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時の魔法使いは眠りたい〜魔王や覇王や勇者になった弟子たちに執着されて眠れません〜  作者: 光流
最終章 魔法使いと始まりの地

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48 終末の始まり

「やめてくれ!」


 エリサは止めるために前に進み出ようとしたが、指に嵌めた指輪が輝きとても強固な結界を生み出しエリサを閉じ込める。


「なんだ!? これは?」

「エリサ。すまない。俺は君を自由にするために生きてきたんだ。ここで、これらを全て破壊しつくす」


 とても精巧に強い魔力を掛けて練られた結界になっており、長期間かけて・・・・・・魔力を溜め込んでいたかのようである。破るのには時間が掛かりそうだ。


「小僧が! 秩序を壊すつもりか! エリサの覚悟も知らず……」

「貴様らはどれだけエリサに犠牲を強いる。都合の良いように記憶まで操作し、ほとんどの時を眠って過ごす……」


 リュプスは歯を剥き出しにして唸った。


「それが愚かだと言うのだ。我々には人の心は操れない。出来るのであれば時の魔法使いは代替わりする必要などない。知っているか、ルーク! エリサはこれまでの時の魔法使いの中で最も長い時間、役割を果たしているのだ」

「リュプス、言わなくて良い」

「多くの時の魔法使いが早くに狂った。だが、エリサはこの役割を誰かに引き継ぐくらいならばと記憶も人としての生活も捧げて生きてきたのだ」

「なぜ、エリサが……彼女だけがそれほどの犠牲を払わねばならない!」


 リュプスは斬り掛かったルークの刀を弾いて魔法を纏った爪で風を切り裂く。リュプスとルークは凄まじい速さで駆けながら攻防を重ねる。


「カレン! 止めてくれ!」


 動き出そうとしたカレンの前にシドが立ち塞がる。


「精霊の世界に変えたということは、闇の精霊の愛し子や魔人、魔王もそこの奴が仕組んだということだよね〜。これまでの苦労が誰かの仕業だったなんてぶっ殺してやるって感じなんだけど?」


 軽薄に言いながらも迸る殺気は強い。


「……この世界は完璧ではない。均衡を維持するためにまず光と闇の精霊を作った。時に人の枠を超えるいびつさが生まれているのは認識しているが、何かを強制したり操ったりするものではない。とはいえ、原理原則を変えたのだ。光の速さや時の流れや構成要素を。そうすれば、それまでのような世界とは異なる歪みを受ける者も出てくる。世界の秩序に比べれば些末なことに過ぎないが……」


 ラプラスの淡々とした述懐にシドは叫ぶ。


「お前を殺せば、ボクやラファエルは魔人ではなくなるのか!?」

「……数百年かけて元の原理原則に戻っていくだろう」

「はっ……ぶっ殺してやる」


 斬りかかるシドの刀をカレンが大刀で押し返す。


「エリサが護りたいと言うならば私はエリサごとその全てを護る」


 カレンはそう言うと、紅蓮の炎が大刀に巻き付き床一面に炎が広がっていく。


「人とは不思議なものだ。いつも争いが起きる」


 ラプラスは他人事のように呟く。


「私を作った者も人だった。遥か遠い昔のこの地で……。あの時、その者は迷っていた。人としての今後の可能性を全て捨ててしまうことになるのではないかと……。だが、私は言った。人はもう踏みとどまれず自ら滅びに向かうだろうと。どれほど仮定と分析を繰り返しても同じ未来が出ていたのだ」

「私には、数日後の私のことすらはっきり分からないよ。それほど、人は揺らいでいるものだと思う。その時、選択の場に私がいたのなら最後まで諦めなかったと言える。だが、今の秩序で暮らすことが今の世界の幸せになっているのなら、私はこの世界を護り続けたいと思う」


 エリサは、宣言するように声を張り上げた。ルークにも聴こえるように……。


「私は時の魔法使いとして強制された可哀想な生贄などではない。そもそも人々は皆、生まれて来るかどうかすら選べない。時の魔法使いになるかどうかの選択は出来なかったが、私は己の心に従って生きてきたと言えるよ」


 エリサの言葉にラプラスは初めて表情のようなものを顔に浮かべた。それはあどけなく幼い子供のような。


「そうか、ならばあの時の私の選択は間違っていたのかもしれない……」


 ルークとリュプスの魔力のぶつかり合いにより大きな爆発が起きる。クウヤは爆風により吹き飛ばされエリサを閉じ込めている結界に衝突した。


「クウヤ! 大丈夫かい!?」

「ああ……何とか……どうなっているんだ」


 その時、唐突に広間の空間全体に漆黒の目玉が複数浮かび上がる。それは、かつて見たことのある不吉な光景であった。


「虚無!?」

「なぜだ!? なぜこの場所全体から虚無の臭いが漂っているのだ!?」


 リュプスがルークとの戦い止め、ラプラスに向かっていく。


「まさか、そなたが虚無に侵されているなどと言うことなど……」


 リュプスは、ラプラスに触れるかどうかという位置まで接近すると硝子が粉々に割れるかのように崩れ落ちた。


「リュプス!!」


 エリサの叫びにも答えは返らない。


「……ワレはこのセカイに……ホロビをモタラス。トモニ……かえろう……エリサ」


 そう言ったラプラスの身体が崩れ、そこら中に大きな闇の目が開く。深淵の闇が覗いているようで怖気を覚える。


「うわ~〜!!」


 エリサに向かってくる闇の目に対して、クウヤが拳を振るい消滅させる。


「なんだ! どういう事だ!」

「元より始まりの地の存在が虚無に侵されているということか!」


 ルークは声を上げ、カレンとシドも戦いを止め、辺りに注意を払う。エリサは、虚無の力が満ちてくることに気付いた。ルークやカレンの結界が次々に虚無に呑まれていく。


 エリサは、この地から終末が始まることに気付いた。今、この場で食い留めなければ、この世界は終わってしまうだろう……と。


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