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時の魔法使いは眠りたい〜魔王や覇王や勇者になった弟子たちに執着されて眠れません〜  作者: 光流
第二章 魔法使いと魔王

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28 本当の望み

「やあやあ、初めまして。サリー。魔王様の側付きにして謎多き少女よ。ボクはシド。魔王軍の幹部にして麗しき魔人。さっきラファエルが紹介した通りさ」


 突然、結界の中に現れた白髪の男は美しい顔に優しげな笑みを浮かべ、悪びれ無く胸に手を置いて大仰おおぎょうに自己紹介する。


「何の目的があってここに連れてきたんだ?」

「う~~ん、単刀直入だね。もっと君とお喋りがしたいなー。ラファエルと話していたように」

「シド。ふざけないで。早く私たちを解放しなさい」


 にこにこと笑っているシドの目が笑っていないため不気味な気配が漂っている。


「ラファエル。今は少し静かにしててね。お話し中だから」


 シドが小さな子供に言うように唇の前に人差し指を立て言うと、ラファエルからは冷たい怒気が発せられる。


「ボクは結界魔法が非常に得意だからね。ラファエルでも簡単には破れないよ。本当に出たいならボクを殺す気でおいでよ」

「……シド。何故、このような無益なことを」

「無益じゃないよ。全く何の興味も表さなかったあの魔王様がほんの少し魔力を持っているだけの人間を手元に置くなんて大事件だ。……何かがあるに決まっている」

「それで何が知りたくて何が望みなんだ」


 エリサの問い掛けに、にこっと爽やかな笑みを浮かべ近寄ってくる。


「君は魔王様の何なのか? それが知りたい。君は魔王様にとって交渉の手札になるのかな? まさか君みたいなのが好みってことはないと思うけど、お手付きだったりする?」


 顔をしかめ、わざと下卑たことを言うシドはエリサの反応を見ているのだろう。エリサは肩を竦め、首を振った。


「ルークには他に大切な者がいる。私は、間者かと疑われて魔王様の側付きになって監視されているだけだ」


(間者か……または時の魔法使いエリサではないかとも疑われているのだろう……何故、問い質して来ないのか想像はつかないが)


 でないとあの好待遇は説明がつかない。エリサは一応師匠として尊敬されていたため、万が一そうであった場合のことを考えて丁重に扱っているのではないか、エリサはそう思っていた。


「アハハハハハハッ……。君は何だか不思議な人間だなぁ。悠久を過ごした大樹のように泰然としているかと思えば世慣れぬ少女のような顔もする」

「解放してくれ。今言ったことが全てだ。他に理由はない。あの問題も全て君が図ったことなのか?」

「ああ。ここに連れてくるためにボクが仕掛けたんだ。面白かったかい? とても上手くいっただろう。魔王様も楽しそうだった。その姿を見てボクは確信したんだ。君は魔王様の特別だと。ああ……君をじわじわと苦しめて殺したら魔王様はどうすると思う? いつもの何の関心もないという顔をするのだろうか?」


「そんなことをさせると思うのか」


 辺りの重力が重くなったかのような威圧でシドやラファエルが膝をつく。白い鳥籠のような檻の結界が、硝子が割れるように壊れ落ちていく。


 ルークは庇うように一瞬でエリサの前に現れシドと対峙する。


「何が理由だ。全て話せ」


 ルークの黄金色の瞳がぎらぎらと輝き圧を放っている。そういえば、魔の者には大きな影響を及ぼせると言っていたことがあった。シドも目線を逸らせず身体を強張らせ、力を掛けられて強制されているかのように口を開いた。


「…………全てを終わりにしたい。長い時を生き続けることに飽いた。人間だった頃からこの理不尽な世界で生き続けることは辛かった。そして魔人となり簡単には死ねず、心残りが大きく思い切ることもできない……いつからか全てが虚しくなった。せめて、魔王の手でラファエルの前でむごたらしく殺されたら彼女の中にボクは残り続けるだろう」

「シド!?」


 淡々とこれまでの軽薄さを削ぎ落とされた機械的な声音でシドは心の内を告白する。ラファエルは驚いたように目を見開きシドを凝視する。


「なぜサリーをさらった?」

「魔王様の弱みと分かったからだ。魔王城の魔王妃の部屋を与え囲い込み、一歩も魔王城から出さない人間。魔王様にとって我等など路傍の石に過ぎない。そんな魔王様が祭りを催し人間を連れ歩いている。他の者や物事には何の関心も持たない、冷酷無比な魔王様が! そんな相手を手の中から奪われたとき、怒り狂うだろうと思ったんだよ」

「……そうか、よく分かった。お前の望みを叶えてやろう……今すぐに死……」


 慈悲深いとさえ言えるような優しい声音でルークは語りかける。輝きを増す瞳にぞわりと怖気おぞけがしたエリサは、思わずルークに後ろから抱きつき腕を上げると目隠しをした。


「だめだ……だめだよ。ルーク」


 きっと決定的な命令を下そうとしていたのだろう……いくら本人の望みとはいえ誰かを殺して欲しくない。


「私はなんともない。このまま終わりにしちゃだめだよ。シドとラファエルも話し合う必要がある」


 覆う手のひらが熱を持ったように熱い。くっつく背中には緊張するエリサの心臓の音が伝わっているだろう。


「お願いだよ。ルーク」



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