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【短編版】ヤンデレ竜娘が折ったツノで剣を作ったんだが、愛が強すぎて俺専用の魔剣になっている件

作者: 或鬼ながら
掲載日:2026/04/05


 鉱山の洞窟奥で、俺は黒いドラゴンと出会った。


 全長は尻尾を合わせて十五メートルはありそうだ。

 立ち上がれば、立派なツノも含めて全高は五メートルほどだろうか。


「お前、まさか……幻影竜か? 珍しいな……」


 漆黒の甲殻に紫紺(しこん)の眼。四本脚と巨大な翼を持つ姿は、間違いなく幻影竜だった。


 正直、こんな狭い空間でドラゴンに出会ってビビっているが……幻影竜は俺の姿を見ても唸ることさえせず、ただぐったりと横たわっていた。


「……なんだ、怪我してるのか?」


 松明で照らしてみれば、全身が傷だらけ。

 まだ新しいようで、血が滴り落ちていた。


 冒険者に狩られそうになったところを逃げてきたのだろう。幻影竜は冒険者ギルドで多額の報酬金が用意されている。


「苦しいのか? おい睨むなよ、俺にドラゴンを狩る力はないって」


 紫紺の眼で睨みつけてくるが、声を掛け、落ち着かせながら必死に息をしている幻影竜に近寄る。


「ちょっと染みるぞ。あとで木の実持ってきてやるから、それ食って体力戻ったらここを離れてくれよ。採掘できないからな」


 そうして俺は手持ちのポーションや薬草で幻影竜の傷を手当てした後、適当な木の実を与えてやる。

 これだけやれば、生命力の強いドラゴンならすぐに飛べるようになるだろう。


 こちらをジッと見ている幻影竜に、伝わっているかはわからないが「じゃあな」と別れの言葉を告げ、俺は鉱山を後にした。



  ■■■



 ──鉱山で瀕死の幻影竜を助けてからひと月経ったが、俺の日常は変わらない。 


 俺は街外れの森に工房を構えているしがない鍛冶師だ。

 冒険者向けに武器を作っては街で商売しているが、売れ行きはよくない。


 だから、きっと良い剣を作れば売れると信じて。

 今日も俺は、いつものように鍛造炉の前で全身が焼けそうになりながら鉄を打つ。


 ──はず、だった。


「────コルルッ」


 その日、工房の庭にドラゴンが降り立った。

 長い尻尾は地面を叩き、黒い翼は風を孕んで周辺の木々をざわめかせる。


「ど、どうしてこんなところにドラゴンが……」


 そのドラゴンは唖然とする俺を睥睨(へいげい)し、夜空を作るかの如く大きく広げた翼が影となって、紫紺の眼が淡く光っていた。


 ……あれ?

 あの眼……この威圧感、その圧倒される美しさ。

 その姿には見覚えがある。


「幻影竜……! ま、まさかお前、鉱山に居た奴か!?」


 思わず声を掛けると、幻影竜はゆっくりと首を垂らした。

 頷いた……のか。


「良かった、傷もすっかり癒えてるな……」


 傷もなくなり、こうして陽の下で見ると惚れ惚れするほど美しい。

 特にその漆黒のツノが……と、そう思った瞬間。


 幻影竜は、おもむろに自身の尻尾で左のツノを掴む。


「……え? おま、何して!!」


 ツノはミシミシと音を上げ、しかし幻影竜は構わず尻尾に力を込めて──。


 ────バギィッ!!


 そのまま、勢いよく折ってしまった。


「う、嘘だろ……折りやがった……」


 鈍い音を上げて折れたツノは、尻尾を離れて地面に突き刺さり、黒曜石のような光沢のある断面がきらめく。


「お、おい、ドラゴンのツノは魔法の制御器官だろ!? それを自分で折るなんて、何考えてんだ……!」


 ドラゴンにとってツノは命の次に大切なものであり、己を象徴する誇りのようなものだ。

 それを折ってしまうなんて、正気とは思えない。


 しかし、片角を失って甲高く鳴いていた幻影竜は、頭を左右に振って意識を保つと、空に向かって力強く咆哮した。


「────────!」


 その声は風に流され、解けていく。

 刹那、幻影竜の足元に紫色に光を放つ魔法陣が現れた。


「なっ、まだ魔法を使えるのか!?」


 魔法陣の光に包まれた幻影竜は、次の瞬間に姿を消し。

 代わりに俺の目の前に立っていたのは──。


「──よかった、上手くいって……フフッ」

 

 どこかの令嬢と見紛うほどに可憐な美少女だった。

 ツノを失い痛みもあるはずなのに、まるで静かなそよ風を思わせる声をしていた。


「私、シャーテと言います。あの時は、助けてくれてありがとう」


 少女はお礼を言うと、ぺこりとお辞儀した。

 腰まで垂れた冬の夜を思わせる艶やかな黒髪は、背中の翼に髪束が幾本か引っかかっている。

 尻尾は左右にゆらゆら振っていて、感情が溢れ出しているのが見て取れる。

 そして頭には、可愛らしい少女には(いささ)か似つかわしくない竜のツノが片方にだけあった。


「お、驚いた……ツノを片方失っても変身魔法を使えるのか」

「どうしても、お礼がしたくて……」


 幻影竜──シャーテは地面に突き刺さっていた自分のツノを引っこ抜くと、俺に手渡してくる。


「……このツノを、俺に?」

「…………」


 シャーテは無言だが、コクコクと頷いた。

 というか、奈落のような紫紺(しこん)の瞳がジッとこちらを見つめ、「受け取ってください」と強く訴えている。


「お礼って、なんでそこまでして……何もツノじゃなくたっていいだろ?」

「……ううん、これじゃないとダメなの。私はあの時、体も動かなくて……もう死ぬんだと思ってた。あなたを見て……あぁ、私は彼に殺されるんだって、死を覚悟した」


 シャーテは両の手を握りこみ、まるで敬愛するかのように瞳を潤ませて、俺を見上げる。


「でもあなたは、私を助けてくれた。討伐すれば、きっと大金持ちになったのに……あなたは迷うこともなく私の傷を手当てしてくれた……」


 確かに金は欲しいが。

 死闘を繰り広げたならまだしも、弱ってるところを狙うのはフェアじゃないし、だからと言ってあのままにしておくのも後味が悪いと思ったからだ。


「手当てしてくれた時の手がとてもあたたかかった……ゴツゴツしてて、力強くて……」

「お、おう……?」


 なんだか妙に、シャーテの声に艶があるような……?


「あなたの声がとても優しかった……あなたの顔が忘れられなかった……だから、あなたの魔力を辿ってここまで来た。私の想いの大きさを伝えるために……私の一部をあなたに渡すために……」


 あれ。なぜだろう、瞳がどんどん黒くなって見える。

 心做しか、圧を感じる。今はもう小柄な少女なのに。


「アインハード・シュミット……だいすき。愛しています。私のツガイになって……♡」


 漆黒の瞳から、純粋なる愛の眼差しが向けられた。


 ……なんで俺の名前知ってんの!?

 まだ名乗ってないよねぇ!?


 と、内心バックバクで焦り散らかしてる俺を置いてきぼりにして、シャーテは擦り寄ってくる。

 人形のように可愛らしい顔が間近に迫り、動悸は高揚感に変えられ、俺の胸は苦しいほどに高鳴っていた。


「名前のことが気になるの? ふふっ……あなたの魔力を辿っていたら、自然と……ね」

「さ、さようで……っ」


 首を撫でるような熱い吐息がこそばゆい。

 小柄だし胸も小さいが、確かな柔らかい感触が伝わってくる。

 工房に篭もりっきりで女性と触れ合う機会なんてなかった俺には少々、刺激が強すぎる。


「アインハード……あなたのためなら私はなんでもやる。この体も、魂でさえも、私が持つ全てはあなたのものだから」


 不意に、シャーテの尻尾が俺の腰を抱く。


 ()()()()()()()()

 そんな言葉が聞こえてきそうだった。


「うれしい?」


 シャーテの紫紺の瞳が、俺の心を覗くようにジーっと見てくる。


「……まぁ、そうだな。嬉しいよ。ツガイは急すぎてまだわからないんだが」


 助けられた礼をするため、彼女は自らツノを折った。

 その気持ちは大切にしたい。

 正直に伝えてツノを受け取ると、シャーテは頬を紅潮させてはにかんだ笑顔を見せた。


「折れた時、つらかっただろ。普通はやろうと思ってもできることじゃない。だから俺は、その覚悟に敬意さえ覚える」


 それに、このツノは間違いなく至高の品質だ。

 これほど高品質の素材、それも幻影竜のツノともなれば普通は手に入らない。


「あぁっ、参ったな……」


 もし、もしもこのツノを素材に、剣を作ったら……?

 体が疼いて仕方ない。

 鍛冶師の(さが)が、これを剣にしたいと叫んでいる。


「──シャーテ。お前の誇りと想い、礼は確かに受け取った。だけど、俺にできることと言ったら、コイツを良い剣にしてやることくらいだ」

「うん」

「だから……三日くれ。三日間、集中させてくれ。お前のツノは、俺が全身全霊を懸けて最高の剣にする」


 必ず応えてみせる。

 全てを懸けて、このツノを今までで一番の剣にするのだ。



  ■■■



 そして、俺は四日後の朝日が昇ると同時に剣を完成させた。


「フフッ……っしゃあ! 出来たぞぉぉぉぉッ!!」


 雄叫びを上げ、黒刃の片手直剣を掲げる。

 あれから三日三晩、寝る間も惜しんで作り続けた結果、満足のいく仕上がりになった。


「まさか成形で砥石を使い切るなんてな……どんだけ堅いんだよ。相当頑張って折ったんだなぁ……」


 刃付けに親父の遺品である砥石まで使う羽目になったが、この見惚れるほどに素晴らしい黒刃を見ると、やはり判断は正しかったな。


「アインハード。剣、出来たんだね……!」


 ちょうど様子を見に来たシャーテが工房に入ってくる。


「シャーテ! 見てみろ、これお前のツノだったんぞ!?」


 三徹目のくせに元気が有り余っていた俺は、嬉々として最高傑作をシャーテに見せようとした。


 ──その瞬間。

 耳をつんざくような破壊音が響き渡った。

 音のした方を見てみれば、工房の壁が無惨にぶっ壊れているではないか。


「お、俺の工房が! 何が起きてんだ!?」


 急いで外へ飛び出すと、工房の前には冒険者が立っていた。


「──今のは警告だ。出てこい幻影竜! そこ居るのはわかっているぞ!」


 そう声を張り上げたのは、真っ白なフル・プレートアーマーを装備した男だった。


「アイツは、竜狩りか……!」


 確か、名はアンゼル。

 竜狩りの異名を持つ金等級(ゴールド)の冒険者だ。

 そのアンゼルの背後に居るのは褐色肌の戦士。

 こちらも完全装備。やる気満々だ。


 その時。


「……ひっ」


 アンゼルの姿を見たシャーテが短い悲鳴を零した。

 竜狩りが来た時点で察していたが、やはりシャーテを襲った連中のようだ。


「フン……少女の姿をしていようが手加減はしない。今度は確実に討伐する」


 こ、コイツ!

 工房ぶっ壊しておいて俺のことは眼中無しかよ!


「おい鍛冶師、死にたくなければとっとと去れ」

「……断る。この子は俺の客だし、俺を好きだと伝えに来た。そんな女を見殺しにするような男にはなりたくないんだ!」


 黒剣を手に飛び出す。


 が、アンゼルを守るように戦士が立ち塞がり、両刃斧を振り下ろした。

 俺は振り下ろされた斧を見て避けるが、戦士は斧を手放す。

 次の瞬間には腕を掴まれ、俺は投げ飛ばされていた。


 ──強い。

 冒険者と鍛冶師、流石に戦闘経験の差がありすぎる。


 その隙にアンゼルは詠唱し、魔法で瞬く間に俺の体を捕らえる。

 しかも拘束魔法と重力魔法の合わせ技。

 まずい、動けないぞ。


「……軽いな。こんなオモチャで戦おうとしたのか?」

「ぐっ、クソ……返せ……ッ!」


 アンゼルに奪われた剣を取り返そうとするが、やはり身動きができず、俺は地面に突っ伏した。


「フン、まぁそこで見ているがいい。お前の剣で幻影竜を討伐してやろう。箔が付くぞ」

「──やめろッ! ンなもんっ、いらねぇ……ッ!」


 しかし、アンゼルは躊躇なく黒剣を振り下ろした。


「シャーテ!!」


 剣が振り下ろされた直後、シャーテは、俺の顔を見て静かに微笑む。


 ──まるで、この結末を知っていたかのように。


「……あ? なんだこの剣は……刃が入らない?」


 アンゼルは立ち尽くす。

 刃はシャーテの首に触れているが、斬られていない。

 それどころか、傷一つ付いていなかったのだ。


「そんなはずは……そうだ、鑑定魔法!」


 鍛冶師の端くれである俺でも、鑑定魔法くらいは使える。

 そこで奪われた黒刃の剣を鑑定してみたのだが──。


━━━━━━━━━━━━━━━━━

《ヴァールホルン》

 種別:片手直剣

 剣工:アインハード・シュミット

 主な材質:幻影竜の剛角、闇鉄鉱

 攻撃力:0

 魔力:0

 備考:汚い手で触るな

━━━━━━━━━━━━━━━━━


「こ、攻撃力ゼロ!? そんな馬鹿な……!」


 あれだけ研いだのに攻撃力が無いなんて、ありえない。


「……チッ、斬れもしないとは使えない。よくもまぁこんな無価値な剣を作ったものだ」


 無価値。

 その言葉に、俺は激しい怒りを覚えた。


「価値が、ない……だと?」


 突然、黒剣が紫紺の光を放った。

 なぜだろう、シャーテを想うと力が溢れてきた。


 拘束を引きちぎり、重力をものともせず跳ね起きる。

 そうして戦士を振り切って、俺は──。


「グフッオォッ!!?」


 ──気付けば、アンゼルを殴り飛ばしていた。

 頑丈な兜に食い込んだ拳からは血が滴り落ちているが、こんな痛みはなんてことない。


「鍛冶師アインハードの名において、万が一にも無価値はありえない!」


 これはシャーテが痛い思いをして折ったツノだ。

 俺が丹精込めて作った剣だ。

 それを無価値だなんて誰にも言わせない。


 アンゼルが落とした黒剣を拾い上げると、剣は俺の想いに呼応するかのように魔力が膨れ上がる。

 全身全霊を込め、そいつを振り下ろす。


 ──その瞬間。

 黒剣から魔力の刃が放出された。


「…………えっ?」

「──な、なに!?」


 ソードビームなどと呼称できそうなその斬撃を、アンゼルは即座に地面を転がって回避する。


「き、貴様、なんだその威力はっ!? 本当にその剣でやったのか!?」


 焦りを隠せないアンゼルが叫ぶ。

 さっきまで自分が倒れていたところの地面に、縦一直線の物々しい斬痕が残っていたのだから、無理もない。


「チッ、どうやら素人のフリが上手いようだ。俺も未知数の相手と戦うほど馬鹿ではない。今回は引いてやるが、次はこうはいかないからな」


 いや、俺自身も驚いているのだが……。

 勘違いしたアンゼルは、戦士と共に去っていった。


 ひとまず、助かった……のか?

 気を緩めると、黒剣は紫紺の光を解いた。


「ありがとう……またあなたに、助けてもらった」

「いや……あの、シャーテさん。なんすかこの威力は?」


 俺は思わず剣の素材元であるドラゴンに聞く。

 するとシャーテはポッと頬を赤く染め、腰をくねらせた。


「私の体を使ってくれてるのが嬉しくて、つい溢れちゃった……♡」

「いろいろ誤解を招きそうな言い方はやめてくれ!」


 やはりこの竜、大人しそうな顔をしておいて言動が非常に怪しい。


「詳しくは鑑定してみればいいと思う」

「急に落ち着くな……まぁ確かに」


 再び鑑定魔法で調べてみると──。


━━━━━━━━━━━━━━━━━

《ヴァールホルン》

 攻撃力:38,420

 魔力:58,200

 備考:好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好──(鑑定停止)

━━━━━━━━━━━━━━━━━


「備考ってなに!? あとなんだこの馬鹿げた攻撃力と魔力は!? こんなの魔剣クラスじゃないか!」


 好きを連呼しすぎだろう。

 まるで剣にシャーテの思念が詰まってるような?

 こんなに重い剣は初めてだ……。


「さすがアインハード。天才鍛冶師……」

「いや、明らか俺の実力ではないだろ!? これ絶対お前が原因だろ!?」


 ドラゴンはツノで魔力を制御し魔法を使うが、頭に近い器官であるためその時の感情によって威力は大きく左右される。

 シャーテが持つ俺への愛が強すぎるから、俺が装備した時だけ性能が跳ね上がったのか……?


 だが、シャーテは首を横に振った。


「いくら素材が良くても、作り手の技量が足りなければ宝の持ち腐れ。ここまで効果を発揮できたのはあなただったからだと、私は思う」

「……そう、か」


 確かに、もしシャーテの想いだけでここまでの性能を出すのなら、ツノを受け取った時点で魔力が溢れていたはずだ。

 そうか、この剣が良いものになった理由は──。

 

「……アインハード」

「な、なんだよ」

「……嬉しかった。価値があるって、言ってくれて」


 腕に抱きついてくるシャーテはここからじゃ顔がよく見えないが、耳が少し赤くなっていた。

 まぁ元々表情は読みづらいが、シャーテの言葉が全て本心であることはわかっている。


「……実を言うとな。俺は良い剣ってやつがわかってなかったんだ」

「え……?」

「良い腕、良い材質、良い砥石……それさえあれば剣も良くなるとばかり思っていたが、それだけじゃ足りなかった。相手を思う気持ち、真心を忘れていた」


 今まで俺は使い手のことを考えず、質の良さばかり気にして独りよがりな剣を作ってしまっていた。

 オーダーメイドを中心に引き受けていた親父も相手のことをよく見ていたのを思い出した。


「俺が思う良い剣は、これだ」

「……ヴァールホルン?」

「あぁ、シャーテが俺を想って渡してくれたツノだったから、俺もそれに応えようと必死になれた。だからコイツは()()()になったんだ」


 相手を想い、丹精込めて作った剣には魂が宿る。

 魔剣を眺めると、黒刃の縁が太陽の光に透けて紫色に煌めいて見えた。

 俺はその美しい黒刃を眺め、少々名残惜しいが鞘に納める。


「だからその……ありがとな」


 思えば、ちゃんと礼を言ってなかった。

 なんだか気恥ずかしくて顔が熱くなる。


「……シャーテ? どうかしたか?」


 恥ずかしさを誤魔化すようにそそくさと腰のベルトに鞘を取り付けていると、シャーテがじっとりとした視線を向けていたことに気付く。

 するとシャーテは、不意に俺の耳元に顔を寄せ──。


「……これで、ずっと一緒だね♡」


 ぽそりと、湿っぽい声色でそう囁いた。


 あの妖しく光る紫紺の瞳からは逃げられない。

 俺は本能でそれを理解した。


 ──となれば、一緒に来てもらおう。


「じゃあ、行くか」

「……! 寝室、だね」

「いや探索だよ。なに普通にベッド・インしようとしてんだ! もっと段階をだな?」


 誤解されたせいではあるが、誘い方がいきなりすぎて額に変な汗が滲む。

 しかし、一度制したところでシャーテは止まらない。


「むっ……あなたが三日三晩かけて剣を作ってる間に私たちの愛の巣は探索済み。ベッドの場所くらいわかってる」

「そうか、俺は今ナチュラルな不法侵入を報告されて戸惑ってるんだが……まぁそれは置いといてだな?」

「初夜はいつにする? 今夜?」

「頼むから一回止まってくれないかなぁ!?」


 愛の巣とか初夜とか、俺達はまだ出会ったばかりなんだが。


「と、とにかくだ! この角魔剣を作って砥石を使い切っちまったからな。クエストを発注する金もないから、自分で採掘しに行くんだよ」

「あぁ、そっか。それであの時も鉱山に来てたんだ」

「そ。俺が貧乏なおかげでお前は助かったわけだ。あの時も結局採掘できなかったし、少しは手伝ってもらうぞ」

「ん……任せてほしい」


 片角を失い弱体化してるとは言え、シャーテはドラゴン。

 正直、傍に付いていてくれるだけでも心強いのだ。


「あなたの役に立てるのは嬉しい。やっぱりツノを折ってよかった」

「あ、あぁ、でも自分の体は大切にな……?」

「わかってる。あなた以外には触らせない。私を傷付けていいのはあなただけ。だから今夜は、私に一生消えない傷を付けて……?」

「一生ものの傷ならもうあるだろ! その責任は取るから!」


 また「初夜を」とか言い出しそうな熱い視線を送ってくるシャーテを制していた、その時。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

《ヴァールホルン》

 攻撃力:40,700

 魔力:59,800

 備考:好き好──(鑑定停止)──き大好き♡

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 発動したままだった鑑定魔法がそれを知らせる。


 なんか、さらに性能が上がってるような……?

 と、そこまで思考を巡らせて俺は鑑定魔法を解除した。


 きちんと鑑定できないなんて、俺もまだ未熟だな。

 うん、そう。だからこれは、きっと気のせいだ。




 〜おわり〜



◇お読みいただきありがとうございました!

思いつきから爆速でしたためたヤンデレ竜娘と鍛冶師さんのラブコメ()でした!

ところで、初夜はいつ?(((


ブックマーク、評価、リアクションをポチッとしていただいた方、ありがとうございまぁぁぁぁす!!!

もろもろすごく励みになってます(´ω ` っ )З


備考:BIG LOVE──♡

(書き足りなくて、つい)連載版をはじめました!

ひとまず、魔剣がより魔剣じみてきたり、イチャつかせたりしながら正式に結婚まで書きたいなと思っています。

短編が面白かったら、ぜひこちらもご覧ください!


https://ncode.syosetu.com/n7041ma/

※1話〜3話が短編の内容となっています。

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