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時の魔法使いは眠りたい〜魔王や覇王や勇者になった弟子たちに執着されて眠れません〜  作者: 光流
最終章 魔法使いと始まりの地

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45 青い星と約束

「それで、何処にむかっているんだ?」


 眼下には魔国が広がり、黒く輝く魔王城も見える。クウヤは身を乗り出し空中から見える光景に夢中になっている。赤龍はゆったりと弧を描きながらどんどん上昇していくようである。


「もっと上だ」


 指を一本立てて空を指差し、カレンはにっと笑う。


「あまり魔国からは離れないで欲しいんだけどね……」


 シドが独り言のように要望を口にするが、カレンは意味深に笑みを浮かべたままである。クウヤはうわっ……すごいっ!と眼下の光景に我を忘れている。


 みるみる内に上昇していきやがて雲の上に出た。上から見下ろす雲はもこもこと白く柔らかそうである。クウヤはふわーと声を発し今にも飛び込みたそうな様子だ。


 上を見るともちろん雲一つなく透き通った青空で太陽が目にまぶしい。だが、まだまだ高度が上がっていくようである。


「凄く高いところまで来たね。ライカは凄いな」

「妾であればこの位は容易い。むしろカレンの結界魔法の方が高度における気温や大気の薄さまで考慮して組み立てられており素晴らしいものだ」

「ふふ……褒めてくれてありがとう、ライカ。君の飛行も素晴らしい」


 たしかに、この高さまできても息が苦しくなく、寒さも感じない。エリサも自分自身ではここまで高く飛翔魔法で来たことはなかった。


 やがて青い空は青黒い色に変化していく。エリサや他の者たちも目を見張った。


「うわっ……皆! 下を見てくれ!」


 クウヤの叫び声に皆で眼下を見下ろすと、広大な大地が遥か彼方に見え、雲に覆われている様子が見える。だが、まだまだ高度が上っていく。エリサはちらりとライカに目をやるとその体表は地上で見た時よりもどこか鉱物のような光り方をしている。


「こんな光景を見ることができるなんて……」

「凄いですね」


 クウヤは感動したように呟いた。ラファエルも頬を紅潮させている。シドはその様子を見つつ、辺りに気を配り警戒を続けているようだ。


 やがて周囲が真っ暗になった。たが、龍の背中から眼下に目をやれば青く丸い星がそこにはあった。


「あれが、私たちの住んでいる星」

「……綺麗だ」


 エリサの呟きにクウヤは思わずと言ったように言葉をもらす。カレンはありがとうと言いながらライカの背を撫でた。


「そうだ。あれが我々の住んでいる星だ。東漣国もここから見える」

「こんなところから?」

「ああ。あの龍のような形をした列島が東漣国だ」


 カレンは指をさすと、大陸の近くにそのような形の列島が見える。


「東漣国へ行く前にこの星を、この世界をエリサに見てもらいたかったんだ」

「私に?」

「ああ。東漣国には世界のどこにもない記録が残っている。私は数多くの記録の中からエリサ……時の魔法使いについて調べ尽くした。その中で疑問に思うことが色々と出てきたんだ」

「疑問に?」

「ああ……例えば、かつてはこの星の姿は多くの人間が目にすることが出来たという。魔法ではない力を使って」


 カレンは固く緊張した面持ちでエリサに説明をする。とても慎重に言葉を選んでいるように思う。


「魔法ではない力……」


(それはとても強力な力のはずだ)


「こうしてこの場所に来れたのはライカのおかげだ。だが、ほとんどの人間はここまで来ることは出来ない」

「まぁ、そうだろうね」

「だが、私たちはこの丸い星の上で暮らしていることを知っている。そして、この星を飛びだせば遥か彼方には数多の星々があることを知っている」

「うん」

「だが、それよりも多く知ることを誰も求めず何も変わらないのは何故だ?」

「うん?」


 エリサはカレンの言わんとすることがよく分からず首を傾げた。カレンは空……宇宙の深淵の闇を指差す。


「人という者は未知なるものに恐怖し、憧れ、挑むものではないのか? だが、ここ数千年、我々の力は魔法という力に留まり続け、この世界の真理を新たに解き明かせてはいない」

「精霊と魔法で世界が上手く回っているからじゃないのかい?」


 カレンはエリサに対して頷いてみせた。


「それもあるだろう……だが、過去の魔法を超えた力について誰も調べてみようとしないのは何故だろう? まるで、何者かに制御されている・・・・・・・かのようではないか……そのように考えたんだ」


 エリサはカレンの言った言葉をじっくり吟味してみる。カレンがエリサを連れ出して、遠く離れたこの場所でこんな話をしたのは確かめたいことがあるのだろう。カレンはエリサの目を見つめてゆっくり問う。


「きっと、今の秩序を壊さぬように魔法か何らかの術で人々は制限されているのだと思う……いや、確信している。そして、エリサはそれに関わっているのか?」


 とても驚きそして僅かに傷付いた顔をしたせいだろう。カレンは慌てて手を振ってエリサに言う。


「エリサを糾弾きゅうだんするつもりは毛頭ない。ただ、エリサの考えを事前に知っておきたかったのだ。私は君の味方だ。君がこの世界の秩序のために生きるというなら、私はそれに従いどんな者とも戦おう」

「……私は人々を操ったりなどしていない。そして、もし誰かがそれをしていることを知ったとしたら容認などしないよ」

「そうか……分かった。東漣国でどんなことが起きてもエリサの考えに従う。それを分かって欲しかったんだ」

「……なぜ、私の考えが君の行動基準になるんだ? 君には意思がないのか? 何が正しく、何が間違っているのか、それは各々の譲れない信念に依るものだろう?」

「エリサ。私は君のために生きると決めたのだ。それが偽りなき己の信念だ。拒絶しないでくれ」


 カレンはエリサの手を掴むとひざまずき懇願する。エリサは考えがまとまらず言葉が出てこなかった。


 だが、エリサはふと気付く。カレンが地上から遠く離れたこの場所に来たのは、仮にエリサが何者かに制御されていた場合にその影響から脱せるのではないかと、考えたのだろう。


「そろそろ限界よ。地上に戻るわよ」


 ライカは我関せずと悠々とその大きな翼を羽ばたかせてゆっくりと青い星に向かい舞い降りていった。





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