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時の魔法使いは眠りたい〜魔王や覇王や勇者になった弟子たちに執着されて眠れません〜  作者: 光流
第一章 魔法使いと弟子

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11 虚無との対峙

「皆殺しだって!?」


 エリサは、思わず広間の中心に拘束した人々を集めていくアヤセという司令官の男を見る。


「隷属の首環があるため、国に生殺与奪を握られています。おそらく、権限を委譲されているアヤセが指示を下せばここの皆の首が落ちるかと……」

「ああ、それは大丈夫だよ。さっき、この拠点の人々の首環は無効化したから」

「……えっ」

「それよりも、首が落ちないと分かった後に、戦いになるだろう。カレンはどっちにつくんだ?」


 驚いた顔していたカレンは、エリサの言葉に顔を強張らせた。


「君の好きにしたら良い。だが、私はこういう時は弱い者につくと決めているんだ」


 そう言ってエリサが広間の中央に歩き出そうとした時、大きな笑い声が響いた。カライトが集められた人々の中でとても愉快なものを観ているように笑っている。それは、広間に反響し、緊迫した状況と相まってひどく不気味に思えた。


「アハハハハハ……これまで耐え忍んだ結果がこのような虫けらのように殺される結末だというのですか……」

「黙れ!!」


 アヤセは手を上げ、カライトに向けると魔法を放ったようだった。カチリと音を立てて首環の継ぎ目が外れると、カライトの首環が床に転がる。


「な……何故だ!?」

「ふふふ……勝利の女神はこちらに付いているようですね」


 そう言うとカライトから透明で奇妙な魔力が膨大なうねりを生み出しアヤセと兵士たちに襲いかかった。彼等は空中に吹き飛ばされ、床や壁に叩きつけられる。


『まただ……また、虚無の欠片の気配がする』

『あの、カライトという人が虚無の欠片を使って魔力を生み出しているのか?』

『虚無とは人間が支配できるような存在(もの)ではない』

『だが、どうみても、カライトが特殊な力を操っているように見える』


 カライトは、兵士達を圧倒し魔力で抑え込み制圧しつつあった。


(格好つけて弱い方につくとか言っちゃったけど、これじゃ東漣国の兵側につかないと駄目じゃないか)


 カライトの透明な魔力の一部に揺らぎを感じると、大きな悲鳴が上がった。倒れ込んでいた兵士達の数が明らかに少なくなっている。


『兵士達が消えている!?』

『虚無の欠片の力だ。虚無にのまれた』


「エリサ! 私の後ろにいてください。尋常じゃない魔力が生じています。私は……私の忠誠は貴方に捧げたい! どうか、永遠の忠誠を受け取ってください」


 駆け寄ってきたカレンは、結界を張りながらエリサを背中に庇い、そのようなことを言う。


「えっ……」


 面食らったエリサは、言われた言葉と庇われるという初めての事態にあたふたとするが、今は、取り敢えず目の前の事に集中しようと切り替えた。


「カライトは何者なんだ?」

「彼は私が訓練生だった頃からの講師です。凄腕の魔法使いですが、あんな尋常でない魔力を持った者ではなかった!」


 カライトの魔力はアヤセや周辺の兵士達をあらかた飲み込むと消え失せた。そして、賢者の石も悲鳴のような大きな金属音を立てると真っ二つに割れてしまった。禍々しい力は跡形もなく消え失せている。消え失せてしまった兵士たちに対し、訓練生は何事もなく無事であり一連の出来事に対処できずに途方に暮れて呆然と立ち竦む者が多くなっている。


 カライトは、広間の兵士を一掃すると転移魔法で姿を消した。エリサも慌てて後を追うために転移魔法を使う。カレンもエリサの身体に触れ、転移魔法を使い付いてくる。


 カライトが佇むのは、拠点からさほど離れていない森の中の開けた草地のような場所だった。現れたエリサたちを待っていたかのように微笑みを浮かべている。


「貴方がここに来たのは巡り合わせのように感じますね」


 カライトは、上機嫌に挨拶をするようにエリサに向けて話す。


「どういう意味かな?」

「貴方は覚えていないでしょう。私の子供の頃に故郷が魔獣達の群れに襲われた時に、助けられたことがあったのです。時の魔法使いよ」

「……そう。その力はどこで得たんだ?」

「ずっと、東漣国の在りようには憤りを覚えていました。だが、ちっぽけな一人の人間に逆らう力などはありはしない。そう諦めていた時に声が聞こえ始めたのです。力を与えると」


『あり得ない!! 虚無の欠片が……虚無が意志を持つなどということはない……』


 リュプスからの念話では直ちに否定の声が届く。


「人々が消えていたのは貴方の仕業か?」

「そうです。この力を維持するには虚無に力となるものを供物に捧げる必要があった……彼等は残念ながら既に国の傀儡となってしまった者達でした」

「これからどうするつもりだ?」

「東漣国の首都に行き、主座を手始めに中枢の者共を供物として捧げます。そして、世界が変わらなければ全てを虚無に還してしまおうかと……」

「カライト先生」


 カレンが思わずと言ったように、カライトの名前を呼ぶ。カライトは初めて気付いたというようにカレンの顔をまじまじと眺めた。


「ああ……あなたでしたか。最年少で戦場へ出向くことになった紅蓮の少女と呼ばれたあなたをどれだけ心配したか……生き残ってくれていて良かった」


 全てを虚無に還すと言った口の根も乾かぬ内に、慈悲深い微笑みを浮かべそのようなことを言う。エリサは、カライト自身には矛盾はないようである有り様を見て、ぞっとする思いをした。


「ああ……もし、私を止めることが出来るのならば、それはあなた達しかいない。どうぞ、思う存分に力を奮ってください」


 そう言うとカライトは、その奇妙な魔力をエリサたちに向けたのだった。



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