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引き続きアーノルド視点
「いいなと思う人……?」
学園で会った生徒の顔が浮かんだ。
「いや違う」
「違うって何が?」
「いや、だから……結婚とかそういう話じゃなくて、続きを聞いてくれよ。とにかく、学園に指導にいって、2時限目が終わり、少し休憩を取った後のことだ。3時限目の授業のため訓練所へと向かうときに、声が聞こえたんだ」
忘れたくても忘れられない、お義姉様の声。
5歳から15歳までの10年間。母親代わりにずっとそばにいてくれたお義姉様の声を、忘れるわけがない。
歓声が沸き上がる中、よく一人の声だけを聞きわけられたなと自分でも思う。
いいや、聞き分けたというより……お義姉様の声だけがはっきりと耳に届いたのだ。不思議なことに。
まさかと思った。
まさかと思ったけれど……。
騎士団長になった私の噂を聞いて、見に来てくれたんじゃないかと思った。
お義姉様の声だ。
聞き間違えるはずがない!
と、確信したんだ。……確信したのに。
「道を開けてもらい、声の主を探した。そうしたら……そこに、あったころの……若い……いや、まだ幼さの残るお義姉様の姿があったんだ」
「いやいや、だから、わけがわからないって。お義姉様、今年37歳よ?別れた時の25歳でさえ、幼さが残るって感じではなかったわよ?幼さの残るお義姉様って、どういうことよ?」
妹の言葉にうんと頷く。
「いや、そうなんだ。私もわけがわからないんだ。だけど、どう見ても、あれはお義姉様だ。お義姉様なんだ……」
妹が首を傾げた。
「学園にいたということは、学園の先生なの?」
「いや、制服を着ていた」
「じゃぁ、まぎれもなくお義姉様じゃないじゃない!生徒っていうことは、15歳とかいう年齢でしょ?若く見えるとかそういう問題じゃないわよっ!ってか、むしろお義姉様の娘って言われた方が納得できるわ!」
「いや、それはないだろう。一瞬私もその可能性を考えたが、お義姉様が嫁いでいったのが12年前。学園の入学年齢は15歳だ。1年生だとしても15歳、計算が合わない」
妹がため息を漏らす。
「何言ってんの。年齢詐称なんて普通のことでしょう?お兄様も言っていたじゃない。皇太子殿下の入学の年の生徒は15歳には見えない者が多くて困るって」
ああ言った。確かに。15歳とは思えない、まだ全然できていない体の子に、同じように剣を振る課題を課すのも心が痛むし、どう見ても17,8位の者と12,3位の者では体格差がありすぎて対戦させるのも心が痛んだ。




