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3 時の精霊

「師匠! エリサ! 起きてください!!」


 何度目かの呼び声に顔の上まで布団を掛けると引っ剥がされて奪われてしまった。ぬくぬくの暖かさから突如外気にさらされる。


「うぅ~寒いよー。風邪を引くよー」

「師匠は風邪なんか引かないでしょ」


 弟子の正しい指摘に、身体を丸め抵抗する。


「師匠! あれから一週間も経ってるんだ! 俺も上達したこともあるので見て」

「うーん……分かったよ」


 ルークの闇の精霊の力を借りた魔法を見てから一週間眠っていたらしい。ルークによると、毎朝頑張って起こそうとしたらしいが、うんともすんとも言わず眠り込んでいて断念したようだ。


 起きていくととても良い匂いが漂っていることに気付く。食卓の上には、何かのパイとスープ、果物と野菜のサラダが並んでいた。


「……す、凄いっ」

「師匠が買ってくれていた料理本を見て作ったんだ。まだ、味には自信がないけど、早く上手くなるので毎食食べに起きてきて」

「なんだか……弟子が予想外の方向にレベルアップしてる……」


 エリサは、パイにフォークを入れてみる。サクッと絶妙な感触で中は美味しそうな肉汁がたっぷりのミンチが入っている。口の中に乗せるとサクサク感のある生地に絶妙な塩気のあるミンチとのハーモニーが秀逸である。


「……ああ! なんて美味しいっ! ほっぺたが落ちる。このまま昇天して眠ってしまいそう……」

「眠らないで」

「スープもトロトロになるまで煮込まれて野菜の自然な甘みが出ている! それに、自然なベーコンの塩気と相まって、旨みの宝庫のスープだよ」

「……師匠がここまで喜んでくれると作った甲斐がある」


 ルークはにっこりととても良い笑顔で笑って言う。


「俺は、これからは朝も昼も夜もエリサのために、美味しい食事を作るよ」


(えっ……嬉しいけど寝てる時も多いからもったいないよ)


「だから、必ず起きてきてくださいね」


(笑っているのに凄い圧を感じる)


「……善処します」


 こうして、毎朝、ルークに起こされる日常が始まったのだった……。




 そんな日常が続き一年ほど経った頃、ルークと剣術の稽古をしていると、エリサは遠くから呼ばれたことに気付く。ルークの剣を弾き、掌を広げた手を突き出し中断を合図する。


「……師匠?」

「呼ばれている」

「……えっ……何に?」

「時の精霊にだ。ちょっと会いに行ってくるよ」

「……ま、待って! 俺も共に連れて行って」


 エリサはルークに懇願され片手を掴まれ、どうしようか少し考える。


(ついてきても、何も良いことはないのに……)


「……良いけど。楽しくないと思うよ。時の精霊は偉そうだし。君との相性は悪いんじゃないかな」


(闇の精霊を怖がることはないだろうけど……)


「お願いします。師匠。俺もついていきたい」

「分かった。喧嘩はしないでね」


 ルークの手をつなぎ歩き出す。これから行く場所は家の近くにある洞窟の中なのだが、空間が歪んでいたりして、エリサでないと、とんでもない所にとばされたりすることがあるのだ。やがて、森の中に木々が開け、大きな洞窟が現れた。


「……こんな近くに洞窟があったなんて」

「家の周りには結界が張ってある。この洞窟は結界の中にはあるが、更に別の結界が張られていて、空間が捻れているようなものなんだ。普通では辿り着かない」


 エリサはどんどん奥に進んで行った。洞窟の岩肌は、うっすらと白と蒼で輝く石で煌めいており、灯りがいらないほどだ。


「……すごい……こんなに魔法石が……」


 魔力を多く内蔵している石を魔法石と言い、魔法の補助に使えたりするのでとても貴重で高価だ。これほど多くの魔法石が埋まっているのも珍しいだろう。


「全て掘り出したら国が買えるかもしれないよ」

「そんなことしない!」


 思わぬ強い口調で反覆されてしまった。何がルークの気に障ったのかエリサには分からない。


「たまに掘り出して売っているんだ。欠片をね」

「えっ……」


 エリサは、ほとんど寝ているし必要になるものはあまりないが、たまには街に買い出しに行くこともある。そんな時の資金にしているのだ。先代や先々代が貯めていた硬貨も大量にあるのだが、昔の硬貨過ぎて今は使えない。ましてや、価値はあるが、過去の古の国の金貨など持っていったら騒ぎになる可能性もあるだろう。


 やがて、お椀を逆さにしたような広く開けた場所に出た。見上げる程に大きな銀狼が寝そべっている。


「なんだ、珍しいオマケがいるじゃないか……」

「彼はルーク。私の弟子だ。それからこちらはリュプス。時の精霊だ」

「……はじめまして」

「おや……闇の匂いが強いな……面白い。世界を破滅させてみるか、坊主」

「こらこら、初対面から揶揄うな。それにきちんと名前で呼んでくれ。彼の名前はルークだ」


 エリサは、繋ぐルークの手に力を入れた。何やら闇の精霊の話題はルークにとって禁句のようなのだ。ここで、喧嘩されては洞窟が崩れてしまう。


「ふん……分かった分かった。さっさっと本題に移ろう。時の魔法使いよ。お前の出番が来た。北の最果ての大地グラシアースで龍が狂った。このままでは、世界の危機となるだろう」

「ああ、分かった。対処しよう。正確な場所を教えてくれ」

「転移魔法の際に座標を設定しよう」

「了解した」

「……ま、待ってくれ!」


 洞窟にルークの声が響いた。


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