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4 狂乱の白龍

「待ってください……龍などという伝説の神獣をエリサたった一人で倒しに行けと言っているのか!?」

「うん? 時の魔法使いの伝説を知っていると言ってただろう? そもそも時の魔法使いとはそういう存在ものだ」

「そんな、危険すぎる……死にに行くようなものだ」

「私の身体は時の魔法が掛かっている……言ってしまえば不老不死のようなものだよ。大怪我をしても死なないから問題ない」


(まあ、死ねないんだが……時の魔法使いの死はいつも次の代に力を引き継いでようやく迎えられるのだ)


「……そこの坊主はお前が心配だって言ってんだよ」


 銀狼のリュプスが少し呆れたような雰囲気を醸し出し、顎でルークを指し示す。


「うん? そうか……私が心配なのか」


 何だか……ふわふわと胸の中が温かくなった。ルークの作ったスープを飲んだときのように……。


「俺も共に行く」

「駄目だ」


 だが、その後に続いたルークの言葉にエリサは冷水を浴びせかけられたように冷静になり、ピシャリと断った。


「足手まといにしかならない。私は死なないが君は簡単に死んてしまうだろう?」

「俺は闇の精霊の力を借りることができる。ただの人間じゃない。きっと役に立てる」

「まだまだ、制御も狙いも甘いじゃないか……子供の力は必要じゃないよ」


 ルークは固く唇を噛みしめあきらめきれないようだった。


(しまったな……連れてきたのは失敗だった……)


「私が帰ってきたら食べられる美味しいものを用意しておいてよ」


 軽くルークの頭を撫で、宥めながらリュプスに目で合図をする。そして、ルークを時の魔法使いの家に送り、エリサは狂った龍の元へと転移した。



 荒れ狂う吹雪は龍の影響である。エリサは結界を張り、通常であれば視界も効かない吹きすさぶ雪の中を歩いていく。少し先で轟音が響き大きな炎が渦巻くのが見える。


(既に何者かが戦闘している……)


 より近くに寄っていくと吹雪の中に、咆哮を上げる巨大な白龍と、対する二人の魔法使いが見えた。魔法使いの着ている服は背中に大きな東漣とうれん国の紋章を付けている。今の世で最も魔法が栄えており、国も富み世界の中心となっている国である。


(一番乗りは他にいたか……)


 気配を消し、エリサが手を出す必要があるか暫し見守る。が、ほどなく、二人は押され始めた。一人は壮年の男性で熟練の魔法使いであり、もう一人はまだ子供といっていいほどの少女であるが、驚くほどの魔力に満ちていた。少女の赤毛が雪の中に燃える炎のように見える。強い魔法を使い、続けざまに攻撃を放っている。だが、狂った白龍の力は今や災害といっていいほどの荒れ狂う暴虐の力となっており、彼等では止めることは難しそうだ。


 エリサは、少女が白龍の力に吹き飛ばされたのを契機に、彼等の前に現れると少女を受け止めた。


「助太刀しよう」

「あ、貴方は!?」


 エリサは硬度の高い結界を三人の前に張り巡らせる。尖った氷の刃が次々に飛んでくるが結界が弾き返す。


「私は時の魔法使い。世界の危機に現れる者」


 白龍がブレスを吐くために力をため始めた。大きな口の奥に光が集まっていくのが分かる。


(この白龍はかなり強いな。早く倒さないとこちらが塵にされてしまう。塵になると流石に再生に時間が掛かるだろう……。ルークの夕食を食べれなくなる)


「リュプス」


 エリサが呟くと同時に右手の中に銀色の装飾が施されたしなやかな一振りの剣が現れる。


『あの白龍はなぜ狂ってしまったんだ?』

『番が死んだようだ。永劫の長い生に耐えられるなくなったのだろうさ……』


 エリサは、剣となって顕現したリュプスと念で会話をする。


『番の龍の亡骸は近くにあるのだろうか……』

『いや、番は兎だったようだ』

『種族も、寿命も違いすぎるだろう!』

『龍の番というのはそういうものだ』


 エリサは、白龍を見つめる。龍というのは、賢者と呼ばれるほどに思慮深く理を知る者である。今は、その瞳に宿るのは知性の欠片もなく、狂乱の色のみである。


(……ああ、君もか)


 エリサは剣を構え、少女と壮年の男を結界の中に残し、吹雪の中に飛び出した。気配を消し、氷の礫や刃は生身で受ける。氷に手足を切り裂かれ、凍るような痛みが走るが構わず走り抜ける。


 白龍が溜めた力を込めたブレスを放とうとした時、その眼前に飛び上がったエリサはその白龍の頭の天辺からブレスごと刺し貫いた。暫く静寂が訪れ、一瞬の後、白龍と辺りの雪原もろとも巻き込んだ大きな爆発が起きる。



「あっ……」


 結界の中にいた少女は思わず悲痛な声を上げていた。あの爆発では人間はひとたまりもない……だが、なぜ、まだ結界は維持されているのだろう。


 ゆっくりと雪煙が収まるにつれ、一人の人間が歩いてくるのが見える。思わず少女は結界を無効化しすり抜け、走り寄っていた。


「カレン!?」


同伴者のサカキからとがめるような声が上がるが無視をする。


「大丈夫ですか!?」

「うん」


 エリサは走り寄ってきたカレンを抱きとめる。片手で。右手は爆発で吹き飛んでしまった……。


「……で、でも……手、手が……」


 動揺するようにカレンの全身が震えている。エリサは落ち着かせるように背中を撫でた。


「大丈夫。寝たら治るから」

「……ほ、ほんとですか? 私の治癒魔法では欠損は治せないんです。ごめんなさい」


 カレンは涙目である。決死の覚悟でここに来ていたのだろう……近付いてくる壮年の男を見やり思う。国で最も力のある者たちなのだろう。ならばあまり長居は出来ない。力ある国と関わると碌なことがないのだ。


「龍の亡骸は任せた」

「ま、まって! 行かないで!!」


 龍の亡骸は放置すると魔力が凝り魔獣や魔物を引き寄せることがある。カレンの叫び声が響いたが、エリサは構わず時の魔法使いの家に転移した。エリサの気配に気付いたのか直ぐに扉が開く。


「エリサ!!……その怪我は!?」


 こちらでもルークが、泣きそうな顔をして駆け寄ってくる。エリサは、片手で受け止め背中を撫で言った。


「大丈夫。寝たら治るから」


 そして、そのまま意識を失ったのだった。


「エリサ!!」


 ルークの悲痛な叫び声がずっとどこか遠くから響いているのを聴きながら……。



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