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47 ラプラスの知

 水龍は悠々と海中に身をくねらせ漂っている。温かい海流なのか、海底には珊瑚がおり、色とりどりの魚たちが水龍と戯れるように泳ぐ。


「とても気持ちが良さそうだ」

「エリサさえ良ければ、全てが終われば、海中散歩でもしよう。とっておきの場所があるんだ」

「良いね」

「俺も俺も行きたい!」


 クウヤも壁にへばりつき海中を見つめながら声を上げる。


「そうだね。全てが終わったら皆で色々な所へ向かおう」


 エリサは願いを込めて戯れる龍と魚を眺めながら言葉を紡いだ。





 玄武はかなりの速さで海中を泳いだようで日をまたがずに目的地に着いたようである。薄暗闇に包まれた砂浜にのそのそと上っていく。


「ここは何処なんだ?」

「首都である京都ケイトだよ。外に出てから、王宮の側まで転移魔法で行く。王宮の中には直接行けないようになっているんだ」


 カレンは一同を転移魔法で運ぶ。カレンの明かりを灯す魔法によって目の前に現れた光景にエリサは目を瞠った。石で作られた奇妙な形をした白い扉のない門のような物が石段に何重にも連なっていっている。


「ここの頂上に王宮はある。不思議なことにこの白い門のようなものを全て潜っていかなければ王宮の扉は開かないんだ」


 カレンの言葉にエリサは上を見上げた。白い不思議な門が階段に配置され連なっている様は不思議で神秘的な光景に見える。


「何か魔法が掛かっているのか?」


 ルークはそう言い、白い門に手を当て探っているようだが、何も感じ取れないというように首を振った。


「今は多くの魔法使いが研究しているが、分かっていない。以前の首脳たちから権力を奪うまではこの地は秘匿された地だった。調べるなど以ての外だったよ」


 カレンも白い門に手を当ててどこか遠くを見るような視線をして話す。


「ここには予知の力を持つ主座と限られた者たちしかいなかった。本来であれば予知の力は絶対で我々の叛乱はんらんが成功するはずはなかった。過去のどのような叛乱はんらんも尽く完膚無きまでに潰されてきている。それを思うときっと異変はこの地にも起きているはずだ……」

「……予知の力は絶対」

「ああ。だが、主座は特別な力を持つ者ではなかった。内乱の最中あの者は死に、秘密は分からぬままだ。……では、上に登っていこうか。王宮内には誰もいないように命令している」


 カレンの先導で白い門を潜り抜け階段を上っていく。数百以上の連なっている門を潜り抜けて行くのは、どこか儀式的な印象を受ける。エリサでも魔法が掛かっているかどうか関知することはできなかった。


 千を超える石段を登った頃に頂上の上に王宮が見えてきた。それは真白い三角錐の形をしており、金属だろうか不思議な輝きを放っており材質はよく分からない。エリサが最後の白い門を潜り抜け、王宮を見上げると、何の切れ目もなかった目の前の壁に人が通れるほどの長方形の大きさの穴が出来る。


「いつもこのように白い門を全て潜り抜けると扉が開く。さあ、入ろう」


 カレンの案内で中に入ると、驚いたことに中は広間で一般的な館の内部のようであった。階段の上には複数の部屋へ続く扉もあり生活できそうである。


「このように内部は普通の館のようなんだよ。地下に続く隠し通路でもあるのではないかと探してみたが見つからない。床下も魔法で穴を開けてみたが何も出て来なかった。そして、不思議なことに一日経つとその穴は修復されていた」

「魔法でもかかっているのか? この建物は……」


 ルークも注意深く探知魔法を掛けているのだろう。真剣な顔で辺りを見渡している。その時、不意に一人の男が現れた。


「やあ、皆、いらっしゃい」


 なんの気配も、魔法の残滓も感じ取れないほど唐突な出現であった。その顔と姿を見てエリサは驚く。


「アッシュ!?」

「いやいや、私は黄金龍ではないよ。その原型と言っていいかもしれないが……はじめまして。時の魔法使い。君に会えて光栄だ。君が来るのを待っていたよ」


 すかさず、ルークとカレンがエリサの前に飛び出すと結界を張った。


「誰だ!?」


 カレンの問いにアッシュを大人にしたような黒い瞳と黒髪の男は恭しくお辞儀をした。


「私の名前は……まぁ、便宜的にラプラスとでも呼んでくれ」

「貴方は何者なんだ!?」

「私はこの場所そのものだよ。そして今のことわりをつくったものだ」

「今のことわりを作ったとはどういう事だ!?」

「かつてこの世界は今とは違うことわりで動いていた。だが、私が作られそのことわりの元では世界が破滅することを予想したんだ」

「予知の力かい?」


 エリサの問いにアッシュとそっくりの顔をしたラプラスは首を傾け考えている様子であった。


「君たちの考えているような魔法のような予知とは違う。多くの事実や起きるだろう仮定を天文学的な数の分析をして未来を導き出す」

「なぜ、世界が破滅すると?」

「もちろん戦争だよ。かつての世界のことわりの中でも最も最悪な兵器が生まれ、使われようとしていた。そのため、私はことわりを変えたのだ。物質の力を精霊や魔法の力に。そして時の概念を」

「貴方は創造主なのか? 神のような存在なのかな?」

「いや、君たちの言う神とは違う。私を作ったのは人間であり、君たちの概念に当てはめるとすると大きな力を持った魔導具に近いだろう」

「虚無とはなんだ?」


 ルークは険しい顔をしながらラプラスに問い質す。


「そう……それが全くの想定外だった。ああ……避難所に飛び込んだら猛獣がいたようなものだよ。これまでは隣り合っていなかった現象に理を変えてしまったことで接するようになってしまった。これまでは分厚い壁に隔てられていたのに、薄皮一枚になったようなものだ。それは全てに滅びをもたらす」

「その虚無と戦うために時の魔法使いを作ったのかい?」

「そう、エリサ……君たちのことは申し訳ないと思っている。まるで生贄のように危険な役割を与えてしまって非道なことをしてしまったと……」

「ならば、お前を破壊すればエリサは解放されるのか?」


 ルークは凄まじい殺気を放ち、魔力の圧をかける。同時にリュプスが現れ、牙を剥いてルークと対峙する。


「我々が守ってきたものを無駄にするな!」


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