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8 虚無の欠片

 ルークと過ごしあっという間に出会ってから8年が経った。ルークはすくすくと大きくなり、魔法も剣術も強くなった。元々大人びていた性格も更に磨きをかけ落ち着いて動じない老成した熟練の剣士のようである。魔法で世界中の書物を盗み見もしているようで、知識も豊富で何百年も生きた賢者のようでもある。


 ずっと、ルークの保護者を気取っていたつもりであったが、いつの間にか立場が逆転し世話をされる日々になっている……身支度をされながらエリサは、愕然とした。


 ふわふわのオムレツを食べながら、リュプスからの呼び掛けが届いた。ただ、今回はいつもとは違う初めてのことがあった。……虚無の欠片が現れた、と。


「どうしたんですか? 師匠?」


 顔がこわばっていたのだろう。ルークからの問い掛けにエリサはいつも通りを装い言った。


「うん。リュプスからの呼び掛けだ。行ってくるよ」

「俺も行きます」

「駄目だ。いつも言っているだろ? これは時の魔法使いの仕事なんだ。危険なので付いてきては駄目だよ」


 白龍の件以来、ルークにリュプスの警告する世界の危機に関わらせてはいなかった。とはいえ、それほど大きな危機もなかった……今までは。


 虚無の欠片とは、時の魔法使いが必要とされる理由そのものだとリュプスからは教えられている。この世界は虚無となろうとする力が蠢いており、それを押し留め世界を守護するために時の魔法使いがいる……と。エリサの代になり、虚無の欠片が現れたのは初めてだ。


 リュプスの元に赴くと、珍しく銀狼は身体を起こし何かを探っているように緊張した雰囲気を醸し出していた。エリサは尋ねる。


「虚無の欠片はどこに現れたんだ?」

「東漣国のようだ。詳細はここからでは分からない。側まで行って探ってみよう」

「分かった」


 東漣国は、5、6年前に白龍を討伐した際に会った二人組の国だなあと思い出す。かなり、魔法の栄えている国だ。エリサは、暇があれば魔法書や魔導具の掘り出し物を探してみようと考える。


(お土産にすればルークも喜ぶだろう。微妙な雰囲気の中で出てきてしまったし)


「ルークは、連れて行かないのか?」

「うん? 当たりまえだろ。これは時の魔法使いのやるべきことだ。あの子は関係ないよ」

「……盛大に拗ねているんじゃないのか?」

「いくら彼が強くなったと言っても危険は高い。そもそも彼は敵から隠れている訳だし……」

「エリサは、ルークに対し過保護なくせに、未だに事情も聞こうとはしないんだな」

「助ける気がないなら聞くのは不誠実だろ……」


 リュプスは何の感情も浮かべない目でエリサをじっと見つめた。


「お前も哀れだな」

「私が哀れなのは分かりきっているだろ? 17歳の年に時の魔法使いになってしまった時から」


 皮肉を込めてエリサはリュプスに答える。珍しく己の感情がざわざわと不快にざわめくのを感じる。ふーっと息を吐き、感情を平坦にする。今は眠ってしまう訳にもいかない。


「さあ、行こう。東漣国へ」



 東漣国は、東の島国を中心とした魔法国家である。その魔法使いを中心とした圧倒的な軍事力で、他国を制し国土を大陸に広げてきている。だが、その政治的な中枢は未だに東の島である東漣列島にあり、強固な結界で列島全体が守られていた。


『虚無の欠片の気配を感じたあたりに転移した。潜入するぞ』


 大陸に位置するそこはどうやら魔法使いたちの軍事拠点のようであった。巨大な蟻塚のような岩山がそそり立っており、穴が空いている。その穴の一つ一つがが複雑な迷路のように入り組み居住空間になっているようだ。


『行き当たりばったりすぎやしないか……』

『仕方がないだろ。だが、この中から強い気配がするようだ』


 剣になったリュプスを腰に帯び、岩の穴の一つに入っていく。


「おい! お前はそこで何をしている!!」


 そう進まない内に怒鳴り声を上げられる。黒い上下に紫の紋様の刺繍の入った服を着た男に見つけられてしまった。杖を構えられる。


「待って。彼女は訓練生だ」


 銀の紋様の刺繍の入った服を着た綺麗な赤毛の少女が駆け寄ってくる。


「私が連れて行く」

「はっ! 分かりました。お願いします」


 エリサは、どこかで見た気がする少女をまじまじと眺める。15、16歳位のルークと似た歳の頃だろう。


「時の魔法使い様、お久しぶりです」

「えっ……」

「かつて、貴方様に命を助けられましたカレンと申します。白龍の討伐の際に貴方が助けてくださいました」


 男がいなくなると、カレンはエリサを真剣な表情で見つめ言いつのる。


「ずっと、ずっとお会いしたかった……怪我が治っておいでで安心しました。どうしてこのような所に?」

「……えっと。探しものがあってきたんだ」

「どのような物を? この命を賭しても手に入れましょう」

「……えっ。なんでそんな?」


 エリサは、カレンの熱量の高さに気圧される。命を助けたとはいえ、成り行きだしこんなにも肩入れするようなことだろうか……。


『エリサ。丁度いい。協力してもらえ。情報が少なすぎる。協力者がいる方が良い』


 念話で心の中でリュプスに語りかけられる。


「時の魔法使い様。私が今も生きているのは、貴方のおかげなのです。ご恩を返させてください」

「……分かった。ただ、私のことはエリサと呼んでよ」

「そ、そんな!? 恐れ多い!」

「じゃないと協力は頼まない。様付けも駄目だ」

「……うっ……わ、分かりました。……エ……エリサ」


 そう言ったカレンの額にはうっすらと汗が光り、頬も紅潮している。


「必ずや、お力になります。この命に代えましても!!」

「命に代えちゃ駄目だよ」


 心強い協力者を得たが、何だか前途多難だ……とエリサはカレンを見つめた。



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