19 疑惑と尋問
(二人とも立派になって……って物凄い無表情なのに穴の空くほどに見つめられるのは本当に怖い)
何とかサリーの変装魔法はばれずに無効化されないようにすることが出来た。だが、今の自分はすごく怪しいだろう。
『リュプス……どうしよう』
『しらばっくれろ。怪しくても誤魔化せ。正体がばれると世界が破滅する確率が上がる』
「……あー。迷ってしまったんだ。この城は広くて……ごめんなさい」
「サリー」
戸惑ったような顔をしながらカレンは屈み込むとエリサを抱き起こしてくれる。
「なぜ透明化の魔法など使っているんだ」
「魔王軍の合格者たちと魔王城広場に転移するはずだったんだけど、中に転移してしまって……。危険な場所もあると聞いていたので怖くて……。」
「そうか。サリー。可哀想に。……あー……という訳でこの娘とは知らぬ仲ではない。間者と疑われる行動を取ってしまったことも分かっているが、彼女は私に任せてくれないだろうか?」
「その者は魔王軍の合格者と言っている。調べるのであればこちらでやる」
「いやいや。私に任せてくれ。まだ少女のような年頃だ。魔王軍の取り調べなど可哀想すぎる」
「……間者というならば貴方の国が一番怪しいのではないか? 魔王軍の合格者であれば、もう魔国の国民だ。勝手に拉致されては困る」
何故か二人の間で言い争いが発生してしまっている。エリサはカレンの腕の中で藻掻きながら何とか言葉を絞り出した。
「とりあえず、この拘束魔法を解いてくれないかな?」
(なぜ、こんなことになったんだろう……)
エリサはルークとカレンに左右を挟まれ席につかされている。何故かどこかから取り出したお茶と菓子が目の前の席には置かれている。そう、ルークが魔法で準備したのである。エリサはごくりと緊張で唾を飲みこんだ。手を付けることの出来る心境ではない。
『リュプス……何だか待遇が良いような気がする……これはまずい事態じゃないかな?』
『ああ……疑われているな。今のお前は見かけも年頃もエリサとそれほど大きく変わらない。オスに擬態するべきだったな』
リュプスに淡々と言われ完璧な変装だと自負していたエリサは憤慨する。リュプスは狼だから人の顔のつくりはよく分からないのだ。それにそう思っていたなら潜入する前に言うべきではないだろうか。
「サリーと言ったか……君はどこの国から来たんだ?」
魔王であるルーク直々に尋問される事態になるなどおかしくはないだろうか……。
『リュプス。どうしよう……。最近の情勢を把握していないよ』
『遠方の小国の一つウィルグラードの出身にしろ。あそこは小国ながら魔法使いが多く出る』
「ウィルグラードの出身なんだ。一旗あげたくて……」
『待て。聞かれていない余計なことは言うな』
「ふーん……サリー……サリーね」
ルークの黒い仮面の奥にあの輝く黄金色の瞳が隠されているのだろう。なぜ、あんなに綺麗な瞳を隠しているのだろう。
「君はなぜ仮面をつけているの?」
思っていることがぽろりと口から出てしまった。驚いたようにルークはこちらを見つめる。
「魔王の瞳は魔獣や魔人などの闇の精霊の力を借りる者たちに大きく影響を及ぼすからだ。例えば私が目を見つめ死ねと言うとその通りになる」
「それは知らなかった。そんなことを私も居る前で言って良かったのか?」
「ああ。特に隠している訳では無い」
ルークの説明にカレンが口を挟むが特に関心も無さそうに答える。
「サリー。君が信頼出来るかどうかは側で観察して判断しよう。私の側付きにする」
「なっ!? 駄目だ!! 何を言っている! こんな幼気けな少女を弄ぶつもりか!?」
「そちらが何を言っている。言葉通り監視のためだ。貴方には魔国のことに口出しする権利はない」
「なんだと!? そもそも東漣国に口出ししているのはそちらだろう!?」
また言い争いが始まってしまった。だが、ルークの側に居られるのは世界の危機を防止するのに都合が良い。エリサは咳払いをし二人の注意を集め言い争いを止めた。
「私は魔王軍に入ったんだよ。魔王様に従います」
「……サリー」
衝撃を受けたようにカレンは引き攣った顔をエリサに向ける。と、リュプスが念話で緊迫した声を上げた。
『エリサ。虚無の欠片が現れた。それも無数に』
それと同時にルークとカレンもそれぞれ何者からか魔法で連絡が来たようである。
「西方の西遊国からの緊急救援の要請が来た。死者の大軍に襲われているらしい。魔王よ。貴様のせいではないのか?」
「こちらにもその情報が届いている。西方の不穏な動きは気になっていた」
『おそらくその死者の大軍が虚無の欠片に関連しているようだ……世界の危機だ』
(世界の危機は魔王……ルークと関係しているのではなかったのか? あっちもこっちも世界の危機が起きるなんて私には身体は一つしかないのに)
「それでも行かなければ」
ルークとカレンはエリサにこのままここに居るようにと言いおいて何処かへと向かった。何故か二人とも強力な結界魔法と封印の魔法を部屋にかけていった。エリサが危険な猛獣か何かのようである。
『リュプス。世界の危機ならばルークのことは一旦置いておいて行かなければ』
『ああ。そうだな。だが、力を使い過ぎ眠りが必要にならないようにしろ。どうやら世界の危機はあまた起きる可能性がある』
(……起きたばかりで過重労働すぎやしないだろうか)