表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時の魔法使いは眠りたい〜魔王や覇王や勇者になった弟子たちに執着されて眠れません〜  作者: 光流
第一章 魔法使いと弟子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/54

2 闇の精霊の愛し子

「……エリサ。お願いですから何もしないで」


 エリサは、消し炭のようになったスープを前に項垂うなだれる。料理は数百年ぶりなのだ。それに、元々せっかちでもあったので、魔法でついつい火力の勢いを強くしすぎてしまったのだった。餓死寸前まで放置してしまったルークに詫びも兼ねて料理を振る舞ってやろうと思ったのだったが……。


「ごめんよ……料理が久しぶりすぎて」

「……エリサは何年この家にいるの?」

「うーん……覚えていないなぁ……」

「時の魔法使いは何千年も前から存在する伝説だ。……そんな昔から?」

「ああ! それは先代か先々代じゃないかな……時の魔法使いは受け継がれていくものだから……ほとんどの時を寝て過ごしているので、いつからかは忘れてしまったよ」


 エリサはここに来て数百年位のはずだ……たぶん。いつの頃からか時を数えるのをやめてしまった……ほとんど寝ているし。


 ルークは残念なものを見るようにエリサをみやった。


(おかしい。初対面では尊敬の眼差しを向けられていたのに)


「これからは俺が家事を担当するよ。その代わり魔法を教えてもらえないだろうか?」

「魔法か……剣術も教えてあげるよ」


 ちらりとルークを見て言う。ルークの魔力は今でもかなり大きく、潜在的にまだまだ成長の余地はありそうだ……これほどの人間も珍しいだろう。ここに隠れることになったのも縁というものかもしれない。


(魔法でなら尊敬を受けることも出来るだろう)


「エリサ……いえ、師匠。これから、よろしくお願いします」

「うん」


(師匠か……悪くないかもしれない)



「師匠!? 森が……森が燃えている!!」

「……ああ、原状回復の魔法を掛けているので大丈夫だよ……」


(攻撃魔法を使うのも久しぶりで加減を間違えてしまった……)


「自分自身の魔力以外で、こんな風に火の精霊の力を借りると爆発的な威力を発揮するんだ」


 全く想定通りという顔をして、ルークを見やると若干胡乱げにこちらを見ている……。


「さぁ! ルークも真似をしてやってごらんよ。うーんって頼んでぱぁって力を入れるとドーン!ってなるから」

「………………分かった」


 何か言いたげにルークはこちらを見ていたが、やがてため息を付くと魔力を使い炎の魔法を繰り出す。それなりの威力はあるが、周りの枯れ枝を焼いただけで、精霊の力は全く借りることが出来ていない。エリサは目を細めてルークの周囲を注視しあることに気付いた。


「……あれ!? ルーク、君、驚くほど精霊に嫌われてるね? いや、怯えられている?」


 ルークの身体がびくりと震える。エリサはもっと注意して精霊たちを眺める。怯える精霊たちの中、ルークの近くに寄っていく者もいる……ほんの僅かではあるが。


「闇の精霊!? えー!? 久しぶりに見たよ。ルーク、君は闇に愛されし子なんだね!」


 光の精霊のような見かけをしているのにと、ルークを見やると、彼は怯えたようにエリサを見上げている。


「凄いなぁ……初めて会ったよ。これは、成長すれば、私と良い勝負が出来るかもしれないよ」


 滅多に現れることのない闇の精霊をまじまじと見つめる。漆黒の闇を纏ったその姿は、見つめていると吸い込まれ地の底まで落ちていきそうだ。


「……エリサは俺が気持ち悪くないの? 怖くない? 呪われし者だと……」


 上目遣いに伺うように、ルークがおずおずと聞いてくる。


「えーっ。何を言っているんだ。闇の精霊はそもそもとても貴重なんだよ。ましてや、力を貸してもらえる人間なんて数百年に一人出るかどうか……呪われてるなんてとんでもない! 祝福の子供だよ」


 にっこり笑ってエリサは闇の精霊を見つめ、ルークに言った。ルークを見やると黄金色の瞳が雫できらきらと輝き、宝石のような涙が零れ落ちている。


「ど、どうかしたの!? どこか痛いのかな?」


 生命を狙われ、大勢の大人に追いかけられていた時も、餓死寸前だったときも、涙目だったがルークは泣かなかったのに……。


「ううん……とても、嬉しくて。ありがとう、エリサ」


(おや、また見る目が尊敬に近い眼差しになっている……よく分からないが、良しとしよう。存分に崇めたてまつりたまえ)


「闇の精霊は属性が不思議なことに全属性に近い性質をもっている。他の精霊には怖がられてしまって力を借りることができないが、闇の精霊に上手く力を借りることが出来るようになれば、どんな魔法も強い効果を発揮するようになるよ」

「……エリサよりも強くなることができるかな?」


 さっきまで泣いていたのに、もういたずらっぽく笑いながらそんな生意気なことを聞いてくる。


「うーん、私は相当強いから、数百年後には可能性があるかな!」

「俺はそんなに生きられないよ!」


 エリサは自分でふざけて言っておいてルークの返答に少し胸が痛くなる。


(私が少し寝過ごしただけで、この子は私を置いて逝ってしまうのだろう……)


 そう思うと……途端に異様なほど眠気が襲ってくる。


「……うう……ルーク。眠たくなってきたよ」

「ええ!?そんな! お願いだから闇の精霊に力を借りた魔法も見てよ!」


 そのルークの言葉にぱちりと目が見開いた。


「分かった。やってごらんよ。うーんって頼んでぱぁって力を入れるとドーン!ってなるから」

「………………分かった」


 ルークが、祈りを捧げ始めると魔法の魔力が爆発的に大きくなっていく……あっ、と止める間もなく炎の魔法が辺りを覆い尽くし森を灼き尽くていく。


「……森が、森が燃えている」


 エリサは思わず、口から呟きが漏れた。


(原状回復の魔法と他の生物には影響を及ぼさない魔法を掛けていてよかった……)


 ルークはどうやら将来有望な魔法使いになれるだろう……。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ