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25 魔王との朝食

 眠る場所は何処にあるのだろう?と別の扉を開けると天蓋付きの大きな寝台が置かれていた。


『豪華すぎるよ!? どうしようリュプス』

『そうか? 我の寝床の洞窟には及ばないだろう』


 寝台の置かれた部屋の隅に目立たぬ小さな扉があり、ああ、まだ側付き用の寝室があったかと扉を開けようとしたが鍵がかかって開かない。


「仕方ない。今日はここで眠ろう」


 直ぐにでも横になって休みたかったが、約束があったのでエリサは黒猫に変身すると廊下をそっと走り抜け窓の一つから抜け出すと魔王軍の寮の前まで飛翔した。寮の屋根に下り立つと、ある部屋の窓の側に駆け寄り覗き込む。灯りがついておりまだ起きているようだ。かりかりと窓枠を引っ掻く。


 その音で気が付いたようで、窓からひょっこりとクウヤが顔を出した。


「……サリー」

「にゃっ」

「……クロ」


 部屋の中に入れてもらう。エリサに与えられた寮の部屋と間取りも大きさも変わりはないようだった。


『話しをするという約束だったからね』

「ああ……。来てくれてありがとう」


 もてなしてくれるつもりなのか、平皿にミルクを入れてくれる。本当の猫ではないんだが……と思いつつも美味しそうだったのでぴちゃぴちゃと舐める。美味しかった。口の前についたミルクを舐め取り、ついでに髭や顔を洗ってから改めてエリサは念話で話し出した。


『クウヤには潜在的な魔力があったようなんだ。補助魔法で手助けするだけのつもりだったのが、潜在的な力を目覚めさせることが出来たみたいだ。私は目立ちたくなかったので結果的に君を隠れ蓑に利用するようなことになってしまって申し訳ない』

「……いや。俺は故郷が魔獣に襲われてずっと強くなりたかったから有り難いくらいだよ。サ……クロは何者なんだ?」


『リュプス。クウヤに時の魔法使いであることを話してもいいだろうか?』

『いや、やめておけ。この者については後で相談したいこともある』


『私は強い魔法使いなんだ。世界に危機が訪れる予感がしていろいろ調べているんだよ。はっきりと何が危機なのか分かる前は目立ちたくないんだ』

「……そうか。分かった。言えないこともあるんだろう。結果的にクロやサリーには色々と助けてもらったんだ。邪魔はしない」

『君は故郷が魔獣に襲われたと言ったけど……』

「……ああ。ある日、魔獣の大軍に村が襲われたんだ。俺は両親や兄たちに助けられ逃げることしかできなかった……。もう、あんな思いはしたくない。魔獣なんて普通の人間には敵わない。一人でなんとか食いつなぎながら、生きていくのにやっとだった時、元は人間だったという魔王様が現れて魔王軍に人間も受け入れていると聞いたんだ。魔王様は魔人や魔獣にも強い影響を及ぼせるらしいと聞いた。俺のような経験をする人がいないように、魔王軍に入って魔獣から人々を守りたい」

『……そうか。辛いことを話してくれてありがとう。君の魔力は特殊なようなんだけど、心当たりはあるかい?』

「……特殊? 俺の魔力は微々たるもので身体や力を少し強く出来る程度だったんだ。属性と言えるほどに特化した魔力の強さもない」


 クウヤはきょとんと心当たりは全くないといった顔でエリサを見つめる。


『うーん、虚無の力を打ち消したんだ。何か特殊な力のはずなのに』


 エリサは注意してクウヤを眺めるが、特別に精霊に好かれているということもなく、本人の言うように使える魔法の属性もある訳ではないようだ。今のクウヤの状態では本人の言う通り僅かに魔力を帯びているだけの只の獣人だ。


『あの時、君の目は金色に光っていたんだ。自覚はあるかい?』

「ええ!! 特に何とも感じなかったけど……」

「ニャ〜〜」


 何が原因だったのか分からず思わずうめき声が出てしまった。


「俺はどうしたらいいんだ?」

『君は魔王軍でなりたい姿に向けて頑張ってくれ。こちらは少し調べてみるよ。遅くにすまなかったね。そろそろ戻るよ。そうそう、私は魔王様の側付きになってしまって今は魔王城にいるんだ』

「なんだって!? また、会えるか?」

『うん。また会いに来るよ』

「にゃ!」


 窓の外に飛び出しエリサはひと鳴きし空に飛び上がった。


『リュプス。クウヤについて相談したいこととは何だい?』

『ああ。その件について調べに行きたい所があるが、今はまだその場所へ行けない。時がくればまた話そう』

『分かった』


 そのまま魔王城に戻ったエリサは、大きなふかふかの寝台に飛び込むと一瞬で眠ってしまった。



「……リー。サリー!」


 呼び声にむにゃむにゃと答えたエリサは、引っ付こうとする目を開けるとルークがいた。


「ノックはしたんだ」


 仕える側に起こされる側付きがいるだろうか。エリサは身支度の魔法を使い一瞬で姿を整える。ルークは何故か濡れたタオルと櫛を手にしており少し残念そうな表情を浮かべた。


「寝坊したかな? 何をしたら良い?」

「いや、朝食を一緒に食べようと呼びにきたんだ。声を掛けてもずっと返事がないから心配になって」

「朝食!? 作ることは私の役目かい?」


 炭にしてしまったかつての食材を思い出し慌てるも、既に出来ているからと食堂に案内してくれる。不思議なのはこの広い魔王城のどこにも人の気配がないことだ。食堂にも誰もおらず美味しそうなパンやスープ、果物にケーキが食卓に並んでいる。


「うわー、朝から豪華だね。料理人がいるのかい?」

「いいや、いつもは魔導具で自動的に作っている。今日は俺が手ずから作ったが」

「へっ!?……この魔王城に使用人は何人いるの?」

「誰もいない。用があれば幹部は訪ねてくるが、今は結界を張っているから誰も来れない。俺の結界を破れるものはいないから」


 にっこりと綺麗な顔で笑うルークにエリサは言葉を失った。


「こんな広いところ、掃除とか大変じゃないかな?」

「いや、全て魔導具がやってくれる」

「夜などは静か過ぎて怖くないか?」

「いや、静かで落ち着いてよく眠れるよ」


 何ということだろう……エリサと二人きりの隔絶された家で幼少期を過ごしたために、ルークは極度の人嫌いになったのではと心配になる。


「……! 魔王様の仕事はどうやっているんだ? 幹部との会議とか国の運営とか……」

「念話での報告で事足りる。サリー。国は仕組みさえしっかりしていたら自動的に回っていくものなんだ。そして、圧倒的な力さえあれば大抵のことは何とでもなる」


 エリサはまた言葉を失った。何ということだろう……ルークのことは知っているようで知らなかったのかもしれない。結界の外に出ればその魅力的な外見と人当たりの良い性格で多くの人々に囲まれ過ごすと思っていた。


「それなら、報告を聞く以外の時は何をしているんだ?」

「……そうだな。魔導具をつくったり、世界中の書物を読み漁ったり、外に出向いて遺跡の探索をしたりもしている」


 考えるように長い指で顎を触りながらルークは答えた。何ということだ……私のひとりぼっち属性がルークにも移ってしまっている。


「……ずっと一人だとそれは寂しくないか?」


 エリサの複雑な視線に気付き、ルークはちらりとこちらを見て、悪戯っぽく笑うと言った。


「それなら、これからは全て付き合ってくれ。俺の側付きになったのだから」


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