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38 永遠の誓い

『あなたの存在は変則的なんだよ』


 暗い空間をゆらゆらと漂っていると何処かから声が響いてくる。


『本来であれば、あの男はああして奴隷となりやがて復讐のため国を滅ぼし魔王となった。そして、世界が滅ぶかという時、僕が勇者としてあの男と戦うはずだった』


「勇者?」


『そう、黄金龍は人間の中に生まれ変わり続け魔王が現れると勇者となる。闇と光の均衡を保ち精霊の理を維持するために。けれど、あなたは世界の理に関係なく干渉できる。僕とは違う使命を負った守護者だからだ』


「私が守護者?」


『そう……虚無からこの世界を護るためのね。時の魔法使いとはそう用意された存在だ。虚無を想定していなかった苦肉の策さ。さあ、本来歩むはずだった僕の世界においてもあなたは簡単に干渉してしまった。どのような結末にするのか見せてくれ』



 まばゆい光の後、薄暗い大広間が現れる。魔王城の広間に似ている。王座に座るのは仮面を付けた男。今のルークの姿ととてもよく似ている。


「ルーク?」

「……ああ。やっと来たか」


 ゆっくりと顔を上げたルークは黒い仮面に顔の上半分を覆っており表情が読めない。


「もう少しでこの世界が滅ぶところだった。世界の危機でないと現れないのだろう。お前は」

「ルーク? どういうことだ?」


 ルークの言葉に言いようのない違和感を覚えてエリサは問い質す。


「お前ともう一度会うためにこの世界を滅ぼそうとしていたところだ」

「……何をバカな」

「だが、現れた。賭けには勝ったということだ。お前は伝説上の住人だからな。存在すら不確かで私は既に狂ってしまい存在もしない者を追い求めているのかと思い始めていた」


 ルークはゆっくりと立ち上がり、腰の鞘から剣をすっと抜き放った。


「ようやく会えたのだ。手足を斬り落としてもお前を何処にも行かせはしない。もう二度と私の前から消えぬように」


 斬り掛かってくるルークの斬撃をかわし、手のひらに呼び寄せた剣をくるりと回す。


「手足を斬り落とされる訳にはいかない。聴いてくれ。ここはきっと君にあの時会わなかったらあったはずの世界なんだ」

「どうでも良い。お前の言うその世界でお前と共に暮らした私がいるというだけで狂おしい」


 鋭く突く剣を躱し、追ってくる剣を弾き返す。目にも止まらぬ速度で迫ってくる剣の峰を蹴飛ばし、高く跳躍し距離を取る。


「ルーク! 君の望みはなんだ?」


「永遠に共に。それが叶わぬなら、お前を殺し喰らって一つとなろう」


 エリサは魔法を続けざまに放ち、近付かれないように牽制けんせいするが、ルークの結界で防がれてしまう。致命傷を負うような威力のある魔法は使えず、何とか戦意を喪失させようと手足を狙い魔法を放つ。


「戦う必要なんかないはずだ。黄金龍が示すこの世界は私たちのあったかもしれない未来の一つに過ぎない」

「私の世界は、お前を思い砂漠の中一滴の水もなく彷徨さまよい歩き続けたということだけだ。お前は時折現れ翻弄するように僅かに私を潤し、己が渇いているということに気付かせる」

「ルーク……共に生きていこう。けれどそれは君に閉じ込められ縛られるということではない」


 エリサは魔法をかいくぐって近付いてきたルークの振り下ろす剣を受け止め弾き返しながら、詠唱する。


「……時よ。ゆらゆらとふるえ。つかの間の泡沫うたかたの夢の中に揺蕩たゆたえ」


 エリサは時の魔法を使う。エリサの息が止まっている僅かな間のみ世界の時が止まる魔法だ。時が止まる。


 ルークの持つ剣を破壊し、何重にも拘束魔法を掛けた。少し離れ息を吐き出す。時が動き出した。


「っ!?……何をした!」

「私の切り札だよ。話をしよう。ルーク」


 かなり強力な拘束魔法だというのに、既にぱきぱきとひび割れていく気配を感じ焦る。


「お前は私のものだ。永遠に愛しぬくと誓おう」

「ルーク。そんなのは愛じゃない。……この世界で君を助けることが出来なくてすまなかった。期待だけさせてしまいすまなかった。けれど、私も君もこんな所で囚われて終わってしまっていい訳がない」

「ここでお前と共に終われるならそれもまた良いだろう」



 ぶちりと拘束魔法を引きちぎるとルークはゆっくりと動き出そうとする。エリサは拳を握り、ルークの顔を殴りつけた。黒い仮面がひび割れ地面に落ちる。やはり今のルークの顔と同じである。


「ルーク!! 私は誰のものでもない。ここは黄金龍が見せる世界。ルーク! 聴こえているだろう? そこにいるんだろう? ルーク!!」


 ルークの目を見つめエリサは呼び掛けた。その瞳の奥にゆらりと揺らぐ何かがある。


「ルーク!! 君には望みがあるはずだ! 君はくだらない望みなど持ってはいない。君自身の望みを私は何か知らないが、とても大切な望みだったはずだ。思い出せ。ルーク!」


(あの春の日、白い花咲く湖の小舟の上で、君は何が自分の望みなのかはっきりと分かっていると言ったんだ)


 ルークの尋常でない魔力が辺りを包み、そこは白い空間になった。ルークはいつもの優しげな目でエリサを見やる。


「久しぶりと言うべきかな? エリサ。それともサリー?」





 



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