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「すぐに、戻って確認だ」
「馬には乗るなと皆に伝えるんだ。念のため全ての馬の確認。手綱、鐙、蹄鉄、全てだ!」
すぐに動き出した騎士たちとは別に、騎士団長はこちらを向いたまま動きを止めている。
なるほど。騎士団長はどっしり構えることで周りの人間を焦らせないとかそういうこと?もうすでに周りの人間が動いているから指示を出すまでもないということ?
それとも……私を見て、何か感づいたのか……。
「アーノルド様、授業開始までに確認は難しいでしょう、どういたしますか?」
部下に声をかけられ、騎士団長がはっと顎を上げて部下の顔を見た。
「騎馬訓練は日を改めよう。学園側にはそのように伝えるよう。それから殿下からの伝言ということだ。一度殿下に詳しい話を聞いてくる。跡をまかせる」
騎士団長の声を聞きながらその場を離れる。
心臓はもう、バクバクで。
アーノルド様と呼ばれていた。
麗しのアーノルド様と言われるだけのことはある。
良く鍛え上げられた体だというのは服の上からも伝わる。
つややかな髪に意思の強そうな光を宿す目。
ああ、今すぐ抱き着きたい衝動を抑えるのがやっとだ。
よくぞ、飛びつかずに堪えた、私。
アーノルド……!
私の可愛い義弟!あんなにも立派になって!
伯爵家の血が流れていないから、将来的に爵位は継ぐことはできないから、どうするのだろうと思っていたけれど。
騎士になり、騎士爵を賜り、それどころか……騎士団長になっていたなんて!
立派になって。
お義母さんは嬉しいです……じゃないや。5歳から面倒をみていたけれど、子供じゃなかった。お義姉さんは嬉しいです。
そう、義姉です、義姉。
あー、びっくりした。
すっかり大人だった。最後に見たのが15歳の時で……今はもう27歳かぁ。
って、27歳なのに、独身なの?
あんなに立派になってるのに、なんで、まだ、独身?
……こ、これは。
もしかして、青薔薇会のリストが、アーノルドにも役に立つのでは?もう少し独身女性の年齢幅を広げてもらいましょう。
レーゼレーラ様に頼んで。あと、騎士爵は貴族ではなくて大商人の娘と縁づく場合も多いのよね。その辺も出入りの商人からの情報強化してもらわきゃ。
余計なおせっかいかもしれませんが、アーノルドに幸せな結婚をしてもらいたいもの!リストができたら、こそっとリストを届けようかしら。手紙を書く?それとも、直接話をしてみる?
いえいえ、待って!今の私の立場は、アーノルドの義姉じゃなくて、前辺境伯の弟の娘で、養女。
いうなれば、赤の他人。いや、違うな。えーっと、養女ということは、義理の母親が、私でしょ。ん?ややこしいぞ。
えーっと、血のつながりは全くないけど、家系図的には、姪?義理の姪になるのかな???
よし。他人じゃないよ。直接話をしても不自然ではない。
私の義理の母親……あなたの義姉のシャリアから頼まれたとかなんとか言うのもあり?
いや、でも、迷惑かな……。小姑がいると結婚にさし触ると言われたんだもんね……。やっぱりこっそり……。
うーん、こっそり……リストだけ届ける方が、怪しくない?




