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36 天空の宿り木

 光の帯は下は緑色に輝き上の方にいくにつれ濃くなりゆらゆらと幻想的に揺れる。更に紫の帯が重なるように現れ空を彩った。暗闇に落ちていく滝にもその光は反射し、辺りは神秘的な様相に変わる。


(過去にこれとよく似た魔法を考案したことがあるが、全く違う。本物は圧巻だ)


『エリサ、時のきざはしが開かれる』


 やがて空の帯から一筋の光が地上に差し込むと上に繋がっていく光の階段が現れる。


「あれだ。ルーク。上ろう」


 空へと続く階段を登っていき光の帯に触れた瞬間、目の前が真っ白くなり突然大きな扉が現れた。


(……ここが天空の入り口だろうか?)


「ルーク!?」


 後ろにいたはずのルークが居なくなっている。


「やあ、久しぶりだね」


 どこかから声がしてきてエリサはきょろきょろと辺りを見渡した。顔を上げると、扉の上部の飾りに黄金色の龍の顔が付いている。その龍がぱくぱくと口を動かしていてエリサの目は釘付けになった。


「ここは天空の宿り木。あなたにまた会えて嬉しいよ」

「天空の宿り木? 君は黄金龍かい? 君とは何処かで会っただろうか?」

「天空の宿り木とは、始まりの時に作られた記録の保管庫だよ。そう、僕は黄金龍だ。そしてあなたと僕は昔に会ったことがある。思い出して。時の魔法使い」

「悪いが黄金の龍に出会った記憶はないが……。君に訊きたいことがあるんだ……」

「僕に実際に会い、質問するにはその資格があることを示さなければならない。あなたはともかく、あの男にはそれが果たせるだろうか……」


 不意に低く不穏になった声にエリサはどきりとする。


「ルークのことを言っているのか!?」


 ぎぎぎぎっと音がして扉が開かれていく。中は白い光に満ちており眩しくてよく見えない。


「さあ、進んで。あなたがこれから見ることにどう感じるのか、僕にはわからない。資格を示してくれ。もう一度あなたと会うことを楽しみにしているよ」


 エリサは一瞬躊躇ちゅうちょするも迷いを振り切り、その光に満ちた部屋に足を踏み入れた。



 光が収まるとそこは森の中だった……しかもよく見知った森。時忘れの森である。ルークと出会った場所だ。目の前に大きな洞の空いた木がある。


(……おかしい……この木は時の魔法使いの家の前に転移させたはずでは?)


 エリサは己の髪の毛の色が銀色に戻っていることに気付いた。どうやらエリサの姿に戻ってしまっているようだ。魔法で変身しようとしても魔法が掛からない。


 木の前に集まってくる兵士たちがいるが、目の前に立つエリサには見向きもしない。そして、木の洞の中から小さな男の子が引きずり出される。


(ルーク!! 昔のルークじゃないか!)


 震える幼いルークに向かって剣が振り下ろされようとするのを助けなくてはと、魔法を使おうとするが全く発動せず、兵士に掴みかかった腕は空を切る。


(なんだ、これは……私は実体ではないのか? それともここが記憶の世界なのか? だが、こんな過去はなかった)


「待て、殺すな。使い道があるかもしれないとあの方が仰せだ」


 一人の兵士の中でも上官らしき男が近寄ってきてルークに首環を付ける。


「闇の精霊の愛し子など気味が悪いがな……隷属の首環を付ければ何もできん」


 手荒くルークは兵士たちに引っ立てられていく。


(なぜだ!? 私は何をしている? ルークを助けたはずなのに……)


「ルーク!!」


 思わず叫び声を上げると、ルークはその声が聞こえたかのように俯かせていた顔を上げ、びっくりしたようにエリサを見つめた。


「ルーク、きっと助けるから!」


 場面が唐突に変わり、目の前が薄暗くなる。



 次に現れた場所は何処かの洞窟の中のようだ。じめじめとした洞窟の中には長い通路があり両脇に幾つかの鉄格子が見える。その中の一つに小さなルークが粗末な衣服を着せられ薄汚れてぐったりと横たわっていた。


「ルーク!」


 鉄格子をすり抜けて近くに寄ることが出来た。ルークは無気力にぐったりと横たわるばかりである。こちらの声も聞こえないようだ。


 環境は不衛生で虫が這い、置かれた水も濁っている。こんな環境で子供が生きれるはずがない。


 ゆっくりとルークの瞳が開かれると熱に浮かされたようにぼんやりとこちらを見つめる。目が合った気がしてエリサは顔を近付ける。


「……だれ……」


 ぽつりと呟かれた言葉にエリサはルークが己を見えていることを確信する。


「ルーク……助けられなくてごめん。頑張ってくれ。生きてくれ。私が何とかする方法を探してみるから」

「あなたは……」


 そっとその手を握ろうとするが空を掴んでしまう。エリサは口惜くちおしくて唇を噛みながら、駄目もとで治癒魔法をルークに掛けた。するとルークの身体の傷が治り、熱に浮かされたようだった顔が平常に戻っていく。ルークは呆然とした表情を浮かべ、起き上がるとエリサの顔を見つめる。エリサはさらに魔力をルークに注ぎ込みながら己の服でルークの顔の汚れを少しでも落とそうと拭いていく。すると、エリサは己の腕が徐々に透けていくことに気付く。


「な、なんで……ま、まって!!」


 ルークの叫び声が響いたと同時に唐突に場面が切り替わる。



 戦場だ。多くの人々が倒れ、血を流し息絶えている。雨が降っている。荒廃した大地にまだ残った熾火おきびくすぶっている。一人の青年になりかけている少年が空を仰ぎ立っていた。


(ルークだ! あれからだいぶ時間が経ってしまっているようだ)


 ルークは手にしている刀を己の胸に突き立て倒れ伏した。


「ルーク!!」


 エリサは心臓が凍えたように息を止め、急いで倒れたルークの元へ駆けつける。闇の精霊たちがルークにまとわりついて傷を癒しているようだ。


 ルークは目を開け自嘲に口を歪める。


「…………なぜ死ねない」

「……ルーク」


 ルークは側に屈み込むエリサの姿が見えていないようだ。ルークの首には隷属の首環がめられている。



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