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時の魔法使いは眠りたい〜魔王や覇王や勇者になった弟子たちに執着されて眠れません〜  作者: 光流
最終章 魔法使いと始まりの地

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43 魔法使いと弟子

 それは真っ暗で温かいぬるま湯の中のようだった。揺蕩うような微睡みの中、クウヤは己を呼ぶ声に目を覚ます。


「目が覚めたか?」


 その声は最近はとても馴染みのある声、暗主あんしゅの声だった。クウヤはとても眠く、今までのことをよく思い出せない。


「お前は死に向かっている。我と契約するか? 力が欲しいか?」


 とても近いところでささやかれるような気もするし遠くからの声のような気もする。不思議な心地になりながらとても穏やかな気分になる。


「力を求めよ。生き続けるために。やがては全てに滅びをもたらすために」


 やはり怪しい石だったと……クウヤは思わず笑う。死にひんしてこれほど安らかな心地になれるのは優しく己を包み込む暗黒の闇のおかげだろうか。クウヤはまた目を閉じた。


「……我と旅に行くのではないのか。我と契約をしろ」


 小さくなっていく声を聞きながらクウヤは夢を見る。龍に乗って空高く舞い上がり世界を旅する夢を。


「我はそなたと旅がしたい……」


 暗闇が温かな流れとなってクウヤに入り込み一体化していく。


 やがて目を覚ましたクウヤは魔獣に村が襲われ、家族に逃がされたということ以外を何も思い出せなかった。かつての相棒の存在すらなかったかのように。






「と、言う訳なんだよ。………………クウヤ?」


 エリサは、クウヤを誘い街に繰り出し、これまでのことを説明した。クウヤは少しぼうっとしたような顔をしていたが、呼び掛けにはっとしたように顔を上げた。


「じゃあ、サリーは本当はエリサって名前で時の魔法使いという伝説的な最強の魔法使いで世界を護るために東漣国の首都へ行くって言うんだな?」

「ああ。色々と隠していてごめんよ。東漣国では何が起きるか分からない。危険かもしれないが、君の安全には最大限の努力を払うよ」

「俺はその虚無っていう存在ものに対抗できるかもしれないって!?」

「うん。何でかは分からないんだ。だが、君一人に無茶はさせないと約束するよ」


 クウヤは驚いてわなわなと手を震わせている。エリサはやはりいきなりにそんな危険に飛び込めと言われても怖いだろうと思い、少しでも安心できるように言葉を尽くす。


「や……」

「いや?」

「やるよ! そんな世界を護るための冒険なんて、絶対に行く!」

「うん? 有り難いけど、大丈夫かい? 無理はしていない?」

「いいや、昔から最古の国の秘密を解き明かすような冒険をしたいって言い合ってたんだ」

「……そ、そうなんだ? 危険かもしれないよ?」

「分かっている! けれど、どんな危険があってもそれがこの世のためになるなら、俺は力を貸したい。俺たちなら大丈夫だと思うから!」

「うん? 俺たち?」

「ああ! 昔から相棒と言い合っていたんだ……」

「相棒って誰だい?」


 エリサの問いにクウヤは一瞬、途方に暮れたような顔をしたが、いや俺なら大丈夫だと言い直した。エリサはサリーの姿で会いに来ていたが、本来の姿を見せておこうと魔界の迷いの森へ転移した。変身してみせると、クウヤは目を白黒させながらも言う。


「黒猫になる位だから今さら驚かないぜ。それに、匂いは変わらないからな」


 そう言われて、カレンにも見破られていた事を思い出し複雑な気分になるエリサである。


「……いい加減出て来なよ」


 エリサは樹木や植物が鬱蒼と茂る森の奥の暗がりに向かって声を掛けた。


「申し訳ありません。エリサ」

「あーあ、見つかっちゃったね」


 現れたのは蒼い髪と瞳が印象的な美少女ラファエルと、退廃的な白髪の美貌の青年シドである。


「あっ……魔王軍の幹部の……」


 クウヤはお偉方の突然の登場で驚き、若干の緊張が顔に現れる。エリサはため息をついて尋ねた。


「ルークの命令かな?」

「えっと……その……エリサ……」

「黙秘するよー」


 監視の命令を受けているような二人に対して問い質せば、ラファエルはしどろもどろとなり、シドは捉えどころのない飄々ひょうひょうとした態度である。


「エリサはその……魔王とどんな関係が?」


 クウヤから質問を受け、そう言えば側付きになった経緯やルークのことを説明していなかったことを思い出した。


「魔王……ルークは私の弟子だったんだ」

「えっ!?」

「え!」

「えー」


 多方面から驚きの声が上がる。そう言えば、エリサ本来の姿で会うのはラファエルもシドも初めてのはずである。その点では驚きは無かったようなので、ルークから話は聴いているようではあるが、過去の事までは知らなかったらしい。


「ま、魔王様が弟子ですか!?」

「君は魔王様の特別だとは思っていたが予想の斜め上をいったよ」

「ということは、東漣国へは魔王御一行?」


 エリサはあんまり驚いている皆を見て少し悪戯な気分になり重々しく頷いてみせる。


「そうさ……ルークは私の一番弟子であの子がこんなに小さい頃から面倒をみていたんだよ」


(割と早くに面倒をみられる側になっていた気もするが嘘ではないよね)


 エリサは己の腰くらいに手で位置を指し示す。


「だから、ルークは未だに私を立ててくれているんだ……」


「それは、何とも羨ましい話だ」



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