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時の魔法使いは眠りたい〜魔王や覇王や勇者になった弟子たちに執着されて眠れません〜  作者: 光流
第二章 魔法使いと魔王

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20 死者の行進

 東漣国と西遊国の国境の狭間に設けられた砦の国境警備隊隊長のラムザはこれまでにない事態に動揺を隠せなかった。ラムザは傭兵上がりで魔法も使える腕一本でのし上がってきた兵士である。権力欲はそれほどなく、飯が食えれば良いと思って東漣国の兵士になったは良いが七年前に政変が起き、あれよあれよと言う間にラムザは警備隊隊長までに出世してしまったのだった。


 国境の警備隊といってもそれほど大した仕事はない。東漣国は数多くの魔法使いを有し、腐敗に塗れていた上層部を粛清した紅蓮の覇王と呼ばれる新たな王は圧倒的な魔力を有しているという。そんな国に歯向かう周辺国はなく、国境も穏やかなものだった。


 その変事の兆候は始めは小さなことだった。西方の定期的に来る行商人が来なくなったということや、物や食糧が市場に売られている量がこれまでより少なくなったというような。


 それから西方におかしな噂が出回るようになった。埋葬をするはずだった死体がなくなったという話や、山の中で死者の行進する姿を見たというようなことだった。


 ある夜更けのことだった。国境の見張り塔にいた新兵がある光景を目にしラムザに息せき切って報告を上げてきた。多くの人間が避難してきたというのだった。


 西遊国の兵士たちに守られた集団が数百人単位で続々と向かってきている。兵士も数多くいるため、すんなり通す訳にはいかない。


 ラムザは直ぐに砦の関所に出向いた。ラムザの守る国境は周囲が切り立った山に囲まれて居るため、その砦を通らぬ限り越境することはできない。大きな壁を張り巡らした砦の一箇所に設けた関所を出るとそこには疲弊しきった兵士や人々があちこちでうずくまっていた。


 ラムザの姿を目に止めたのだろう。西遊国の兵士の責任者らしき男が兵士を引き連れながら近寄ってくる。


「責任者の方ですか? 私は西遊国の第六師団第三歩兵部隊隊長のシモンと言います」

「ああ。ラムザという。ここの国境警備隊の隊長だ。この状況はどうしたことなんだ!?」

「死者が……死者の大軍に襲われたのです。我々の軍隊の本隊がまだ食い止めていますが、とんでもない数なのです。国は国民に避難命令を出しました。我々は避難を補助している部隊です。お願いします。これから逃げて来る人々を受け入れてもらえませんか。我々はこれからまた本隊と合流しに戻ります」


 シモンは顔面蒼白で目も血走っており尋常ではない様子であった。


「死者の大軍!? 魔物なのか!?」

「分かりません。あれは斬りつけても頭を潰しても止まりません。焼き払うしかない。我々が有している魔法使いの数は多くない。各国に救援を求めたと聞いています。我々では、あの数は少しの間食い止めるので精一杯です。あれは夜に早く動きます。この場所も安全ではない」


 話をしている間にまだ多くの人々が避難して来ている。皆、国境にたどり着くと息も絶え絶えと言った有り様で、中に入れてくださいと恐怖に震えながら懇願している。


「東漣国に報告をあげる。悪いがそれまではここで待っていてくれ」


 ラムザはそう言うと遠隔の通信が行える魔導具のある隊長室へ向かった。


「どうしますか?」

「ああ? 状況を把握する必要がある。国の許可なく難民を勝手に通す訳にはいかねえ」


 副官のナリマツが聞いてくるがラムザは髪の毛を無意識にくしゃくしゃにかき混ぜながら答えた。


「隊長!! 今すぐ来てください!!」


 と、見張り塔の兵から今にも死にそうな声音で縋りつかれる。


「なんだ!? これから国へ報告があるんだ」

「は、は、早く! 見てください」


 その新兵はかたかたと手を震わせ涙目になっている。


「分かった。報告はお前が上げとけ」


 ナリマツに報告を任せ、新兵と共に見張り塔に向かう。ようやく夜が明け始め地平線は白み始めていた。そこに映る光景にラムザは息を飲んだ。地平線にうごめく蟻のような黒い小さな点の連なり。徐々に辺りに光が満ちていくにつれ、それが地平線から押し寄せる人間のような何かの群れだということが分かった。


「……あ、あれは何ですか!?」


 新兵は涙声ではなく既に泣いている。この国境は暇なこともあり、訓練場として新兵が多く配属されていた。ラムザが隊長になれる位である。戦場で戦ったことがある者もそう多くはない。幸い魔法使いは複数人配置されているが、もしあれが例のナニカであれば焼け石に水に過ぎないだろう。


「今すぐ避難民を受け入れろ!!」


 ラムザは叫び声を上げた。



 シモンと共に見張り塔の上から地平線を眺める。この状況であればシモンは本隊との合流は無理だろう。船や転移魔法で逃げた者もいるだろうが、地平線を埋め尽くす死者の群れはどれほどの人々が犠牲になったのだろうと暗澹あんたんたる思いがする。その群れは意外なほどゆっくりと進んでいるようである。


「日中はあれらはそれほど早くは動かない。だが夜になると何倍もの速さで動きます」

「そうか……日のある内に魔法使いたちを出陣させて焼き払えないだろうか」

「昼夜関係なくある距離まで近付くとあの中で特殊な個体が魔力を持つ者目掛けて襲いかかってきます。その個体の戦闘力は高く、我々の有する魔法使いたちも多くが犠牲となりました」


 ラムザは国に救援要請を出し、状況を報告すると応援が到着するまでこの砦の守備を任された。この砦にはラムザのような高い戦闘力を有する者は数十名、魔法使いは十数名、新兵が百名程度である。国の救援が来るまでにどれほどの時を稼ぐことが出来るだろうか。ラムザは戦にも慣れており四十も過ぎ一人がしょうにあっているのでこの歳まで独り身だ。いつか戦で死ぬ覚悟もあるが、先ほどの涙を流していた新兵の様子を思い口の中が苦く感じる。


「色々と情報をくれ。この場所は砦になるくらい防御に優れている。あれをやすやすと国に入れる訳にはいかねえ。ここで食い止める」


 あれが死者だというのであれば、犠牲者が増えれば増えるほど相手は増強されていくということだ。


「明日の朝日が拝めたら良いな」


 ラムザは天に高く上る日を目を細めて見つめ一人呟いた。

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