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時の魔法使いは眠りたい〜魔王や覇王や勇者になった弟子たちに執着されて眠れません〜  作者: 光流
第二章 魔法使いと魔王

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23  花園の誓い

「虚無の力とはなんだよ!」

『触れると消える。無になるんだ』

「はあ!?」


 死者から少し距離をとりエリサはクウヤの居る場所も含めて結界を張った。


(どうしよう……虚無の魔法を使うと消耗が激しい。また、眠る訳にはいかない)


 目を閉じたまま無表情で能面のようであった死者が突然かっと目を見開いた。真っ赤な目が徐々に黒くどこまでも続く闇の底のように変わっていく。


「アアアアアア………ァァァァァァ……ナ……ナゼ…………オマエ……ォマエ……イル……………」


 地の底から響くようなおどろおどろしい声が聞こえ、クウヤも黒猫のエリサも全身の毛を逆立てる。


「ァァァァァァ………オ………………オ……マエ…………ダケ…………ナ………………ゼ……………………ユ………ル……サ……ナイ……」


 死者はこちらに突進してくる。エリサの結界は死者にぶつかると消え失せてしまった。何故かクウヤに集中的に攻撃を仕掛ける死者からかばうために、振り回される大刀の間を縫うようにエリサは跳躍し魔力弾を当てながら邪魔をする。


 黒猫の助けもありクウヤも紙一重で避け続けていたが、着地した足元の岩が崩れ体勢を崩した。目の前に迫る死者に一瞬で覚悟を決めた顔をしたクウヤは拳を握りしめた。


「うおおおおおおー」


 クウヤの瞳が黄金色に変わる。死者の顔面に拳が叩き込まれた瞬間、エリサはクウヤが消え失せるのではないかと呼吸が止まった。と、黄金色の光があたりを包み目を見開くと死者の顔面が霧散していた。


(ああ、よかった!! ……どうやらクウヤの魔力は虚無に対してなぜか効果があるようだ)


 顔の無くなった死者は、それでも動き続け全身にも幾つもの目が現れた。がらんどうのようなその目は闇よりも暗い何かを映し出していた。


「消えろーーー!!」


 大刀を持ちそのまま斬りかかろうとする死者に向かってクウヤは殴打を重ねていく。エリサも目眩ましになればと思い魔力弾を絶え間なくぶつけ続ける。虚無の力が弱まったのか死者に当たりだし、動きは鈍くなっていった。そこに援護射撃のように紅い不死鳥が死者の上に舞い降りるとそのまま鮮烈に灼き尽くし始めた。エリサはすぐ後ろに立つ人の気配に首を向けると唐突にすくい上げられ手のひらの中に閉じ込められた。


「ああ……香りがする」

「……みゃあ」


 後ろにいたのはカレンだった。その手のひらの中で辺りをうかがうと、目の前の死者は燃え上がりながらも藻掻いていたが、やがて動きをとめ塵となり消え失せた。そして、大地にうごめく死者たちも唐突に動きを止めたかと思うと次の瞬間にちりになった。


「にー」


 エリサはこの事態が終息したことに安堵あんどしながらも亡骸なきがらさえ残らなかった人々に胸が痛む。


 力を出し尽くしたのかクウヤはその場に崩れ落ちた。手のひらから抜け出し駆け寄ろうとした黒猫のエリサであったが、カレンは手のひらの中に仔猫を閉じ込め転移した。


 カレンが魔法で灯りをともすとあたり一面、白い小さな花の咲く花畑が現れる。どの場所だろうか。魔法で位置を探ると砦からそれほど遠くない東漣国内の場所であるようだった。カレンは野原に転がる岩の上にハンカチを敷いた。そっとその上に黒猫のエリサは降ろされる。


「強引にしてすまない……」

「にゃー」


(そうだよ。ちょっといつも勢いが凄くて怖いんだよー)


 少しの不満を込めて鳴くと、伝わったかのようにカレンは眉根を下げその美しい顔に情けない表情を浮かべた。


「君から私の大切な人の香りがしてどうしても離れられなかったんだ」

「にゃっ!?」

『どうしよう!? 私の体臭かな? リュブス』

『いや、お前からは特定出来るほどの匂いがするとは思えんが。我のような狼を超える鼻の機能をその女は備えているというのか!?』


 カレンは岩の上にちょこんと座り込んだ黒猫のエリサの前にひざまずく。大刀を背中に帯びたカレンは騎士のようだ。厳粛な表情を浮かべ黒猫を眺めている。


「馬鹿なことをしていると君は思うかもしれない。君は私の思うあの方ではないかもしれない。自己満足に過ぎないとわらってくれ」

「にゃー?」


 エリサは首を傾げた。


「今回の後始末のために暫く国に戻らないといけない。その前にどうしても君に言っておきたいことがあるんだ。私ごときが君をわずらわせてすまない。君のおかげで今の私がある」


 カレンは、大真面目に黒猫を見つめると真摯に語りかけてくる。エリサは居心地が悪くなり身動みじろぎをする。


「何も君に望むつもりはない。君に要求するつもりはないんだ。むしろ君の望むことを私の全てを使って叶えたい。……ああ……これも君に望んでいると言えるのか。何一つ負担になりたくないんだ」

「にー……」


(この子は何を言っているんだ。幼い頃から感じなくていい恩を私に感じてしまって可哀想に)


「君が幸せに生きること……それだけが私の望みだ。置いていかれないように私は強くなった。……だから側に居ることをどうか許してくれ」


 風が強く吹き小さな白い花弁が辺りに舞い散る。壊れ物のように恐る恐る黒猫の前脚をとったカレンはおごそかな面持ちでそっと唇をそこに落とした。


「……にゃー」

(君が立派な大人になってくれているだけで嬉しいよ。それだけで良いんだ。何の責任も君にはない。自由になってくれと言ったんだ……)


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