチンガチンガチン! グシャグシャ!! グッチャン!