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時の魔法使いは眠りたい〜魔王や覇王や勇者になった弟子たちに執着されて眠れません〜  作者: 光流
第一章 魔法使いと弟子

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閑話 春の日のお出かけ

 ルークと出会って7年目の春、ルークに初めて外出に誘われた。結界の外への外出である。ルークは緊張した面持ちで一日だけエリサと共に行きたい所があると申し出た。魔法でルークの外見は違う姿に見えるようにできるしエリサには特に断る理由もない。


『という訳で外出するんだ。リュプスもおいでよ。商業の盛んな国カンターべの都市に行くことになったんだ』

『付いていく訳ないだろ……。馬に蹴られる』

『馬はそんなに街中には居ないよ。なに言ってるんだい?』

『昔にあったある国での慣用句なんだ……。お前が何言ってるんだ……。……ポンコツめ』


 何だかぶつぶつと小さく呟いたリュプスは疲れているようで誘いを断られてしまったので、ルークと二人で外出することにする。普段あまり使わないのでいっぱい貯まっているお金を財布に詰め持って行くことにする。


(何でも買ってあげよう。カンターべは市場も大きく色々な物があるだろう)


 張り切っていたエリサだが、ルークはエリサを案内したいという。なんとルークは闇の精霊を使いこなし、結界から出ずとも闇の精霊を人に擬態させ、使いとして用をこなしていたと言うのである。それなら、エリサより街に詳しいかもしれない。


「エリサ。この劇を観たいのです」


 まず連れて行かれた劇場は今話題の歌謡劇であり、大流行した冒険物の本が原作となったもので、エリサはその本を愛読していた。外で買い物することはほとんど無いものの、本だけは定期的にその時代に流行っているものを購入する。唯一といっていいエリサの趣味であった。


「ルークもこの本を好きだったの!? 奇遇だね! ここ数百年でも5本の指に入る面白さだよ!!」

「ええ。エリサと観ることをとても楽しみにしていました」


 劇場では貴賓席に通される。だが不思議なことに他に観客がいないように見える。


「劇なんて観るのは初めてだからよく分からないけど、他に観客はいないの?」

「今日は貸し切りにしたんだ。どうしても二人で観たくて」

「ええ!?」


 お金は大丈夫かい?と財布を出そうとすると、ルークには大丈夫ですと苦笑された。たしかに、闇の精霊に擬態させ街に使いが出せればルークであれば素材を採取し販売する等、稼ぐ手段は事欠かないだろう。


 始まった劇は心躍り手に汗握る展開で瞬く間に時が過ぎた。とても美しい俳優たちであったが、王子役はルークの方がはまり役かもしれないと、気品に溢れた美しい顔立ちを横目で見て思う。


「あーっ面白かった! あっという間に終わってしまったよ。まだまだ観ていたかったな」

「ええ……ずっと眺めていられますね……」


 ルークはエリサを見てにっこりと笑う。


「エリサ。もし、お腹が空いていたら何か食べに行きませんか?」

「うん!いいねー。すごくお腹が空いたよ」

「実はこの先に予約のとれない有名な……」

「あっ!! 市場で出店がいっぱい出ているよ! お祭りかな!? あの串焼きはとても良い匂いがする。買い食いなんてしたことなかったから興味があるよ!」

「良いですね! 食べたい物を全て買いましょう。俺に教えて。エリサ」


 はぐれるといけないからとルークに手を繋ぐことを求められ、まだまだ子供だなと思いながら市場を共に歩く。


「うわっ!あのタレはどんな味だろ!! うーん、すごく甘じょっぱい。美味しい!!」

「エリサ……こぼさないで。服が汚れてしまう。これを使って」


 ハンカチで頬にはねていたらしいタレを拭ってくれて手渡される。


「ありがとう。あっ!!あの飴は中に色んな果物が入っているみたいだね!」


 夢中になってあれこれ見ていると気になった端からルークが購入して手渡してくれる。私が払うよと言っても笑顔で断られる。


(今日は色々と買ってあげようと思っていたのに反対に買ってもらっている……。こんなことなら、ルークがもっと小さい頃に魔法で変装させて色々と街に連れて来てあげれば良かった)


「お腹がいっぱいになったよ」

「ええ。とても美味しかった。エリサの楽しそうな顔も見れてとても良かったです」


 大きな音量で音楽が鳴り響くと、市場の中央の大きな広場で人々が踊り出し始めた。特に決められた踊りではないようで、皆思い思いに楽しそうに踊っている。


「ああ……今日は春を祝うお祭りのようだ。エリサ、踊りますか?」

「えー……踊りには自信がないんだけど」


 悪戯っぽく笑顔を浮かべた楽しそうなルークを見て、踊りたいのであれば付き合ってやらねばと思い、ルークの差し出した手のひらに指を重ねる。


「ふふ……俺に任せて。流れに合わせてください」


 ルークに手を繋がれ腰に回された手に誘導されるまま音楽に合わせて踊る。はじめは戸惑っていたエリサだが、ルークの導きで簡単に音楽に乗れ段々楽しくなってくる。周りの人々も楽しそうに身体を揺らしたりくるくる回ったりして辺りは賑やかな喧騒に満ちている。


「アハハ!! 思ったより楽しいね!」

「ええ……とても楽しい。俺は幸せ者です」


 思う存分踊り疲れ始めた頃に、ルークは休憩出来るところに行きましょうと人目につかない物陰で転移魔法を使った。


「うわっ……」


 目に写った光景にエリサは息を飲んだ。透明な透き通るほど綺麗な湖に白い花々が一面に浮かんでいる。

ルークはエリサを促すと湖に浮かぶ一艘の小舟にエリサの手を引いて乗り込む。


「闇の精霊を使って色々な情報を掴むことができるんです。この場所を見つけてからずっとエリサに見せたかった」

「とても綺麗だ。ありがとう」

「……なかなか言い出せなかったのは、エリサにもう結界の外で生きていけるんじゃないかと言われるのが怖かったんです。……ずっとエリサの側にいてもいいですか?」


 ルークはとても緊張して強張った顔をしている。夕日がルークの黄金の瞳に差し込んできらきらと輝き、やがて暗く陰っていった。


「ルークにはやりたいことがあるんだと思っていたよ」


(木の洞で隠れていた時、何かから逃げているようだった。そして、何かを強く憎んでいる目をしていた)


「エリサと出会ったことで本当の自分を知ったんだ。今は何が自分自身の望みなのかはっきりと分かっている」

「うん。ルークの好きなようにして良いよ。私はルークにはこの頃すごくお世話になってるから申し訳ない位だよ。嫌になったらいつ出ていっても良いからね」

「……嫌になったりなんてしない。ありがとう。エリサ」


(もし、ルークが何かに復讐したいと言っても私はそれに加担しないが邪魔もしない。私の力を君に貸してあげられないことを許してくれ)


「エリサ。今日の記念にこれを貰ってくれませんか?」


 渡されたのは黄金色に輝く石が埋められた銀の指輪である。魔法石も使われて色々な護りの魔法が掛かっており装飾品というよりは魔導具に近い。


「ありがとう! どんどん魔導具製作の腕をあげているね」

「……ええ」


 辺りが暗くなり月や星々の明かりのみとなった時、湖から星々が生まれ出た。驚きに目を凝らすと光り輝く虫が点滅しながら水面を飛び回っているようだ。まるで天井の星々と地上の星々に囲まれ銀河を小舟で旅しているようである。


「とても綺麗だ……今日のこの日は忘れられないよ」

「ええ。けどエリサ。俺は毎日の日々を決して忘れない」


 そう言ってルークは優しく笑った。


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