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時の魔法使いは眠りたい〜魔王や覇王や勇者になった弟子たちに執着されて眠れません〜  作者: 光流
第二章 魔法使いと魔王

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27 水底の鳥籠

【そこは開かれた口の近く、赤い花の咲く、水の中であって水の中にない場所】


 エリサとルークは二人で顔を見合わせ首をひねる。


「開かれた口とはなんだ……」

「この魔都の入り口といったら何処になるのかな?」

「出入口は複数あるが、正門は南側に位置する朱雀門だ」

「とりあえずそこに向かおう」


 魔都をぐるっと囲む大きな城壁の南側に朱雀門はあった。城壁の内側には堀があり水が流れている。お祭りのためだろうか。朱雀門の周囲の城壁には色とりどりの絵が描かれていた。意匠は様々であるが、半ば堀の水の中に浮かぶように真っ赤な花が描かれていた。


「あれじゃないかな。でも水の中であって水の中にない場所とはどこだろう?」

「この城壁は城門近くの一部の内部に空洞があるんだ。失礼、抱えるよ」


 そう言ってルークはエリサを抱えると壁を蹴って城壁の上の通路まで上ってしまった。


「うわっ……」


 驚いてしがみついたエリサをルークはそっと通路に下ろした。


「ふふ……」


 何やら楽しそうに笑っている。


「何だか楽しそうだね」

「うん。驚いた君というのは珍しいから」


 そうだろか……最近はルークに驚かされっぱなしである。


(知らぬ間に魔王になんてなっているし)


「この城壁は内部に入れる構造となっている」


 ルークはそう言うと通路の床の一部のへこみに指を差し入れ石床を一部剥がした。そこには、階下に降りていく階段がある。


「……これは、一般人ではたどり着けないじゃないか」


 エリサは魔王軍が考えたという問題の中身が不公平に感じ、思わず不満を露わにするが、好奇心が勝ち階下を降りていく。


 城壁の中は薄暗くとてもひんやりとして湿気が多い。ルークが魔法で灯りをつけると、長い通路が僅かに曲がりなから遠くまで続いている。通路の両脇には水路が流れており、深そうだ。下の方で堀と繋がっているのだろう。


「次の問題があるのか……ここが最終地点なのか」


 そう呟いて辺りを見渡していると、エリサは目の端できらりと光るものを捉えた気がしてかがみ込む。


「サリー?」

「うん? 何だろう?」


 屈んだまま水路を覗き込むと水底から突然腕が伸びてきてエリサの首元を掴むとそのまま水の中に引きずり込まれた。


「……リ……!!」


 水音と共に後ろで叫ぶルークの微かな声が聞こえるが、エリサはどこまでも沈んでいった。




(おかしい……この水路がここまで深いはずはない)


 不思議なことに水の中に浮かび上がる光景がある。


 蒼い髪の小さな女の子がぬいぐるみを抱え樹の上で泣いている。


「何を泣いている」


 女の子のいた場所よりも高い所から声が掛かり身体をびくりと震わせる。声を掛けたのは少し年上の白髪の少年。


「私はフキツだから隠れているの。消えてしまいたい」

「何を馬鹿な……お前は弱いな。弱く小さく儚き者だ。ボクと同じ闇の精霊の愛し子なのに」


 女の子は彼も不吉と言われ恐れられていることを思い出した。自分は忌み嫌われ、彼は恐れられている。


「どうしたら強くなれるの?」

「知るか。ボクは元から強く麗しく魅力的だからじゃないか? お前の泣き顔は醜いな」


 女の子は泣くのをやめようと堪える。


「だが、根性はあるな。泣く姿を見られぬよう樹の上に隠れるとは。ボクの足元にも及ばないが見所はあるかもしれない」

「うん、頑張る」



 光景は変わり宮殿の中、少し大きくなった少女は晩餐会で一人窓際に立つ、少年から青年に移り変わる美しい彼を見つめる。周りの者たちからも羨望と恐れと若干のあざけりを含む視線が向けられている。


「シド兄さま。一人でこんな所に」

「ボクは君の兄じゃないよ。わずらわしい騒ぎの中には居たくないんだ」

「学園を最年少で最も優秀な成績で卒業したと聞きました」

「ボクは美しく、賢く、麗しいから当然のことだ」

「当然とは思いません。貴方はとても真面目で勤勉でご自分に厳しい方だからです」

「……闇の精霊の愛し子はどのようなことも出来るらしいよ?」

「私も闇の精霊の愛し子ですから……そんなことは無いことをよく知っています」

「……君は婚約が決まったと知った。相手は老人で三度目の婚姻の幼児趣味の変態だと」

「私などと婚姻を結んでくれる人は奇特で有り難い。これでも王族ですから義務を果たせて幸いです」

「……だから君は弱いままなんだ」



 遠くで激しい炎が見え王宮や街が燃えている。青年は抵抗する少女を抱え遠くからその様子を眺めていた。


「どうして、私だけ……。私も王族です。国と運命を共にする責務がある」

「ボクは君の騎士だ。どんな時も君を守護する。この国はボクと君に何をしてくれた? 不吉だと虐げ忌避し利用し尽くした。君は不吉なんかじゃない。君だけがボクの救いなんだ」


 青い隊服に身を包み短い白髪が目を引く青年は真摯に言葉を紡いだが、蒼い髪をした美しい少女は涙を落とす。



「頑張って頑張ってわたしは強くなれたのかな?」


 幼子おさなごの高い声が不安げに響いた        】




「サリー!!」


 水の底から引っ張り上げられ、エリサは目を見開く。目の前には魔王軍の幹部である美しい少女ラファエルがいる。


 目の前には小さな泉がありそこから引っ張り上げられたようだ。


「ラファエル……ここはどこだ?」

「サリー、ここはシドの結界の中です」

「シド?」

「はい、私と同じ魔王軍の幹部の一人の魔人。何を思ったのか私を閉じ込めて何処かへ行ってしまったと思ったら泉にサリーが現れたのです」


 気遣うようにラファエルはエリサを見つめる。


「大丈夫ですか? 何処かに怪我は?」

「大丈夫。けど、どうしてシドという魔人は私たちを結界に閉じ込めたんだろう?」

「それが全く分からないのです。……あの者は昔は私の護衛騎士でした」


 エリサは結界の端とおぼしき場所に軽く触れるとブーンという微かな音ともに軽い抵抗があり、空間一帯を覆っている白い格子状の鳥籠のような檻が現れた。この魔人は結界魔法に非常に優れているようだ。本気になって破ろうとすれば出来ないことはないが、エリサの魔力だとルークには確実にばれてしまうだろう。


「私とシドは闇の精霊の愛し子で、国では生まれた時から忌避きひされる存在だったのです。同じ境遇の私を哀れに思ったのか、国が滅びる時も彼は私を守ってくれました」

「そうか……それなら何かちゃんとした理由があるのかな?」

「分かりません。あの者は、長い時の中で少しずつ変わっていきました。魔人となり力が強くなり長い時を生き続ける中、普通の人々をさげすむようになりました」


(たしかに、魔人という存在は明らかに人の枠を超えた力を持っている。……既に別の種族であるかのようだ)


「シドは昔は生真面目で曲がったことの嫌いな優しい騎士だった。けれど、いつのまにか何を考えているのか分からないふざけた態度をとり残酷なことも出来る魔人になってしまった……」

「ひどいな〜……ボクのいない所で悪口かい?」


 



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