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狂月の謀略 9話



「それしか方法は無いんだな?」

『俺が思いつく限りでは』

「そうか」

 今なお立ちこめる戦塵を見つめるミツキは、レグルと最後の確認を取り合う。

「仕方ないかな。今の俺じゃ、上手く立ち回るなんてできないし。次善策ってやつかな」

『最悪の回避、ともいうな。こういう時は』

「最悪じゃないならいいさ」

 交錯する稀星(クロスアウター)の三人がモンスターの群れと戦闘を開始して数十分、序盤の内に敵の主立ったAランクモンスターを打ち取ったことで決着がつくのは時間の問題だろう。

 ミツキは自分に襲い掛かってくるモンスターだけを蹴散らしつつ、三人のもとへ向かう。

「この仕事が終わったら最後、だな」 

 そもそも、今回仕事を受けてここに来たのは王帝宮からの召集を長引かせるためだ。ミツキは良くしてくれる稀星の中で学びたいと思ったし、稀星の面々も戦闘に関しては国の英雄と並び立つ程の実力を持ったミツキに学びたいと思った。奇しくも、彼らは学びたい云々以前に気があった。己の願いを叶えるために一切の努力を惜しまない。そこが彼らの共通点だ。それに稀星は結成当時から一枚岩と称される正規パーティーである。後から入ってきて、しかも確固とした自分の意思を持ったミツキは本当の意味で仲間になることは無かった。

 しかしそれでも、彼らは友達だ。

 その友達のミツキが、王帝宮に行きたくないと言っている。しかもその理由は軍属せずに独立したラッシュ達と同じ気持ちからだ。パーティーの立場が悪くなるという理由だけでミツキを見放して王帝宮へ送れば、それは稀星の存在理由を自ら否定することになる。

 己が願いを叶えるために作ったのが、正規パーティー「交錯する稀星」なのだから。

 

 だが、現実はそう甘く無かった。


 こともあろうに、あの『連剣の鎖(チェインズ)』がミツキの入団を求めているというではないか。

 考えられる状況の中で、これは最悪の板挟みだった。

 ミツキを王帝宮に送れば、連剣の報復を受けるかもしれない。

 ミツキを連剣に取られれば、正規パーティーとしての権利を国に剥奪されるかもしれない。


 その状況を話し合ったわけではないが、ラッシュ達は理解していた。

ミツキは今しがた状況と打開策をレグルに聞かされた。

そして示されたのは一つの答え。

 ミツキだからこそ、友達だからこそ出来得る、最悪の回避だった。



「ラストだ!!」

 叫び、最後の気合を込めた大剣を、苦し紛れに跳びかかってきたモンスターの脳天に豪快に叩き込んだ。

 ダン、ラッシュ、セチア。

 三人は荒い息と共に、自分達がいかに成長したかを実感した。

 周囲に死屍累々と転がっているモンスターの死骸。放っておけば二、三日でアスフィアに分解されて消えるだろう。三人にとっては自分達の力の証になる。大小あれど、ガッツポーズを取ったのは皆同じだった。

「よし、よさそうな魔石があればさっさと回収して、早いとこ町に戻ろう。これだけ大きな縄張りが消失すれば、周辺モンスターの動きも荒れてくる」

 最初から想定していたことを皆に伝えるラッシュ。

 今回の仕事はほぼ完璧に成し遂げたと言っていいだろう。Aランクモンスターを三体討ち取ったこともそうだが、なにより大事なことは、身動きが取れなくなるほどへばらなかったことだ。どんな戦闘をしても必ず余力は残す。これはミツキの教えだった。

「そうだな。そんじゃま、ちゃちゃっと終わらせ――ッドワ!?」

 いきなり、ダンが顔面から地面にダイブした。

 後ろに立っているのは片足を前に突き出したままのミツキだ。

 何をしたのかは、一目了然。そして、

「油断大敵。俺が敵なら死んでたな」

 どこか笑いを含めて投げられた言葉もまた、予測通りだった。

 数分前までモンスターの群れと命の掛けの戦闘をしていたこの場所で、小さく穏やかな笑い声が響いた。



 一行は任務終了の報告を依頼人に伝え、何事も無く飛行艇に乗り込み岐路についていた。

 呆気無かったな、とラッシュは思う。

 ミツキが自分達といることを引き延ばした所で、最終的には王帝宮なり連剣なりにとられるんだ。考えたくはないが、自分は一組織を預かる身だ。どちらにミツキを取られても、稀星は取られなかった方から致命的なダメージを受けるだろう。初めは王帝宮に取られる、その程度のことだったから今回の仕事は餞別代りの思い出づくりとして簡単に出て来れたわけだ。

 そんな軽い気持ちでいる時に旧友ワルドから伝えられた凶報。


 連剣が狂月を狙っている。


 まさに、裏目に出たとはこのことだった。

 稀星のリーダーとして、ミツキの友達として、そして一人の望みを抱えたアギトとして、

「(俺に一体何ができる?)」

 何かを犠牲にすれば、すぐにでも答えは出る。

 しかしどれも簡単に切り捨てられるはずがない。

 だからこそ思考は堂々巡りする。

 ぺし、とミツキに手刀で額を小突かれた。

「!?」

「ゆだんたいてーき。眉間に皺寄せて何考えてたんだ?」

 ん? と小首を傾げるその様は戦場で怪物となるアギトと同一の存在とは思えなかった。

 地味に痛かった額を軽く手でこすりながら、小さく笑う。

 

 ――なるようにしかならないこともある。


 ほとんど諦観だったが、狂月の狂運が、案外なんとかしてくれるのではないかと、この時はそう思った。



 再び帝都に一行が戻ってきたときは日が傾いた黄昏時だった。高台にある帝都は赤く揺らめく夕日を浴びて、もともと赤色主体のこの街はなんとも言えない神秘的な赤さを湛えていた。

 世界最大の森林にして完全なる未開の地『ヴァルハラ』にいた時、ミツキは夕焼けなどというものなど見たことがなかった。森の中は常に薄暗く、日中ですら木々の間を縫って届く僅かな光芒しかない。その後人里に出てきた三年間も、自然に目を向ける余裕が無かったし、目を見張るほどの美しい自然など無かった。だからこの街で初めて、この夕焼けに染まる街を見た時は心から感動した……のだと思う。今までにそんな感情を感じことがなかったからはっきりとはわからなかったが。

 一行は帝都中層の繁華街に来て、晩飯時までは自由時間だと解散していた。

 出発前に言った通り、ミツキはセチアと行動している。ダンとラッシュはひどく落ち込んでいたが、まあ気にしない。

 ミツキはそこかしこで売られている食べ物――今は肉まん――を頬張りつつセチアのショッピングに付き合っていた。たまに聞かれる「どっちの服が似合う?」という質問にはほとほと困り果てるわけだけども。

 こんな平和も悪くない。

 それがミツキの、狂月としての率直な思いだった。



「やっぱり帝都の中層は、歩いてるだけでも楽しいね」

 両手に買い物袋を抱えた人間のセリフか、とミツキは内心でツッコム。買い物のことで女にツッコミをいれても碌なことがない、とはダンが教えてくれたことだ。多分、世の男性諸君にお伺いを立てれば、まず間違いなく「大正解」だと返答が返ってくるだろう。

「なあセチア。交易街でも騒がしいのに、なんでここもこんなに賑やかにしてるんだ?」

「ん? そうだね。交易街は、国外の色が強いから、こっちはむしろリブブレアに住む人用かな。繁華街の方は国外から来た観光者向けの街並みだよ。よーするにこれが帝都って言いたいの。もちろん私達国内の人間でも全然楽しいんだけどね」

 と、本当に楽しそうにニコニコ笑ってるからその通りなのだろう。それと、戦闘後にこれだけ自然にはしゃげる体力がついたことも、ついでに褒めておく。以前は戦闘後、体力的にも気持ち的にも極端に消耗していた。

「こうやってゴラクに興じられるのは人間のトッケンだな」

「……その難しい言葉は誰に聞いたの?」

「ラッシュ」

 今度は串焼きを手にとりつつ素直に答えるミツキに、セチアは綺麗な笑みを零した。

 やはりこれが、人としての小さな幸福。

 生きていくためには必要不可欠な幸せ。

 されど、それは人間の世界だけのお話。

 モンスターの世に、そんな幸福は不要。


 必要なのは――





「必要なのは、力だけだ」


 数メートル前方から聞こえる「悪」の声。

 それは日常を壊す、悪意ある力。

 

連剣の鎖(チェインズ)が頭領、Sランクアギト、ローラス=チェインズ。


 リズブレアではごくごく普通のロングパンツにジャケットをわずかに着崩した男は、表情こそ動かさないが、纏う雰囲気は凶悪そのもの。四大一都二勢、その一つの勢力を束ねるに相応しいアギトだった。

 さらに、その男の後方に直立しているのは、そこらの浮浪者がきるような質素な衣服を着こんだ子供。ただし、浮浪者が着るものとは明らかに違う点がある。

 ――それは血臭。

 顔を背けたくなるほどの、血の臭いを纏わりつかせていた。

 伸びた黒髪の奥に見える漆黒の瞳にはなんの感情も映さない。

 まるで少年の形をした精巧な機械のようだった。


 連剣の鎖がエース、Hランクアギト、『凶月(まがつき)』セロ=チェインズ。




「ローラス、それに凶月……!」

 最悪だ、とセチアは緊張に身を固くする。

 もちろん連剣がミツキを狙っていることなど知っていたし、どうやら偵察もしていたようだとミツキ本人から聞いた。しかしまさか、こうも早く、しかもこんな街中で接触してくるとは思わなかったのだ。

 背に冷たい汗が流れるのを感じつつ、セチアは無意識のうちに右腕を包み込む数多の魔法装飾に魔力を通す。

 その様を見て、ローラスは口の端を僅かに釣り上げる。

「落ち着くといい、お嬢さん。我々は狂月と交渉しに来たのだ。ここでやり合うつもりはない。セロを連れてきたのは保険代わりだ。むしろその保険が下りないことを私は願うがね」

 重低で硬質な声は、セチアの身を小さくさせる。

 戦闘者としての格が違いすぎた。

 さっきまで感じていた自分の成長など軽く消し飛ぶほどに。


 この状況に心の底から楽しそうに笑ったのは、人間のフリを止めた狂月だった。






 外郭街、交錯する稀星本部。

 交易街で解散した後、ラッシュは一足先にホームへと帰ってきていた。

 帰着早々、部下の一人が血相を変えてラッシュの前に飛び出して来た時は何事かと思ったが、なるほど、慌てるには十二分な理由だ。

 その理由は目の前に存在する。

 燃えるような赤く長い髪に、焼きつけるような赤い瞳。いかつい帝国の騎士甲冑に身を包みながらも、流麗な曲線美を見せつける美女は、二十歳そこそこで、帝国の英雄に次いで有名な女騎士だ。地位を示すその胸に掲げる四本のダガーで模したエンブレム。それが意味するのは、帝国軍最強の部隊「クロノス」の証。


 近衛師団「クロノス」の副司令官、Sランククリア、サラ=フレイヤ。

 

 本部の事務所に入って、固まってしまったラッシュを見て取り、訪問した側の礼儀としての挨拶を交わそうと、サラは口を開いた。

「私は帝国軍近衛師団副司令、サラ=フレイヤだ。手紙では埒が明かぬと我が女帝の命により馳せ参じた。ミツキ=クレセントに合わせていただきたい」



 交錯する稀星が誕生して数年。

 ここが、彼らの今後を占う分かれ道であることは、疑いようがなかった。









作者「どうも、作者です」


レグル「どうも、レグルだ」


作者「いやあ、やっと動いたな!」


レグル「一週間も悩んだ挙句な」


作者「しゃーねーだろーよ。読者のキャラに対するイロイロを考えるとこれがベストだったんだよ」


レグル「いろいろってのはなんだ」


作者「つまりだな。物語的に、ミツキはラッシュ達の仲間じゃないだろ? 今後はまた別の誰かと行動したりする。だからあんまりいろんなエピソードをやって、稀星のメンバーに愛着を持ってもらっちゃ困るわけだ」


レグル「ふうん、なるほど」


作者「だけど逆に、稀星は今後も活躍してもらう場面がある。その時読者に忘れられると困るわけだ。だからそのバランス取りが難しくて」


レグル「ははあ、なるほど」


作者「・・・他人事だな」


レグル「なんせ俺、ここで仕事貰ってるから忘れられる心配ねーし」


作者「そんなことを言うとアレだ。レベル変動の主人公にパロディでここの仕事やってもらうぞ。俺だって女の子と話す方が楽しいし」


レグル「な!? それは勘弁してくれ! ただでさえ本編じゃほとんど出番無えのに!!」


作者「クックック、それが嫌ならあまりナメた発言はしないことだな」


レグル「(この野郎、最近攻めに転じれないからって作者の権力を持ちだすとはなんて奴だ)」


作者「けど、まあそうだな。雫にパロディでこの世界にきてもらってもいいかもな」


レグル「あん? 役所どうすんだよ。自分で作ったキャラが大好きなテメエじゃ、無碍に扱うこともできないだろ?」


作者「そうだな。でも少し考えたんだよ。確かにメインヒロインはあの子だと決めてるけど、最近雫がやってもいいじゃないかなーと思っ――」


レグル「ダメだ!! それは許さん!!!」


作者「うお!? なんだいきなり大きい声出して」


レグル「馬鹿野郎テメエ。よく考えろよ? 雫ちゃんは確かに良い子だ。ミツキの隣に立っても違和感は無い。しかしな、最大の問題は、あの子はDOのつくSだ」


作者「は!? た、確かにその通りだな!」


レグル「しかしあの子はどっちかと言うと、というか間違いなくMだ」


作者「うん、そうだな!」


レグル「なら、いじめられてる女の子のほうがカワイイじゃねえか!!」


作者「確かに!!」


レグル「というわけで、雫をゲスト参加させるのは良いと思うけど、メインヒロインは譲れない」


作者「・・・うーん、だとしたらどこで雫出すか、ちょっと真剣に考えてみるか」





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