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7 贈りもの

 エリサはそわそわと落ち着かない。ダンジョンでお礼の品を見つけ無事に手に入れて帰って来たもののルークに渡す機会を上手くつかめないのだった。


そう言えば、ルークの誕生日も知らない。10になる年と言っていたが、いつなのだろう……出会ってからもうすぐ二年になる。初めて出来た同居人なのに、エリサは、己の無関心さにようやく気付いた。ちなみにエリサは、己の誕生日は忘れてしまっていた。何となく春だったような気がする……と言うと、それから春の花が咲く頃にルークはケーキを焼き、ご馳走を用意して祝ってくれていた。なのに、全くお返しをしていなかったとは……。


「ルーク」

「うん? どうかした?」


 ルークは、魔法石を加工する作業の手を止めてこちらをみる。ルークは魔法石を掘り出し様々な魔道具を作り出すことができるようになっていた。今も、簡単な魔獣避けの結界を張ることができる魔道具を作っている。


「ルークの誕生日はいつなんだい?」


 ルークは驚いたという顔をして、エリサをまじまじと見つめた。


「どうして、急に? リュプスに何か言われた?」


 ルークは最近単独でリュプスの元によく通っている。一人と一匹でよく話し込んでおり、仲良くなったものだと思う。


「何も言われていない……色々とルークには良くして貰ってるから、お返しをしたいと思って」

「……師匠にはこちらが色々として貰っている。気遣いは不要です。でも、誕生日は……ふふふ」


 ルークは思わずと言うように笑う。こんな風に、溢れてしまうようなルークの笑いは珍しい。


「なんだい?」

「実は今日なんだ」

「えっ!?」


 エリサは、慌てて街へ買い物に行くことにした。消し炭にして以来、己で料理することは諦めている。街で評判のケーキと美味しそうな肉や惣菜を買い込む。家に戻ると、今日は何もしなくて良いとルークを部屋に待機させて、魔法で、食卓や部屋を飾り付ける。花々や風船を用意し妖精にキラキラの粉をかけてもらって浮かび上がらせ、光輝かせる。


(何だかすごく派手になってしまったが、こんなものだろうか)


 首飾りも街で買った良さそうな箱に入れ、適当にリボンをかける。


「ルーク、降りてきて良いよ」


 ルークは恐る恐るというように、部屋に入り見渡した。


「ありがとう。素晴らしいよ!エリサ!……良かった……常識の範囲内で」


 何か最後の方に小さく呟いていた言葉は聞こえなかったが、どうやら喜んでもらえたようだ。エリサは、ご満悦で、街で購入してきた食べ物も勧める。二人でご馳走を食べる。エリサにはルークの作るいつもの食事の方が美味しい気がした。だが、にこにこと嬉しそうなルークを見ているとエリサも嬉しくなる。ケーキも食べた後に、エリサは、ようやく準備していた箱を取り出しルークの前に置く。


「お誕生日、おめでとう。ルーク。私からの贈り物だよ」

「ああ、ありがとう。エリサ。こんなに楽しくて幸せな誕生日は生まれて初めてです」


 ふと、エリサは、ルークの家族はどうしているのだろう……と気になった。だが、ここに一人で居るということは楽しい話題にならないだろう。誕生日に聞くことでもないな、と思考を切り替える。


「今まで気にしていなくてごめん。これからは毎年するよ」


(ルークが、外の世界で安全に生きていけるようになるまでは……)


「……エリサ。ありがとう」


 ルークは、少しでも揺らすと壊れてしまう物であるかのように、慎重にリボンを解き箱をあける。


「……これは?」

「生命の雫の首飾りだ。致命傷を一度だけ肩代わりしてくれる効果がある」

「そんな、凄いもの……」

「世界に二つしかないものだよ」

「二つともエリサが見つけたの?」

「同じ場所に二つあったんだよ」


(一つはあの子にあげてしまったが……)


「……銀の色だ」


 ルークはエリサを見て、とても幸せそうに笑った。


「本当にありがとう。エリサ。大切にするよ。命に代えても」

「えっ……命に代えるのはその首飾りの機能だよ。面白い冗談を言うね。ずっと身につけていてくれ」

「うん……エリサとお揃いだ」

「うん? 何か言ったかい?」

「ううん……本当に大切にするよって言ったんだ……」

「ああ! そうだっ! もう一つ贈り物があったんだよ」


 エリサは思い出してルークの手を引っ張り家の外に出る。今日は曇り空だったので、空を見上げても星は見えない。エリサは、ルークの手を握り飛行魔法で浮遊する。雲の上にまで上がってくると、魔法で雲の一部をクッションのようにふわふわにし、横たわれるようにする。


「今日は、数百年に一度の流星群がやってくる夜なんだ。願い事をしたら良いよ」


 雲に横たわり空を見上げると、煌めく満天の星々に、夜空が泣いているように次々と零れ落ちていく流星が見える。


「ふふふ……願い事がし放題だね」

「くっ……うっ……」


 隣から嗚咽を堪える音が聞こえてきて、エリサは、硬直した。もしや、ルークは、高所恐怖症だった?


「ありがとう。エリサ。俺はこの日を一生忘れない」


 涙声ながら、はっきりとルークの声が響きエリサは安心をする。顔を見ないように気を遣いそろっと手を伸ばし頭をよしよしと撫でる。


(願わくば、誰もがこの空の下で、幸せになれると良い。子供が一人で生きて、泣くことも出来ないほどの辛い世界ではなく)




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