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時の魔法使いは眠りたい〜魔王や覇王や勇者になった弟子たちに執着されて眠れません〜  作者: 光流
最終章 魔法使いと始まりの地

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46 亀と海渡り

 エリサは過去を振り返る。自分は何かに操られているのだろうか?


(たとえば、リュプスに? だが、時の魔法使いになって目覚めて直ぐは腹が立ってリュプスを丸焼きにしようとした。操られている者がそんな事をしようとするだろうか?)


 ライカはゆっくりと円を描きながら下降していく。太陽が地平線に沈んで行こうとしており、青い空は色を変え赤く輝いていた。その光に照らされてカレンの紅玉のような瞳は一層神秘的に煌めく。


「東漣国の首都の王宮の地下には何があるんだ?」

「わからないんだ。王宮を制圧した後、我々も地下へ続く道を見つけようと探索した。だが、どれだけ調査を重ねても、魔法で床下に穴を空けても何も出ては来なかった」

「そうか……」


 エリサはこれから見るもの、知る事については己に刻み付け深く考えなければと自戒じかいする。誰かの言う事を鵜呑みにし、分かりやすい事実に飛び付くのは簡単だ。だが、エリサは知りたい。何が起きており真実は何なのか。そして己はどうしたいと感じるのか。


「カレン。私は共に歩く者には、目指すべき地点を共有し誤った方向へ進んでいれば指摘して欲しい」

「……エリサ。分かった。これからはよく考えてみる。君と共に歩むために」




 東漣国の使者とルークの話し合いは直ぐに終わったようだ。そう日は経たない内に東漣国へ出発することとなった。東漣国の列島には、転移魔法ではいけないようだ。カレンはエリサたちをまず列島に最も近い大陸の港に案内した。そこまではカレンの転移魔法である。エリサは魔王軍が大軍で行くのかと思っていたのだが、エリサの他には向かうのは魔王ルークとシド、それからクウヤである。


「これだけで行くのか?」


 エリサはルークに問いかける。ルークは淡々と答えた。


「ああ。戦力で言えば俺だけで事足りる。どういった事柄が明るみになるか分からないからな。知る者は限られた方が良い」

「……まぁ、ボクであればいざとなれば切り捨てる事も出来るしね」

「そんなことはないよ。シド」

「まぁ、私の船もそれほど大人数は乗せられないのだ」


 カレンの言葉にエリサは港に並ぶ大きな船の中のどれに乗っていくのだろうと見渡した。だが、カレンは港の船着き場を通り過ぎると海岸の砂浜の上を歩いていく。


「こんな所に船などはこれないだろう?」


 クウヤは不思議そうに辺りを見渡しながら波打ち際まできて波に指をひたしている。


「さぁ! 来てくれ!! 玄武げんぶ


 すると海面が高く盛り上がり水がこちらまで溢れてきてクウヤは慌てて後退する。エリサは現れたものに目をみはった。とんでもなく大きな亀がのそりと海中から顔を出したのだ。


「さあ、皆、玄武げんぶの上に乗り込んでくれ」


 唖然とする一同はのそのそと砂浜にあがってくる亀の甲羅の上部に釘付けになった。小さな家がくっついている。


「東漣国へは海底を通らなければいけない。結界をまとわせ泳いでいけない訳でもないが、客人を招くのに水泳させる訳にはいかないのでな。ハハハ!」


 カレンは豪快に笑いふわりと飛翔魔法で浮き上がると亀の上部の家の扉を開いた。


「さあ、皆、おいで」

「すごい、まるでお伽噺とぎばなしだ」


 エリサは嬉々とするクウヤを共に飛翔魔法で浮かし、カレンに導かれ亀の甲羅の上の家に入った。ルークとシドも後に続き入ってきた。中に入ると、外側とは違い内側は硝子張りになっているかのように外部が見える。


「さあ、海中遊覧と行こうか」


 カレンが指を鳴らすと、のそのそと亀の玄武が動き出し、海の中へと戻っていく。直ぐに海は深くなり、青い海水に小魚が泳いでいる姿が見える。


「ふふふ……東漣国には亀が恩人を海中の楽園に連れて行くというお伽噺とぎはなしが本当にあるんだ」

「へー。面白い話だね。そこでは何が起きるの?」

「とても美味しいご馳走の数々、麗しい舞や歌のもてなし、美しい姫様とも恋仲になる」

「へー! それは素敵な話だね。それでずっと幸せに暮らしましたって終わりかい?」


 カレンはエリサの問いににやりと人の悪い笑みを浮かべた。


「亀の恩人である男はある時、地上に帰りたくなるんだ。その時、姫様はお土産に箱を渡した」

「箱? 中身はなんだろう?」

「その男が地上に戻ると、地上では百年以上の年月が経っており男を知る者は誰もいない。そして、男は箱を開けると、煙が出て老人になってしまったとさ」

「えっ!?」

「それで終わりなのかい? なぜ、そんな箱を渡したんだ……もし、時が経っていることを知っていたなら教えてあげれば良いのに。悲劇じゃないか……」


 エリサとクウヤは驚きの声を上げる。


「まぁ、ボクは姫様の気持ちが分かるかな。ボクを選ばず置いて出ていくなら全てを奪ってしまいたいっていうね……」

「こ、こわい……」

「お、重い……」


 シドの笑みにエリサとクウヤはどん引きしたように顔を引き攣らせた。


「私ならばそんな恩を仇で返すようなことはしない。もし、そのような時間が過ぎることを男が望まないのであれば、姫様を食い殺してでも男を陸へ返すだろう」

「こ、こわい……」

「お、重い……」


 カレンの当然だというような宣言にもエリサとクウヤはどん引きしたように顔を引き攣らせた。


「だが、初めは亀の恩返しだったのだろう? まるで詐欺ではないか……」

「どうかな……その海底の楽園に入ってしまった時からもうこの世の者ではなくなってしまったのかもしれない」


 ルークは淡々と指摘するもエリサは何だか理不尽だと感じる。その時、大きな影が目の前を横切った。


「水龍だ!」



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