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★騎士団長アーノルド視点★
「アーノルドお兄様、何を言っているのかさっぱりわかりませんわ」
双子の妹の元へと駆け込んだのは、仕事が終わってすぐのことだ。
子爵婦人となり、3人の子供を持つ親となる27歳の妹。
「いや、だから、お義姉様がいた!何を言っているか自分でもわからないけれど、あの頃の……初めてあったころのお義姉様がいたんだ!」
「うん、だから、言っていることが分かりません。もうちょっと落ち着いて初めから話してもらえません?」
妹にたしなめられ、深呼吸を2回して気持ちを抑える。
「今日は、年に3度ある学園への剣術指導にむかったんだ」
「そうなのね。また女生徒たちの注目の的だったんでしょうね。もう、いい加減身を固めたら?私たちの面倒を見ていたせいで、お義姉様が行き遅れてしまったのとは違って、お兄様の場合は結婚に何の支障もないというのに……」
妹がはぁーと深いため息を漏らす。
「……ああ、お義姉様には申し訳ないことをした……。私たち二人がお義姉様と離れたくないという我儘で……15歳になるまで引き留めてしまった……。」
「そうね。気が付けば25歳と行き遅れと皆に揶揄される年齢になっていましたわね……。お義姉様の幸せを私たちが奪ってしまったと焦って、お義父様に結婚相手を探してもらったんだったわ……その相手がまさかおあんなに年の離れた辺境伯だとは……今でもお義父様は許せませんわ!」
妹が思い出して怒り始めた。
「……そうだね。お義姉様ならもっと素敵な人がいただろうに……幸せになってくれていればいいけれど……。辺境伯はもう何年も前に亡くなっているけど、どうしているんだろうね。お義姉様……」
「そうね……」
別れるのが辛くて辛くて、わざと嫌われるような言葉を妹と二人でお義姉様に投げつけて別れた。
そうしなければ、泣いて行かないでくれと引き留めてしまいそうだったから。
だから、縁を切るような別れ方になってしまい手紙のやり取りすらできなかった。
王都の社交界とのつながりが薄い辺境伯だけに、噂もあまり耳にしなかった。辺境伯がなくなった時と、跡を継いだ息子が学園に入学した時くらいだ。話が入ってきたのは。
嫁いだお義姉様がその後どのように生活しているかという情報は耳にすることがなかった。
「で、とにかく、お兄様もそろそろ身を固めなさいよ。27よ?27。誰かいいなと思う人はいないわけ?どんな人が好みなの?」




