第4話 浄化の依頼
エルドリア王国からヴェルディアに使者が来た。
浄化の聖女の噂を聞きつけて、浄化の要請に来たのだ。
「浄化の聖女よ、戻ってくれ! 国が瘴気に飲まれる!」
沙羅はレベル49。あと一つで帰還可能というところだ。迷う。
「うーん、どうしようかなー。まあ、こっちの国もある意味、腐ってきてるんですけで」
ヴェルディアではBL本が流行りつつあったのだ。エルダルド王国の王子と騎士がモデルと噂が立ったからかもしれない。沙羅は笑った。
しかし、瘴気で困っている人々がいるのは事実だ。
エルダルド王国では多少嫌な思いをしたが、レイチェルには助けられたのだ。このまま日本に帰ったとしたら、後味が、悪いだろう。
結局、沙羅は依頼を引き受けることにした。
一方、「治癒」の聖女絵梨花の、エルダルド王国での生活は、最初は厚遇され、満足のいくものだった。
それが、1か月経ち、2か月経ち、少しずつ不穏な空気を感じるようになってきた。
最初は掃除のやり残しかと思われる黒いモヤモヤした塊な転がっているのを発見した。
以降、黒い塊を見かけることが多くなってきた。
そして、メイドが、咳き込むようになって行った。
段々と黒い塊が「瘴気」というものだと、分かってきた。咳き込む人々の「治癒」依頼が絵梨花の元に殺到した。
しかし、絵梨花の「治癒」魔法では瘴気を、払いのけることが出来なかった。
絵梨花の周りの人々からの厳しい視線が痛い。
「……帰りたい」
頼みの綱のセレスティア王子は、瘴気の対応で忙しく、絵梨花とゆっくり過ごすような時間を作らなくなっていった。
そんな時、王子と騎士との噂のようなものを耳にした。
絵梨花は爆発しそうだった。
「もう、やだ。帰りたい……」
そんな折、隣国から「浄化の聖女」を連れてくるという噂を聞いた。絵梨花の気持ちは、嵐の海のようであった。
「もう、私、不要なの?」
「お久しぶりデース!」
隣国ヴェルディアからやってきた「浄化の聖女」が見覚えのある人物だったので、絵梨花は驚愕した。
反射的に憎まれ口を叩く。
「な、何よ! 私を笑いに来たの?」
「へ? いーえ、浄化に来たんだよ。後ちょっとで帰れるし」
「え? 帰れる?」
「そう。もうちょっとで日本に帰れると思うとテンション上がっちゃうよね」
「わ、私も帰りたい!」
グイッと絵梨花は身を乗り出した。
「そう。今レベルいくつ?」
「……レベルって?」
「え? そこから? まさかと思うけど……、マニュアル読んでないの?」
「マニュアル……?」
絵梨花はなんと一度もマニュアルに目を通してなかった。
沙羅に教えてもらい、マニュアルを取り出すことに成功し、現在のレベルも確認することができた。
しかし、全くマニュアルに目を通してなかった為、絵梨花のレベルはまだ18だった。
「そんな……、レベル50まで遠すぎる」
「毎日コツコツだよ。私は半年でいけたよ」
絵梨花が何か決意したように頷いた。
エルダルド王国の瘴気が沙羅の浄化スキルのおかげでほぼ消え去った頃、沙羅は遂にレベル50に到達した。
「じゃあお元気でね。早くレベル上げて戻ろうよ」
「行かないで〜。お願い〜」
沙羅が帰国の挨拶をして帰ろうとすると、絵梨花がグズグズと泣きじゃくった。
「こんな娯楽も、何もないところに、一人残していかないでよ〜」
「一人残すも何も、今まで一緒にいた事すらないじゃん。……でも、娯楽か……。これ良かったら」
沙羅は自作の薄い本を数冊絵梨花に手渡した。
「……これ……?」
「興味あったら、出版してあるから、本屋に注文してみてね。じゃあね!」
こうして、沙羅は日本に帰って行った。
日本に帰ると、沙羅の「浄化」スキルは消えていたが、何故か「同人制作」スキルは残っていた。
恐らく、制作した出版物が異世界にあるからではないかと沙羅は考えている。
スキル上で新しい作品を制作して、新たに出版したり、ファンレターのやり取りが出来るようになったのだ。
レイチェルがその後結婚したとか、セレスティア王子の悪評が立ちすぎて、王太子候補から外されたらしい、などの情報がもたらされた。
そして、沙羅が日本に帰国してから約8か月後、ついに絵梨花が日本への帰国を果たした。
久しぶりに再会した絵梨花は、目をキラキラさせながら、自作の原稿を抱えていた。




