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9 魔法国家

「こちらが個人に与えられた私の部屋になります」


 カレンの部屋に案内された。岩山の中だというのにある程度の広さが確保されている。寝台と机が置かれているが狭苦しさはない。何の飾り気もない機能的な部屋だ。椅子に座ることを促され、エリサはひとまず話を聞くために腰掛けた。


「ここは、東漣国の魔法使いたちの訓練所となります。東漣国では、魔力の素養があれば強制的に徴兵され子供の内から家族と引き離され国の管理に置かれます。ここは、その中でも強い魔力を持つ者たちが訓練生として集まる訓練所です」

「カレンも訓練生なの?」

「いいえ、私は幼い頃から強い魔力が発現したため、早い内に訓練生となりました。今は司令部の人間となっており、この訓練所で問題が起きたため調査に来ています」


(そういえば、この子は10歳かそこらで白龍討伐に駆り出されていたのだった)


「問題とは何が起きたの?」

「行方不明者が出ているのです。訓練生や講師たちがいなくなっています」

「行方不明? 脱走しているわけではなくて?」

「脱走は不可能なんです」


 そう言って、カレンは己の首に巻かれた銀色の首環を指差した。


「これは隷属の首環といって、この国に徴兵された平民に付けられる物で、許可なく一定の場所から動くと脱走と見なされ……首が落ちます」

「えっ……」


 エリサは絶句した。大分、非人道的な話に聞こえる。


「その首環を少し見せてくれるかな?」


 カレンの近くに寄り、首環に触り魔力を通してみる。それほど複雑ではない魔法で構築されているようだ。


「うん。もう大丈夫。国からは今までと全く変わりなく機能しているように見えるけど、好き勝手に動いても首は落ちないように無効化したよ」

「えっ……な、なぜそんなことを?」

「あれ? 迷惑だった? 人の命をなんだと思っているのかと腹が立ったから思わずやっちゃった……」

「あ、ありがとうございます。無効化するだけなら直ぐに出来たのですが、国からは直ぐにばれてしまうので、周りの者達を見捨てて一人で逃げるまでは思い切れず……」


 カレンは、動揺したように首環を指で触りながら話す。


「うん。そうだよね……。無理に従わせようとする大きな力に抗うのは大変なことだ。それが国であれば周りも巻き込むことになる。だが、多くの人々を見てきたが、服従する者は死んだように生きるようになる。己で選ぶ選択でしか真の喜びは得られないんだ」

「……時の魔法使い様」


(偉そうに言っちゃった……自分自身も選んで時の魔法使いになった訳ではないのに。また、呼び方も戻ってしまったし)


「まぁ、偉そうに言っちゃったけど、聞き流してくれ。カレンの調査している行方不明事件と私の探しものは関連があるかもしれない。詳しい話を聞かせてよ。それから、呼び名はエリサで……」


 話を聞こうとカレンを眺めると、ぽとぽとと大粒の涙が彼女の紅い紅玉のような瞳から零れ落ちる。エリサはあわあわと慌てる。


「す、すみません!……なぜか、急に」


 カレンは己の涙に気付き驚いたように、乱暴に顔を拭うと俯いた。エリサは手を何処にやれば良いのか散々迷った末に、そっとカレンの背中に手を置いた。


「ずっと……ずっとお会いしたかった」

「うん」

「誰かに助けてもらえたのは初めてで……」

「うん」

「ずっと恩返しがしたいと思っていたのに、また、助けられてしまったことが情けないのに、とても嬉しいのです」

「うん」


 エリサは泣く子には弱く、何と言っていいか分からない。やがて落ち着いたのか、顔を上げたカレンは恥ずかしそうに微笑みを浮かべながらも強い光を目に宿していた。それからカレンに聞いた事件の詳細によると、消えた人々はこの拠点に住む者といったこと以外に共通点はないようだ。それぞれに、特別な繋がりがあるわけではないらしい。もう既に十人を超える数の人間がいなくなっているという。


「彼等が皆行っていた場所等はないの?」

「食堂や訓練所等は皆が同じ場所を使っています。それぞれいなくなったと思われる時間も場所も別々なのです」


『リュプス……どう思う?』

『よくわからない。だが、虚無の欠片の気配が移動しているような気がする。その気配も強くなったり、消えたりと不安定なのだ』

『とりあえず、気配の方向に歩いて行こうか』


 カレンにその旨を伝えると、訓練生の服を貸してくれた。訓練生は黒い上下の衣服に紋様の色が白になっている。カレンは紋様の色で階級を表していると教えてくれた。


「訓練所に行きましょう。人が多く、新しい訓練生だと私が紹介するのであれば疑う者はいません」


 エリサが着替える間、律儀に後ろを向いていたカレンは振り返るとほぅっと溜め息をこぼした。


「……美しい。エリサの銀色の髪が黒い衣服に映えていますね。銀色の刺繍の物をお着せしたかった」


 褒められてもエリサは自分自身の容姿は凡庸な十人並みだと自覚している。熱に浮かされたように言うカレンの方が紅い髪と瞳が印象的なはっきりとした顔立ちの美少女である。


「……行こうか」

「はい、こちらです」



 訓練所には、数百人の人々が集まっていた。壮年の者からまだ幼い子供まで年代は様々だ。


「凄いね。皆、魔力の素養は相当なものだ」

「はい、ここは魔力の強い者を集めた拠点なのです」


『リュプス。虚無の欠片の気配はあるかい?』

『いや、今は無い』


 エリサは溜め息をつく。歴代の時の魔法使いたちが残した記録でも虚無の欠片の記録は少なかった。それは時に災害のような災厄となって現れたり、物や獣に宿ったりと様々なのである。共通するのは、多大な犠牲を強いられるほどの大きな力を持つ何かということである。


「うん? あれはなんだろう?」


 エリサは興味を引かれて、カレンに問いかけた。


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