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とはいえ、さすがに……騎士団追放と除籍まではいいとして。投獄された上に不敬罪追加って死刑よねぇ。かわいそうよねぇ。辺境伯令嬢傷害罪は無しでいいと殿下にあとで伝えてあげましょ。ただし、二度と女性に手を上げないこと。あんな長身の男性に手を上げられたら普通の女子はトラウマで男性恐怖症になっちゃうわ!
生徒会室と剣術訓練所は逆方向だと言っていた。どれくらい時間をロスしたのか。
馬には乗ってはいけないと伝えないと。
三限目が始まるまであと何分?
急いで訓練所の近くまで行くと、ほぼ全校生徒なんじゃないかという人数の生徒が訓練所を取り囲んでいた。
それも訓練所へ入る出入り口付近が特に密集している。
「きゃぁー!いらしたわよ!」
「え?どこ、どこ?」
「ほら、あちらよ!あちらに騎士団長様が!」
「ああ、なんて麗しい!」
出入口付近に密集している女生徒たちから悲鳴があがる。
始まるんだ。
もしかして授業の開始前に足慣らしとして馬に乗るかもしれない。今は……生徒たちの頭から飛び出した姿は見えていないから馬には乗っていないのだろう。
馬に乗っていれば、いくら背が低くて、人並みで全く前の様子が見えないと言っても、馬の頭や馬にのった騎士団長の姿が見えるはずだ。
ぴょんこぴょんこジャンプして騎士団長の姿を見ようとしたけれど、全然見えない。
うーん、身長の差がっ。
女生徒たちをかき分けて前に出ようとしても、あっという間にひょこんっと気が付けば後ろに戻されてしまう。
ええええ?
みんなどういう技を使って前に進んでいるの?
ど、どうしよう。
「騎士団長様~!お話があります!騎士団長様ーっ!」
とりあえず大声を出してみる。
「きゃぁ!騎士団長様がこちらを見たわ!」
「やだ、どうしよう、こちらに歩いてくるわ」
え?マジで?チャンス。
「騎士団長様、大切なお話が!」
もう一度声を上げる。
「通してくれ。頼む、ここを通してくれ」
ん?
「はいっ、騎士団長様っ」
私の目の前がぱかりと開いて道が出来た。
その正面に騎士団の青い制服に身を包んだ一人の青年の姿がある。他の騎士と違い、金糸の刺繍が施されたもので、すぐに特別なものだと分かった。
「どうなさったのでしょう騎士団長様。横道にそれるなんて」
「話があると言ったのは君……か?」
騎士団長らしき人物が割れた人並みの間から真っすぐにこちらに歩いてきた。
こんなにたくさんの人がいて、口々に声を上げているなか、良く私の声が届いたな……と思うけど。
そんなことより、動悸が止まらない。
心臓のバクバクが……。
騎士団長の顔を見たとたんに、激しく心臓が高鳴る。
って、だめだめ。あんまり顔をじっくり見ている暇はなかったんだわ。
「何者かが落馬するよう馬に細工をした可能性があると……えーっと、殿下からの伝言ですっ。今一度馬具などの確認を」
私の言葉に、ざわざわと周りにいた騎士たちがざわついた。




